おおそれは古の賢者の如し
(なろうの方でうっかり2話投稿してたのでこっちも2話投稿です)
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しわがれた老人の声に調整していたアイシアの喉を、元の状態に戻す。
声帯だけを別空間にコピーして保存してあるのでお手軽に調整できるのだ。
「あるじ様、うまく行きましたね! こんなにあっさりと金貨をいっぱい稼げるなんて、さすがあるじ様です!」
「アイシアもよく台本通りに動けたね、特に呪文詠唱! 偉い偉い」
「吟遊詩人ですから、言葉を覚えるのは得意なんですよー」
あ。そういえば金貨5枚に浮かれて、仲介料の追加貰い忘れてた。
次行ったら請求しないとなー……いや、金貨5枚の高額請求で震えてたし、すっとぼけたふりして忘れてやるべきだろうか? うーん。でも元々あっちが払うって言ってたんだし貰ってもいいよね? うん、忘れずに言ったろ。覚えてたら。
「あの額が奴隷に上乗せするには丁度いい具合の値段だと思うんだよねー」
「はい、あるじ様のおっしゃる通りです! きっと皆あるじ様に感謝します!」
「おいおい、そこはアイシア演じるヒーラー氏が良いも悪いも全部受け取るところだってば」
「はっ、そうでした! 畏れ多くも承ります!」
くっ、この全肯定褒め称え、癖になっちゃうッ!
なんだろう、アイシアは獣人ではないはずなのに犬耳と尻尾が見える……今度犬耳ヘアバンドと犬尻尾でもつくってやろうかしら。絶対似合う。
「へぇ、お姉さんそんなに金貨を稼いだんですか?」
「そうなんです、あるじ様はいっぱい稼ぎました!」
「ふふん、しかも今後も継続的に金貨を稼げる目途がついたよ。これで生活費には困らないね!」
「ショーニンとしての収入とは分けるんですよね。それで治療費はいくらにしたんですか?」
「一律で一人につき金貨5枚だよ」
「……それって、アイシアみたいな状態のも金貨5枚ってことですか?」
「うん。奴隷の元の値段に上乗せと考えるとそれくらいが上限だと思うんだよね」
指が欠けてる程度のだって一律金貨5枚だ。
簡単に治せるやつでも重傷と同じだけの金額で、限界まで搾り取ってやるんだぜ。フフフ。
「……なるほど! さすがカリーナお姉さんですね、尊敬します!」
そう言ってキラキラした瞳で私を誇らしげに見上げるディア君。
尊敬されちゃったよ。へへへ。私ってば商才の塊ぃ。
「というわけでディア君、借金だった金貨1枚を返すね」
「はい。受け取っておきます」
「そしてヒーラーの稼ぎは皆の生活費にするからね! ベッドも新しく買うぞー!」
「さすがあるじ様です! すごーい!」
アイシア、半分くらい分かってなさそう! でも良し!
* * *
アイシアだけど、ヒーラーとして動くときは顔も体も隠すようにしたので、空き時間には吟遊詩人として働いてもらうのもアリだなぁ。
そうして手に入れたおひねりはアイシアの小遣いにして、好きなものを買わせる方向で。
「そういえばアイシアはどんな風に吟遊詩人してたの?」
「冒険者ギルドや酒場で、弾き語りをしていました。基本的にはリュートですが、楽器ならわりとなんでも使えます」
リュートというと、
普通にこの世界に同じのがあるんだな……いや、転生者の持ち込み案件かな? 銭湯と同じく。
「楽器なら何でも演奏できるの? 凄いね」
「同じ挙動で同じ音が鳴るんなら、あとは感覚で演奏できますよ。吟遊詩人ですからね」
吟遊詩人ってすごい。私だと指が絡む……いや、これって吟遊詩人スキルとかあるんだろうか。ありそう。そういや異世界だったわ。なら私もスキルで楽器扱えるようになるんじゃないの?
もしピアノが弾けたら云々のあの歌をピアノで弾き語りできるんじゃねーの?
やっべ、楽器欲しくなってきた。
「笛も演奏できたんですが、笛だと歌が歌えないんですよ。知ってました?」
「うん、普通そうだよね。口が塞がるんだから」
「ご存じでしたか、あるじ様は賢いですね! おおそれは古の賢者の如しぃ~」
もしかしてアイシアって馬鹿なのかな? いや、それとも私を持ち上げるためにわざと馬鹿を演じているんだろうか。
「あ。そういえばその手の動きは大丈夫? 見る分に、普通に動かしてるけど」
「はい! もうすっかり大丈夫です! あるじ様の治療は完璧ですね!」
数か月はリハビリが必要かも、とか考えてたんだけど、もうすでに大丈夫らしい。
……別に筋肉も衰えてるわけじゃないし、神経が断絶してるわけでもないし、皮が突っ張ってるわけでもないし、脳が手の動かし方を忘れてた訳でもないもんね。
パズルのピースが嵌るようにすべて揃ってるんだ、そりゃ普通に動くわけだ……我ながらなかなかの治療っぷりである。
「ハッ、そうでした。こうしてはいられません。あるじ様を称える歌を作らねば! 部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」
「あ、うん。……いや私を称える歌はいらないよ? かわりにヒーラー氏を称える歌を作るなら良いかなぁ」
「ではヒーラーをあるじ様に見立てて称えます!! おぉそれは神の御業ぁ~」
そうしてアイシアは自分の部屋へ走っていった。
「ふぅー。ディア君。アイシア、どう思う? これ私を慕う演技かな?」
「いえ、あれは本気ですよ。間違いないです」
ディア君がそう言うなら今のところは問題なさそう、かな?
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