新型魔道具車、という設定の素体


 そろそろダンジョンに行くため、行動を起こそうと思う。


 ディア君がブレイド先輩から情報収集をしてくれていて、カルカッサという町にダンジョンがあるということが分かった。徒歩で行くとひと月以上はかかるらしい距離で。


「流石に、そこまでおうちでごろごろし続けるのは飽きるよなぁ」


 移動したことにする、というのが非常に面倒くさい。

 ……馬車でも買ってしまおうか。馬を含めて金貨何枚かかるか知らんけど。

 せめて車があったらなぁ……



「あ、そうだ。車作ればいいんだ」


 車。ゴーレムがあるんだから、そういう車があってもいいはず。

 車があれば、徒歩でひと月かかる距離を三日で移動しましたと言っても通る、かもしれない。燃料費はかかるけど。……いや実際にはかけなきゃいいのか。


 とはいえ、カリーナ・ショーニンのまかなえる範囲で買う必要が――いやこれもディア君に借金したことにすればある程度は大丈夫だな。

 奴隷を買う時の金貨1枚も返したし、追加の融資を受けてもいいんじゃなかろうか。


「よし、そうと決まれば車を作るよディア君! アイシアも手伝って!」

「え、なんですか急に」

「よくわかりませんが分かりました!」


 おっと、ちゃんと説明しないとだね。


   * * *



 まずは、主材料となる木材の調達。これは錬金王国跡地の山から伐採してくればいいだろう。タダだ。乾燥させないと使えないが、それも空間魔法で一瞬だ。急速乾燥でバキビキ割れても直せる空間魔法の強味。


 とりあえずは荷車の形にして、これが自動で走ればいいわけだ。それなりに高速かつ方向操作ができる形で。


「という感じで作った新型魔道具車、という設定の素体がこちら!」


 ばーん、と二人に見せたのは、木製の三輪荷車であった。外見はレトロな三輪トラック。操作としては前輪が自転車のハンドルのようになっており、気持ち方向転換できるようになっている程度。ブレーキはまだない。


「これが魔道具車、なんですか? 馬ゴーレムもいないし、何の魔法陣もありませんけど」


 あ、馬型のゴーレムに馬車を引かせる奴はあるんだね。へー。


「乗り込めるゴーレムがあるなら車型ゴーレムがあってもおかしくないし、どうなんだろそこんとこ」


 銭湯を作ったりした日本人なら魔道具のエンジンだって作っておかしくないと思うんだけども。デンマはさておき。いやエロい方面に開発するのってなんか躊躇われるじゃん? いやいやデンマはただのマッサージ器具だからエロくないんだけど。


「操縦技術や、互換性の問題でしょうね。従来の御者がそのまま使えて、馬車もそのまま運用できるとなれば、乗り込んで走るより馬ゴーレムの方がいいでしょう」


 そして魔石で馬ゴーレムを動かすと本物の馬より金がかかる、と。燃費の問題だなぁ。


「そもそも動くんですか、これ?」

「実際は私の魔法で動かすからね。こう、スイーッと」

「おお、走っ……走った? んですか?」


 私が空間魔法で素体を3mm浮かせ、走らせる。ついでに最高速でぎゅーんとスライドさせてみたりもする。……この最高速は乗ってたら中でミンチになりそうだ。空間魔法で内部保護も必須だろう。


「す、すごく早い……! ですがなんか変な感じです、あるじ様」

「まぁ私が動かしてるだけだからね。手に持った箱を前後させてるようなもんさ」


 もっと言ってしまえば、ミニカーを手で動かすようなもの。

 そう。なにも本当に魔道具車として実用できていなくてもいいのだ。


 あくまで開発中の! 採算度外視、エネルギーバカ食い試作品! という設定。

 要は、移動はコレを使ってるから早いんですよ! と言い訳ができればいいのである。

 燃料費で赤字になる? そうだね、でも貴族のスポンサーが出してくれるのでカリーナ・ショーニンの関与するところじゃないのです!


「というわけで、二人にはこれを魔道具に見えるように改造して欲しいの。せめて心臓部だけでもね」

「そっか、別に本物である必要はないんですね。それなら今のボクでもなんとかなりそうです。それらしい機構や装置、魔法陣を考えれば良いんですね?」

「うん。別に本当に動くように考えてもいいよ。ピストンエンジンとか」

「お姉さんそこ詳しく!」

「えーっと、内燃機関ってのがあってね。クランクとかヒートシンクとか……」


 ピストンからのエンジンの概念をさらっと教えておく。詳しくは私も知らんけど。


「あの、あるじ様。これって私は何を手伝えばいいんでしょう? 私、魔道具のことなんて分かりませんよ」

「アイシアにはディア君の補助を。……こう、偽エンジン――心臓部分モドキのところにで、なんか速そうな由来のデザインを取り入れてハッタリかませないかなって。吟遊詩人のセンスでどうにかならんかな?」


 これは魔道具だと言い張るために、心臓部だけでも一見して「これは凄いものだ」と分かるカッコ良さが必要なのである。もちろんそこまで見せることは少ないだろうが。


「かしこまりました、ディア様と相談してやってみます!」


 うんうん、頑張ってくれたまえ。

 二人に羊皮紙とインクとペンを渡す。デザイン用だから複製品使ってOKである。


「それじゃ、私はカルカッサに行商するときに何を持ってったらいいか市場調査に行ってくるよ。仕入れもしちゃおうかな、うん」

「はい、いってらっしゃいお姉さん」

「あるじ様、留守番はお任せください!」


 うん、番は特に必要ないけどね。私が許可しないと出入りできない空間だから客も来ないし。結局なんだかんだ宿取ってそこに扉を置くのやってないし。

 あ、デンマをはじめとするマッサージ器具の材料も買ってこなきゃね。フフフ。


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