論より証拠。フンッ!
契約魔法はあっさりとしたもので、すぐに終わった。
別に右手に契約の証が出るとかそういうモノもない。
逆に人間一人をやり取りするのにこれでいいの? と拍子抜けしたくらいだ。
ただ、各種ギルド証には所有奴隷の項目が増えるとか。後で冒険者ギルドと商人ギルドへそれぞれ手続きに行かないといけない。めんどくさい。
「現状仮ということにしておきますので、治ったらまた改めてお越しくだされば」
「ああ、いいよいいよ。後回しにする方が面倒だし店側の手続きは進めちゃって。多分返品しないから」
「は、はぁ。……まぁそれで良いなら」
治せないなら治せないで、治るまで治療の実験台にするだけだし。
治るまで治せば治る……失敗して死んだらそれはそれで返品効かないし、返品しないのは100%間違いない。
ということで、奴隷の購入が完了。
早速私は拠点に奴隷っ子を連れ帰り、治療することにした。
* * *
「さーて、それじゃあ早速治しちゃおうか。えーっと、どこから治そう……喉でいっか。喋れた方がいいし」
「あの、お姉さん。本当に治せるんですか?」
「なんだいディア君、私の魔法を疑っているのかい?……って、そういえばディア君にはこの収納空間と魔法陣のコピー印刷くらいしか見せてなかったね」
それじゃあ私が治せるのかと疑うのも無理はない。私だって「コンテナとコピー機が手術できるよ」と言われたら「どうやって???」ってなるもん。
「ま、論より証拠。フンッ!」
私は奴隷ちゃんの喉をぐっと掴んで、空間把握。私自身の声帯を参考に、ケロイドになっている部分をいい具合に整えて修正。よし。
「ハイ、まずは喉。声出る?」
「げほっ、えっ、あっ、ご、ぇ……」
「次、顔ね。元の顔しらんけど、修正の注文は受け付けるよ」
顔の包帯を解いて、まずは傷跡を修復。火傷になっていた部分を修正……んー、元の顔が分からないとどう直したらいいのか……あ、ハーフドワーフならサティたんの顔を参考にしてみよう。こっちは色白だけど、まぁ元はドワーフっぽさがあったに違いない。
目もちょっと火傷してんなこれ、治しとこ。つるりんっと。
髪の部分も複製して増やしてっと……こんなとこかな。赤髪だしやっぱりサティたんっぽい。ちょっと寄せすぎたかも知らんね。
「あ、え?」
「じゃ、腕ね。身体も一応治しとくか」
前は手を参考に足を作ったけど、今度は脚を参考に腕を作る。
まぁ、器用さは下がるかもしれないがリハビリってことで頑張っておくれ、うんとこどっこいしょー。右腕完成、左右反転コピー、左腕完成。
ついでに身体の方にある卑猥な落書きみたいな入れ墨も除去って、古傷も綺麗に治してしまおう。細胞コピーが捗るぜ。
「ふぅー、オペ終了。……腕2本はさすがに疲れたーぁ」
「え、あ、お疲れ様です、カリーナお姉さん」
「……え? え……?」
余りの早業に呆気にとられている二人。
どやぁ、カリーナお姉さんのハイスピードオペは。患者が横になる暇も与えなかったぜ。
「ま、今日のところはしっかり慣らしときな」
……ってカッコつけたけど流石にふらふらするぅー!
やっぱりマナポーションとか作れないか調べないとなー。ヴェーラルドで入手した錬金術教本には魔道具作成まわりの事しか書かれてなかったから、薬品関係は別の本が必要そうなんだよね。
「声、出る、腕、ある……っ! ああ、顔、お、ぉああ……!」
「そりゃー、声も顔も腕もしっかりしてないと仕事に支障が出るじゃん」
「あ、ありがとうございますっ! 感謝いたします、あるじ様! ありがとうございます!! げほ、えほっ!」
「あーあー、治したばかりなんだから無理しないの。慣らせって言ったじゃん」
真剣にお礼を言う奴隷ちゃん。……しかし! 私は絆されない! 絆されないぞ!
シルドン先輩の教訓を思い出せ! 奴隷は裏切る前提で行動するべし!
……ふぅー、よし。
「そういや奴隷ちゃん、名前聞いてなかったね。なんて名乗るか自分で決めて良いよ」
「えっ、じゃ、じゃぁ、アイシアとお呼びください、あるじ様」
「うんうん、アイシアね。アイシアには今後一生私に仕えてもらうから、今後自分の名前以外では私とディア君に嘘つかないようにね、命令だよ」
「かしこまりました、あるじ様。一生お仕えします」
忠誠心は高そうだが、あくまで治療したことによるハイ状態だろう。
これから嫌な仕事をさせる以上、今後いくらでもひっくり返る。
奴隷を信じてはいけないのだ……!
「ディア君、一休みするからあとはよろしく。ご飯置いとくね、ここのルール教えといて。……奴隷ちゃん、ディア君の言うこと聞くように。逆らったりしちゃだめよ。それと、調整して欲しいところがあったらあとで教えてね。鏡とかもあるから」
私はそう言って自分の部屋に戻り、ふらふらと自分の寝床に倒れこんだ。
……あー、やっぱり寝具は海賊のお古じゃなくて新品が欲しいなぁ。
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