説得力ないよぉ!


「ふぁぁ。あー、よく寝た。……今何時だろ?」


 収納空間の外をちらりと見ると、朝になっていた。

 いい天気だ。絶好の領主襲撃日よりだな。……いや、襲撃なら雨降ってた方が良いか?


「お、お姉さん。おはようございます」

「んぁ? 天使……いやディア君か」


 いかんいかん、うっかり天使を抱き枕にしてしまったらしい。……はっ! 自作の木工工芸品を片付けてなかった!! ディア君に見られないよう別の秘密収納空間へシュート、ついでに震える魔道具もここにいれとこう。また後でな……!


「とりま、やっぱりディア君はお酒ダメだね。今度ジュース買っておくよ」

「うう、あんな風に言って一口だけですぐ寝てしまうだなんて……と、ところで、放してくれませんか、その、と、トイレに……トイレどこでしょうか……」

「あー。そこの壺。スライム入ってるから綺麗だよ」


 スカベンジャースライムの寝床でもあるツボを指すと、ディア君はとてとてと壺に向かって歩いて行って、ワンピースのスカートをたぐってめくるようにして下着に手をかけ……って、排泄姿をあんまり見てるのも悪いな、と目をそらす。

 今まで私しかいなかったけど、個室も作っといた方が良いかなぁコレ。今後も人を呼ぶことがあるかもしれないし。


 ん? そういや私のスカベンジャースライムって男女兼用のじゃなかったなそういや。兼用の方は3倍高かったんだよね。いやしかし、ディア君の可愛さなら……あるいは!?


「にひゃいっ、お、お姉さん助けてぇっ……」

「あー。ごめんごめん。さすがにディア君がいくら可愛くてもスカベンジャースライムには通じなかったか」


 壺の中のスカベンジャースライムが怒ってディア君のお尻をぺちぺち叩いていた。ちゃんと排泄物で汚れてる部分は内部に仕舞ってのぺちぺちなのでだいぶ優しい。

 ……あー、海賊のアジトとか船の中になら兼用の奴がいるかなぁ。そんなことを思いつつ、ディア君を空間魔法で救出した。幸い、服におしっこが引っ掛かったりはしなかったようだ。


「あ、そうだ。ディア君にあれを頼もうかな」

「はい! ボクにできることならなんでも! 何をすればいいですか?」

「船とアジトの内部調査さ! 使えそうなものを徴発するのだ!」


 つまり空き巣である! ディア君にも私の片棒を担いでもらうぞぃ!

 共犯者ってやつだね! 船の方も中に入れるようタラップを用意しておく。


「わかりました! がんばってお手伝いします!」

「うむ。よろしく頼むよ。……よく考えたら寝具とかも私の毛布よりいいものがありそうだよね。なんかごめんディア君、臭くなかった?」

「……えと、その、良い匂い、でしたよ?」


 気を使われてる……! そんな風に目をそらしつつ気まずそうに言われても説得力ないよぉ!



  * * *



「シエスター。領主んちどこにあるか教えてー」

「突然ですね御同輩。……あっちに見える城ですけど」

「城? どれ?」

「あの城壁が見えませんか?」

「あー、あの砦っぽいやつ。城なんだアレ。思ってたより四角かった。ありがと」


 さて。そんなわけで情報をゲットしたので領主んちに向かいます!


 神様の万能さいみん通行証を使って正面から行くのもいいけれど、今回は空からこっそり侵入としますかね。エルフのお姉さんがどこに居るかを探さなきゃならないので、そのたびに通行証使ってたら大変な事になりそうだし。


 しっかり休んだので魔力は十分。いやまぁ、もっと寝具をしっかりしたものにしたいなぁとは考えてはいるんだけどね。今、毛布に包まってるだけだし。

 ディア君にはちゃんとした睡眠環境を与えたいよね!


 ……ん? よく考えたら海賊のアジトとか海賊船には毛布よりもしっかりした寝具があったのでは? 寝る前に漁っておけばよかった……ディア君そこらへん探しといてくれるかな。



「さてさて。エルフさんはどこかなーっと」


 そそくさと領主の屋敷に転移で入り込み、光学迷彩をかけて屋内へ。お、メイドさんとかいる。メイド服借りて変装するのもいいかもなー。


 そっと使用人の会話を聞いていく。

 ……今夜の晩御飯の献立は焼き魚かぁ。おいしそー。

 新兵の訓練メニュー? 大変だねぇ。

 お酒の仕入れかー。今うちにはワインありますよ? いかがー、なんつって。


「おい、例のエルフはまだ見つからないのか?」

「すみません、目下捜索中ですが、未だ新たな情報はなく……」


 おっ! エルフの話! 兵士と隊長さんぽい。もっと話して!


「進展なしか……引き続き捜索してくれ。相手が相手だから、事を荒立てぬよう慎重にな。見つけても攻撃は厳禁だ」

「ハッ!」


 って、会話終了して解散しちゃったよ。うーん、なんだろ。領主様もエルフさんを探してる様子? ディア君のお姉さん脱走でもしたのかな。




 と、そうして領主様のおうちを探っていると、見覚えのある顔を発見した。


 マリア婆さんじゃん! オフロフレンズの!

 っていうか、普通に綺麗な服着ててまるでお貴族様……いやまるでじゃなくてガチのお貴族様じゃね? 側仕えのオバちゃん達もオフロフレンズじゃん。

 ひょっとしてマリア婆さん偉い人だった? そんでオバちゃん達侍女とかそういうの? 銭湯へはお忍びに来てた感じですかね。道理で人を洗うの手慣れてるわけだ、本職じゃん。


 ……んんん、となるとなぁ。一緒にお風呂に入った感じ、悪い人じゃなさそうなんだよなぁ。エルフをペットにするとか考えにくいんだけど。もしこれで「エルフかい? ペットに最適だね!」なんて言われたらドン引きだよ? 言わないと思うけど。



 よし。ここはコッソリと正体を隠しつつ相談だな!

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