海賊退治したのでちょっと休憩。


 領主の所に行く前に、一旦ディア君に中間報告。魔力を使いすぎてふらふらなので、休まないといけないというのもある。


「というわけで、海賊のところにお姉さんは居なかったよ」

「……えと、海賊はどうなったんですか?」

「懲らしめて、海賊から強盗した海賊船と陸上拠点があちらになります!!」


 そう、収納空間には元の形に戻した海賊船と一部切り取った海、それと陸上拠点が保存されていた。海や地下室については、床というか地面をへこませている感じで置いてある。


「カリーナお姉さんって、何者なんですか……?」

「あ、それ聞いちゃう? うーん、まぁここまで見せちゃったわけだし、ディア君には本当の事を教えてあげよう。でも、ここだけの秘密だよ?」

「は、はいっ」


 ごくり、と息をのむディア君。


「ある時は大魔法使い! またある時は華麗なる強盗! そして、その実態は――」

「その、実態は……!?」

「――新人冒険者商人、カリーナ・ショーニンちゃんなのだー! わっはっはー!」


 おっとぉ、ディア君が微妙な顔してるぞ?


「普通、正体の方がもっと凄いってヤツじゃないんですか?」

「いやその、だってどれも本当の私だし、ディア君に言ってない正体ってそれしかないし。ね?」

「……えっと、まぁ、確かに商人ってのは初めて聞きましたけど」


 だって本当に本当なのだ。

 大魔法使いで強盗なところを抜いたら、あとはもう可愛いカリーナ・ショーニンちゃんしか残らないんだって。


 神様に靴下を納品する宿命を帯びているのはなんかカッコ悪いから言えないし。

 あ、それと元男の異世界人ってのもあったか……わざわざお姉さんって呼ばせてて「元男です」ってのは『無し』だよな。黙っとこ!


 でもなー、この年頃の男の子なら、なんかこうカッコいい正体とか期待しちゃうよねぇ。

 ……そんな期待にお応えせねばなるまい! 可愛い子には甘いカリーナちゃんである!


「そうそう。大魔法使いカリーナちゃんはね、実は世界を救う崇高な使命を帯びてるんだよ」

「えっ!? 世界をですか?」

「このままだと世界のエネルギーが枯渇して、この世界は滅亡してしまうの! それを解消するため、神様に神器の回収を依頼されてるんだ! あの船も神器だから回収したんだよ!」

「そ、そうだったんですか! すごいですカリーナお姉さん!」


 まぁそれより靴下納品しろって言われてるんだけど。神器の方がオマケで。



「私の冒険はまだ始まったばかりで、あんまり語れる冒険はないんだけどね。そんなわけだから私の正体については秘密だよ。動きがとれなくなると困るんだ」

「えっと、つまり……商人としてのカリーナお姉さんと、大魔法使いなカリーナお姉さんが『世間的には別の人間である』という状態にしておきたいってことですか?」

「おっ! 頭いいねディア君! ずばりその通りだよ! 天才! かわいい!」


 私の言いたい事を見事に言語化してくれたディア君を優しく撫でる。

 あーん、可愛くて賢い。最高かよ。


「仮面でもつける、とか?」

「お、それも面白そうだね……こんな感じの仮面でどうかな!」

「カッコいいと思います、カリーナお姉さん!」


 空間魔法で木を削ってシンプルな仮面を作ってみた!

 正体を隠すとなったら定番だよね仮面! まぁ、よくマンガやアニメだと「そんな仮面で正体隠せんのかよ」っての多いけど。……SNSのないこの世界ならワンチャンいける気がするぜ!



「少し休んだら次は領主んとこ行ってくるよ。……べ、別にサボってるわけじゃないよ!? ちょっと魔力使いすぎたから休憩して万全な状態でだね?」

「カリーナお姉さんがサボってるだなんて誰も思いませんよ。……むしろ、ボクの方が何もできない役立たずで……」


 ワンピースのスカートを握りしめて悔しそうなディア君。

 確かに、女装させてからはこの収納空間で待機だもんなぁ。見ず知らずのお姉さん(私)を信じて待つだけしかないってのはちょっと辛いものがあるのだろう。


「……大丈夫! ディア君はとっても私に貢献してるよ!」

「そう、ですか? こんな格好してるだけ、ですよ? 何の役に立ってるんでしょうか」

「見た目は大事だよ。助ける相手が可愛いと、人は張り切っちゃうもんなのさ」


 同じ状況の人を助けるにしても、可愛い方が気合も入るってなもんだ。

 もしこれが逆に可愛くもなく、生意気で、感謝しないような相手だとこのカリーナちゃんは助ける気失せるぞ。私は聖人君子ではないんだからな。


「つまり、ディア君の今の仕事は――より見た目を頑張る事! 私を萌えさせろ!」

「萌え……?」

「私をやる気にさせるのがディア君の仕事ってコト。あとは自分で考えて」


 私がそう言うと、ディア君はふむぅ、と考え込む。

 可愛い、目の保養になるなぁ。

 実際に手を出すわけじゃないんだから、男も女も関係ないよねぇ。



「よし! 今日はお酒を飲んじゃうぞ! ディア君はダメだよ、まだ早いからね」

「……ボクだって、お酒くらい飲めますけど? エルフの国では飲んでましたし」

「そうなの?」


 子供に見えてもエルフだし、実年齢的には余裕で大丈夫なのかな。


「じゃあ一口だけ飲んでみる? それで大丈夫そうなら飲ませてあげる」

「はい、いただきます」


 と、私はゴメスと飲み比べで入手したワインをほんの少しコップに注ぐ。


「んくっ……ぷは、どうですか。この通り、大丈夫れ……す……くかぁ……」

「やっぱ全然ダメじゃん。うーん、子供にワインは強すぎたかね」


 それとも、心労的にとても疲れてたんだろうか。

 私もくいっとワインを煽る。飲みすぎると記憶を失うから程々に。


 ……あ、急に眠気が回ってきた。うーん、色々やって疲れてたんだなぁ。

 少し休んだら、領主のとこ行かなきゃね……ふぁぁあ。


 ……毛布。毛布でやすまなきゃ。ディア君もこのまま床に寝かせるわけにもいかないし、一緒にね。ひっく。すやぁ。



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