海賊船へ潜入!


 私カリーナちゃん。ディア君っていう可愛いエルフの男の娘(即席)にお見送りされ、そのお姉ちゃんを救うべく海賊船に潜入したの!

 光学迷彩でこっそり船の中を探っちゃうわ! ついでに神器もあるみたいだからそれもかっぱらっちゃうわね!



 というわけで、怪盗カリーナ華麗に潜入。こんな大きな木造船、実物は初めて見るからちょっと興奮する。


 当てがないので、まずはゴメスの後ろについていこう。

 ……あれ、これ収納空間から出なくてもよかったな? まぁいいか。今から戻ったらディア君の目線が冷ややかになりそうだし、このまま行くとする。天井に貼り付くようなニンジャスタイルだ。


「くそう、とにかく、早く荷を仕入れなければ破滅だ! あの女のせいで! もう金は受け取っちまってたんだぞ!!」

「おかしら、どうしやす?」

「まずは獲物を探す! こうなりゃ許可が銅までのやつなら期限切れだったことにして襲っちまえ!」

「そ、そんなことしたら流石に領主様に何て言われるか!?」

「うるせぇ!! 黙ってりゃバレねえよ!! あとからつじつまを合わせるんだ!」


 ゴメスは船の中心部分へと向かって小走りで歩いていく。

 そこには、他より少し豪華な装飾が入った扉があった。一目で重要そうな部屋だと分かる。


「ポセイドンよ! 偉大なる海の神! その上を渡る無礼者の位置を教えたまえ!」


 ゴメスが部屋に入りつつ叫んだ。その部屋は全体が祭壇になっており、中央に透き通る青い水晶玉が安置されている。ゴメスの声に反応し、水晶が光った。

 水晶の中に星のように光が浮かぶ。複数浮かぶ光は、金銀銅に白。光の強弱、点滅速度が違う。


「……銀、銀、こっちは金……白、獲物だ! だが小物。密漁か……お、デカイ銅だ! よし、こいつを獲物としよう! 期限切れも間近だ。丁度良いぞ」


 陸地の地形もあるし、これはどうやら船舶レーダーか。それも、前の発言と合わせて考えるに許可の種類や期限、船の大きさとも連動しているらしい。

 ということは、密集して光っている場所はヴェーラルドの港か。これは海の上で迷子にならなくて済みそうだなぁ……


 この水晶玉が神器『ポセイドン』だろうか? 確かに情報は大事な武器ではあるけれど、これだけで『海の上なら無敵』と言うほどとは思えないんだが。


「偉大なる海の神! 我々がこの不届きものを狩ってみせましょう! 我々を敵の元へ導き給え!」


 おっと、船が向きを変えた気配。これは自動移動かな?

 なるほど、1つの機能しかないわけじゃないんだね。こうなると他にも機能がありそうだな。ま、関係ないけど。いつでも回収できるようにしておこう。


「……到着は推定3時間後だな。おし、てめぇら、仕事の支度をしとけ! 俺は少し休む!」

「お頭、女共はどうしやす?」

「好きにしろ――いやまて。金に換えるから壊すのはナシだ。戦の前にやりすぎんなよ」

「へへ、ペットをかわいがる程度にしときやす」


 女。ペットねぇ。よしよし、順調に情報があつまってくな。

 んじゃ、今度はこいつについていこうかな。



  * * *



 一足先に道案内してもらった三下は部屋に入った時点でぶん殴って気絶させたわけだが、部屋の中にはぼろぼろの服を着て繋がれてる3人の女がいた。うーん、えっち……とか言ってる場合じゃないなぁ。

 全員もれなく目から光が消えているしなんかもう生臭い。っていうか部屋が臭い。洗浄したれよ。ンモー。スカベンジャースライムがたかる様にして掃除してるけど追い付いてない感じじゃんか。


