世界の秘密(割とどうでもいい)


「っていうか、この世界の靴下ってどうやって作られているんだろう?」


 私カリーナちゃん。今更ながら、靴下の存在について疑問が浮かんでくる今日この頃。

 思い返すとハルミカヅチお姉様の靴下はすべすべの上等な布だったし、サティたんの靴下は日本で3足1000円で売ってるような綿の靴下だった。


 思い返してみれば見るほど、どうやって作られてんのかって不思議に感じる所存。



 その秘密はきっと神様が握っている――そう考えた私は、特にやることもなく暇だったのでヴェーラルドの教会にやってきた。

 靴下納品の用事はないけど相手してもらえるかな?


「……って、あれ? シエスタ?」

「はい、なんでしょうかお嬢さん――ああ、なんだ御同輩ですか? 何用で?」


 そして教会にはピンク髪のサキュバスシスター、シエスタがいた。


「いつのまにソラシドーレからこの町に?」

「あら、それは私の従姉妹です。よくある同じ名前で紛らわしいですけどね」

「あ、同じ名前の従姉妹。そういうのもあるんだ……」


 ポケットなモンスターに出てくるお姉さん達みたいな感じなのか。


「……そういう設定の同位別個体ですよ御同輩。シエスタ達は各地の教会に適当に配属されていますし、ちゃんと別人ということになっています。深くは追及しないでください」

「どういべつこたい……?」

「知識や記憶を共有した別の体ということです。ソラシドーレではどうも」

「……ってことは、シエスタはどこの教会にも居て、全員実は一人ってこと?」

「神の御業ですね。ナイショですよ」


 シー、と口に人差し指を当てるシエスタ。可愛い。一人貰っちゃだめかな?

 あ、でも納品靴下の作成には使えないか。



「で、ご用件は?」

「うん、少し気になったことがあって神様に聞きたかったんだけど……」

「なんでしょう? 神様の手を煩わせるまでもない事なら私が答えますよ」

「じゃあ聞くね。靴下ってどこでどう作られてるのかな、って。仕入れたりできるかなーとか」

「教会で内職として作って服飾店に売っているものが多いですね。一般には非公開ですが、靴下を作る魔道具があるんです」

「あ、そういう魔道具があるんだ?」


 なんと。いや、あの神様の御許となれば当然といっていいけど、便利すぎて都合の良い魔道具があるもんだ。


「靴下の材料は綿や絹といった布の原料です。年中不足気味なので仕入れてくれるならありがたいですね。あまりお金は出せませんが、その分靴下をお安くしてあげますよ」


 シエスタは私の背中の大きなリュックを見てそう言った。

 どこかで仕入れた靴下の材料を教会に卸す、そういうのもアリか。とりあえず今後のために何足か持っておくのも良いな、また靴下をはいてない美女と出会うかもしれないし。


「一番安い綿の靴下で一足大銅貨1枚です」

「なるほど、それなりに高価だけど手が出ないわけでもない」


 普段サンダル履きなら不要だろうけど、行商人とかは足を保護するために買うだろう。



「……まぁココだけの話、魔道具ではなく、布素材に限らずあらゆる物質を靴下に変換してしまう神器なんですが」

「えっ。あの、私、神様に神器の回収しろって言われてんですけど」

「はい。今まさに神様からお告げがありました。――『これの回収は不要、むしろしたら怒りますよ! あと靴下の材料で複製品を納品するのもダメです!』……だそうです」


 ですよねー。

 将来的に神様に捧げることを考えると、空間魔法での複製品も当然ダメだね。うん。


「今の神様のマネ、超可愛かったです」

「それはどうも、光栄です」


 ぺこり、と頭を下げるシエスタ。

 っていうか神様、靴下のために各教会に神器ばらまいてるの? そりゃエネルギー不足とやらにもなるわ。完全に自分のためじゃん。さすが神様。


「それと神様からこちらを預かりました。どうぞ」

「あ、ども?」


 シエスタがいつの間にか手に持っていた紙切れを差し出してきた。

 ……長方形のその紙には『査定額20%UPチケット』と書かれていた。

 どうやら海賊との飲み比べは、神様のお気に召した模様。


「それとこちらもですね。どうぞ」

「……錠剤?」

「生理スキップ薬、期間限定1回分です」


 せ、生理スキップ薬(期間限定)だとぅ!?


「『そろそろ1回目だし初回サービス』だそうです。今回の生理が終わるまで有効な期間限定のお薬で、使用しなかった場合は自動的に消滅するそうですよ」

「ええと、ありがとうございます?」


 欲しいと思ってた生理スキップ薬だ。しかし、期間限定とかできるんだなぁ。

 ……


 いやまて。これって『生理はキツイから毎月スキップ薬を使うべきですよ、だから分かってますね? ね?』という神様のメッセージでは!?


 はじめから無いと分かっていれば耐えられる痛みでも、綺麗サッパリ解消する神の一手があるとすればそれについつい手が伸びてしまうのは必然!!

 しかもこの露骨な期間限定! 使わないと勿体ないと思わせて使わせる気満々だぁ!


 時間を停止させて保管しようとも、神様の前には無力! 複製も無意味!


「ふふっ、御同輩は神様に愛されているようですね。羨ましい」

「あはは……くっ、素直に喜べない……ッ!!」


 これは無償の愛ではない! 毎月50SP分の靴下を納品させるための呼び水! 小さな投資! 種蒔き!

 恐るべし神様、なんという策略ッッッ!!




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