正義の行い(ゴメス視点)
あの女に酔い潰され、俺は面子を傷つけられた。
だから報復をせねばならない。これは正義の行いだ!
飲み比べの後、泊っている宿を特定すべく翌日の朝まで商業ギルドを見張らせていたが、奴は出てこなかった。
裏口も見張らせていたというのにどういうことか。一体どこに消えたのか、上手い事逃げられてしまったのか。
「お
「ようやくか!」
諦めきれずイライラしていた矢先、部下から報告が入った。やはり俺はツイてるぜ。
「あのアマ、どこに居たって!?」
「港っす。他の奴がウチの倉庫にご案内したんで、今頃は……」
「ククク。そうか。まったく女のくせに俺に楯突くからだ」
捕まえるにしても傷はついてるだろうが、多少なら治癒魔法で治せる。
幸いウチはそういう伝手もあるしな。伊達に領主サマ直属の海賊はやってねぇ。
「足の腱を切って船で飼ってやるのも悪くねぇな。おい、奴隷商を呼んで来い」
「うっす! へへへ、お頭、俺らにも使わせてくださいよ」
「俺が飽きたらな! ガハハ」
俺は軽い足取りであの女を捕まえた倉庫へと向かった。
俺達が倉庫に着くと、そこは思っていた以上に静かだった。
んん? もっと盛り上がってるかと思ったんだが――と、足元に俺の部下が転がっているのに気付いた。
「あん? 抵抗されてぶちのめされたのかお前――いや、お前……ら?」
そしてそれは1人だけではなかった。3人が床に転がっている。1人が天井に突き刺さっている。5人が荷物に被さって動かない。
そして、一人無傷で、そこに立っていた。
「これはどういうことだ!」
いや、考えればわかる。この女が俺達の手下を返り討ちにしたのだ。
まさか、これほどの実力者……魔法使いだったのか? 俺は即座に頭を切り替えた。
「おい貴様、俺の倉庫に盗みに入ったな!?」
そう。こいつは俺の倉庫に盗みに入った強盗だ。警備員の手下たちを卑怯な手段で倒し、荷物を盗もうとしていたのだ!
相手が強盗なら、正義はこちらにある。ならばあとは領主様から独自裁量権を任された俺がこいつを裁くのみ!
「……いや? 私はこいつらに呼ばれたからここに入っただけだよ。てっきりアンタが私に用があると思ったんだけど」
「うるさいぞ強盗め! こうして俺が目撃した以上、言い逃れはできないぞ!」
「あっ、私のことどうしても強盗にしたいんだ? フーン」
ニヤリ、と笑う女。なんだ、どうしてそんな余裕がある?
「じゃあ強盗してあげるねぇ! あははは!」
「なんだと!?」
声を上げて笑う女。イカれたか? いや、手下たちをあしらった魔法か何かの切り札があるのだろう。足を開いて身構える。
ぱちり。
目を閉じ、開いた一瞬でそこには何もなくなっていた。
「……は?」
いや、何もないわけではない。手下どもが、横になって転がっていて、そいつらが起き上がり始めていた。
ただ、今まで倉庫内にあった荷物が全部消えて、広々とした床が見えていた。
女も消えていた。
「え? あ?」
俺の倉庫の中身が、全部どこかに消えたのだ。
強盗……これが強盗だと!? どういうことだ!?
「な、なにしやがったぁ!?」
俺の叫びが空の倉庫にこだまする。
返事はない……
「おいゴメス殿。どうなってるんだこれは、話が違うぞ」
「す、すまねぇ。俺にも何が何だか……おい、てめぇら! どうなってやがる!」
「う、動く。ああ、お頭っ! あいつ、あのバケモンがっ」
「俺達をまるで投網漁の魚のようにっ」
手下たちが言い訳を並び立てる。そんな言葉を並び立てたところでこいつらが失敗したのは変わらない。そして、女が荷物と共に消えてしまったのも変わらない。
「ええい、荷物だ! あれだけの荷を一瞬で持ち出せるはずがない! どこかに隠されてるはずだ!!」
「一瞬で隠すのも無理じゃ……」
「さがせぇえええ!!!!」
手下どもに倉庫を探させる。
しかし――空っぽの倉庫には、どこにも荷物がない事は明白であった。
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