星型エンジン



 ただいまーっと。


「見てくださいお姉さん!」

「自信作ですあるじ様!」


 そういって見せられたエンジン設計図。それは5か所のピストンが軸を囲んで星形に配置された、星型スターエンジンであった。

 すげー、基礎は教えたけど星型エンジン開発しちゃったよこの二人。地球においてはレシプロ飛行機とかで使われたエンジンである。


「1個のピストンでは最大もしくは最小からスタートしたときに回転し始めがどちらになるか分からなそうだったので、複数ピストンを配置して意図的に均衡を崩せたら解決するのではないかと」

「そこに私が流星の意匠を提案して、この形となりました!」


 図面を見るに、ちゃんと作ればガチで動くものが出来そうである。

 こういうのは精度が悪いと動かなかったりするが、私が空間魔法で加工するのであればそこも問題ない。

 つまり、これは完璧にエンジンの図面であるということだ。


「それぞれが引っ張りあうことでピストンも双方向に動く必要はなく、それぞれは片方だけに動けば良いとなりまして……理論上はゴブリンの魔石ひとつでも動きます。これでどのくらいの速さかとかは分からないですが」


 しかも基本的なピストンしかしない魔道具なので燃費も相当に良いだろう。回転の魔道具って出力トルク上げるには相当エネルギー使うんだよね。


「……実物を試したくてうずうずしてる顔だねぇ?」

「はい! お願いしますカリーナお姉さん!」


 いいとも、可愛い子のお願いには弱いカリーナちゃんだ。

 早速模型を作ろうじゃないの。えーい空間魔法工作。ちょわー!


「木製模型だけど、こんなとこかな。魔法陣の回路も印刷っと」

「おお、お姉さん仕事が早いです!」

「さすがはあるじ様です!」

「じゃあゴブリンの魔石をセットしてみるよ」


 5本のピストンを連結したひとつの魔道具。そこに足の小指の爪程の小さな魔石をおいてみる。いわゆるクズ魔石と呼ばれる小さなものだったが、それでも問題なく軸棒が、ぐるぐると回りだした。


「……ホントに動いた! 回った!」

「やりましたねディア様! 私たちの勝利ですよ!」


 何と戦っていたのかは分からないが。ディア君とアイシアはハイタッチで歓びを現した。おねーさんも混ぜて? いえーい。


 というか、思いのほか力強い回転である。試しに棒を握ってみるが、かなり力を入れて握って踏ん張って、ようやく止まった。クズ魔石ひとつでこれほどの回転速度とトルクが出せるのか。……あれ、革命的じゃね?


「あ……今バキって音しましたね。ピストンが壊れましたか?」

「む。木だと細いところが出力に耐えられないほどか。凄いな」


 一応トレントだったんだけどなぁ。うーん、こうなるともっと強い素材で作りたくなる。

 私は石で作り直す。自然石なら木よりは頑丈だろう。粘りとかそういうのが欲しいので金属で作りたいところだが、今はこれで良い。

 同様に動かして、握って止めてみる――やはりかなり力を入れてようやく止まった。今度は壊れていない。


「下手すれば手の皮が剥けるなこれ。すごいパワーだ」

「ホントですね。大成功といっていいでしょう」


 しかもこれ、さらに星形の5つを2個3個と重ねてやれば、単純にそれだけでパワーが増す。ギアをかませてやれば、相当な速さの回転が得られるに違いない。



 ……って、ダミーの魔道具を作るだけでよかったのに、なんでガチでエンジン開発しちゃってるんだろう私達は!?


「ちなみに荷車の内部に仕込むそれらしい魔法陣も考えました。回転を増幅させるような意味を持たせた魔法陣です。増幅を八連結しているので、相当早くても誤魔化せるかと。本職には流石に通じるか分かりませんが……」

「ここ、ここのあたり私の提案で風と火の意匠なんですよ!」


 あー、エンジン本体だけじゃなく荷車内部の偽装魔法陣まで!

 私が出かけてたの半日もしてないはずなのに仕事完璧かよぉ!!


 くっ、これもそれもディア君達が思ってた以上に優秀だからだっ! そして可愛い!

 これは二人にご褒美をあげなければなるまい……!



「よし、じゃあ二人に特別なお菓子を作ってあげよう……今日はホットケーキパーティーだ!」

「わぁ、お姉さんお菓子も作れるんですか? 楽しみです!」

「あるじ様、ありがとうございます!」


 尚、星形エンジンの模型はちょっと手直ししてミキサーとなり、ホットケーキミックスをかき混ぜるのにとても役立った。




 ……箱にホットケーキミックスの成分表があったから、これを参考にすれば自分でも作れるようになるかもな。ベーキングパウダーは手に入れる必要あるけど。


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