「うーん、半分手遅れ? おーい、元気な人いるー? 助けにきたよー」


 私がスライムを除けつつ声をかけると、1人がピクリと反応した。


「う……あ? たす、け?」

「エルフのお姉ちゃんいるー? もしくはお姉ちゃんの居場所知ってる人ー?」


 しかし銀髪もエルフ耳も見当たらない。人間2人と獣人のお姉さんだ。

 うーん、少なくともこの部屋にはいないなエルフさん。


「……あな、たは……?」

「ねぇお姉さんたち、エルフ知らない? あ、ホタテとか食べる?」


 バター焼きのホタテを差し出し近づけると、お姉さんたちはそれぞれ弱々しく腕を上げて受け取り、涙を流しつつ食べた。最初に反応しなかった2人もだ。

 うん。ホタテ食べる元気があるなら大丈夫そうだ。


「あり、がとう……久々に、人間になった気分だわ」

「そりゃ結構。で、エルフっ子の情報ない?」

「……探し人かは分からないけど、3日くらい前にエルフを捕まえたとか言ってた、かも。でも、売り払うって言ってたし、もう売られたんじゃないかしら」

「美人のエルフさんだよ? 手元に置いといたりしないもん?」

「よほど高い値が付いたんでしょ」


 未使用のエルフさんだったとして、未使用のままの方が当然高く売れるわけで。

 売るとなると、未使用状態を維持するために自分では使えないわけで。


「……自分で使えないならさっさと売る方が良いわね。目の毒だし」


 ごもっともである。


「はぁ、じゃあ仕方ない。代わりと言っちゃなんだけど、お姉さん達を助けてあげよう」

「……ありがとう。気持ちは嬉しいけど、私達は無理よ。足手まといだわ」

「ん?」


 と、ここで一つ違和感に気付く。繋がれたお姉さん達の足――くるぶしから先が無かったのである。雑にまかれた包帯から焼かれた傷口が目に入った。それぞれ両足とも、だ。


「この足じゃ、ね……」

「あー……脱走禁止的なやつかな」


 足を切っておけば、逃げられない。弱るので部屋に閉じ込めるのも簡単になる。


 って、おいまてよ?

 まさかこれが『処置』ってことか!? ふざけんなよ!



 足が無きゃ靴下が履けないじゃないか!!!



「ああ……これは神様が大激怒間違いねぇな……ああもう」

「これじゃ生きて帰っても置物にしかなれないわ」


 にしても異世界だなぁ。多分回復魔法とか魔法薬ならこういう欠損や傷も治せるんだろ?

 基本的知識さんにも神聖魔法で手足の欠損が治せるとかいう情報があるぞ。……神聖魔法ってのがあれだな、あの神様が靴下の為に足を治す光景がありありと目に浮かぶよ。


 片足が残ってたなら簡単に対処できたんだけど……これじゃあ細胞コピーで1から造形するしかないじゃん。


「私達のことは見捨てていって頂戴。……最期に人扱いされて、嬉しかった」

「はぁー……ま、いいよ。助けるついでだし足を治してあげる」


 言いながら、空間魔法を展開する。ちょちょいのちょい、と言うほどでもないが、まずは3人の右手をベースに細胞、骨、血管、神経等々をコピー。後に、細胞を増やしたり減らしたりで足の形に成形。

 それぞれ右足を作り終えたら反転コピーで左足にして、上書きペースト。コピーしてぺったん。完成ー、わー、ぱちぱちぱち。

 回復魔法なら一発なんだろうなぁ……空間魔法は万能だけど、専門外のことをするには工夫が要るんだよ。うー、面倒臭かった。


「はいこれで両足ができたね。動く?」

「えっ、あ、え?」


 困惑しつつ、足の指を動かすお姉さんたち。問題ないようだ。

 手は前足が進化したもんだから、足に加工しても大して問題はない。本人の細胞なら拒絶反応もないだろうし……実際チュートリアルではジジイの手を足に付け替えたりして遊んでたからな神様。


 ……うごぅ、ふらっとした。

 ちょっと3人同時のコピー・成形は魔力使いすぎたかもしれんな。


「まぁなんにせよ私が治したんだから報酬は貰うよ。靴下で――いやまて」


 ここでふとあることに気が付いてしまった。

 私、今このお姉さんたちの足をコピーした、よね。空間魔法で。


 靴下の素材もコピーしたらあかんのに、足本体がコピーとか……神様の性癖対象外になっちゃうんじゃね?


「……ミスったぁ!」

「え、何を? 治療を?」

「そっちは完璧だよ、神様に誓ってもいい。ちょっと個人的な事でね、うん」


 私は頭を抱えた。

 あわよくば足を治したことをタテに今後靴下を定期的に量産してもらおうと思ってたのにぃ!


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