なるほど、ひどいねーこりゃ


「しっかし何があれば吟遊詩人が両腕に美貌に声と失っちゃうわけ?」


 楽器を演奏する腕、人目を集める美貌、そして歌声――吟遊詩人フルセットである。

 どれも吟遊詩人であれば第一に守ろうとしておかしくないだろうに。


「錬金王国の商人が持っていた奴隷だったのですが……さしずめ、商会に対して不利な噂を流したのでしょう。ほとんど見せしめのために生かされていた状態でした」

「なるほど、見せしめかぁ。えぐいなぁ」


 それなら逆に大事なところから壊されてしまったのだろう。


「でもそんな奴隷、治したら私が狙われない?」

「ご安心を。彼女が売られたのはちょうど先月で、見せしめにしていた商会は錬金王国とともに潰れたようですので」


 前の奴隷商の売れ残りを引き継いだものらしい。なるほど。錬金王国の商会も潰れたんなら大丈夫だろう。



 まぁ実物を見てみよう、ということになった。


 商人がその奴隷を連れてくる。……歩ける状態にはあるらしい。なら足は無事ということだ、この時点で期待が高まる。

 連れてこられた奴隷は、思っていたより小柄で私より頭一つくらい小さな少女だった。


 両腕は肩から無くなっており、顔には包帯が巻かれている。

 粗末な服を着ているが、古傷が色々見え隠れ。おや、入れ墨まで入ってるねぇ。


「おもったより可愛らしいね、何歳くらいなの?」

「20は越えてますよ。ハーフドワーフですね」


 ハーフドワーフ、そういうのもあるのか。へぇ。


「包帯とってみていい?……ふむふむ。なるほど、ひどいねーこりゃ」

「ううっ……」


 隣にいたディア君の顔色が悪くなる。あ、ディア君こういう傷跡や火傷の耐性無い?

 私はチュートリアルでもっとひどいの見せられまくって慣れたよ。ハハ。


「声の方はどんなかな。心因性のショックで声が出ないとかだとめんどくさいんだけど……はいお口開けて―。……あー、劇薬飲まされて喉が焼けただれてる感じ? ほほー」


 うん。これなら治せそうかなー。あのジジイはもっとひどい状態から復活させられてすり潰されてを繰り返してたくらいだし余裕余裕。

 元の姿とかを知らないから見た目は変わっちゃうかもだけど。


 となればあとは奴隷本人の性格……いや、そこは関係ないし見てはいけないところだった!


 性格なんて死ぬ気の人間ならいくらでも取り繕える!

 シルドン先輩だってひどい傷の奴隷を高価なポーションで治してあげて、それでも結婚詐欺のように財産奪われたんだから!!


 先人の教訓を忘れてはならないぞ、私!!

 奴隷に絆されてはいけないのだ!! 性格はいっそ不問だ!!!



「んじゃ買います。ディア君、金貨1枚貸してー」

「えぇ、治せるんですか、この状態から?」

「ああ、きっとあの人なら治せるよ!」


 そう、あの伝説の闇医者、ダミーナ・ニセイシャ(仮)なら――って、ちょっとまて。

 ……この子にダミーナ(仮)をやらせるなら、この子を治した人は誰がやればいいんだ?


 うう、最初の一回は私が自分でやらなきゃダメですか。そうですか。



「ほ、本当にお買い上げいただけるので?」

「うん、支払いは現金で」


 ディア君から金貨を受け取り、奴隷商に支払う。


「……治せなかったら、そのまま全額返金対応で受け付けますので」

「お、良心的だぁ。じゃ、色々手続きよろしく」

「かしこまりました。それでは奴隷契約を行います」


 契約魔法で、この子は私への絶対服従を誓うことになった。両腕がなくても喋れなくても、自分の意志で頷くだけで有効とか。契約魔法、結構すごくない?

 尚、特に首輪をつける必要はないらしい。よかった、伝説の闇医者が首輪つけてたらカッコつかないもんね。

 ……いや逆に中二病っぽくてアリかもだったかな?



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