飲み比べ(海賊視点)2




「俺ぁ、お前の仕入れた酒を飲む。お前は俺が仕入れた酒を飲む。どうだ?」

「うん、それでいいよ? じゃ、マスター。審判ヨロ」


 あっさりと俺の提案を飲む小娘。

 馬鹿め、ここのマスターは俺の言いなり。俺の有利になるよう、少しでも飲み零そうものなら一杯と認めないだろう。


 しかも、ごく自然に俺は酒精の弱い酒、小娘には酒精の強い酒での勝負に持ち込むことができた。ま、俺は先に飲んでたんだしちょうどいいだろ? 気づかねぇ方が悪いんだ。


 クックック、勝負ってのは始まる前から決まってんだよ!



「じゃ、一杯目。かんぱーい」

「おうよ」


 ぐっ、と酒を口にする。――へぇ、結構イケるじゃねぇか。女子供が飲むには良い酒だろうな、俺には弱くてもの足りねぇが。


「ぷはー、はいおかわりー」

「こっちもだ。おかわりッ」


 小娘もグイッとジョッキを傾けて、酒を飲んでいく。

 良い飲みっぷりじゃねぇか、自分から飲み比べを言い出すだけのことはある。


 だが、お前は絶対に俺には勝てない!

 それは最初から、勝負を仕掛けたときから決まってんのよ!



「ふー、うーん。やっぱりワインは良い香りだなぁ」

「へっ、テメェの仕入れた酒はクソだな、全然酔えねぇわ」

「……おいお前、それドワーフの前でも言える?」

「? 何で酒キチが出てくる」

「それ、ドワーフの行商人に買わされた酒なんだよねぇ」


 ……ドワーフの仕入れる酒かよ。そりゃ美味い訳だ。

 まさかあの酒鬼ドランクオーガとは関係ないよな? こんな小娘が、あるはずないか。



 ともあれ、酒を飲んでいく。


 うっぷ。さすがに弱い酒でも腹がたぷたぷになってきやがった。

 というか、この小娘ワインをガパガパとまるで水のように飲んでいきやがる……!


「はい、おかわり!」

「……おかわりだっ」


 そろそろ酒が回って味が分からなくなってくる頃合い――今だ、やれ。と手下に合図を出す。睡眠薬入りの酒だ。

 俺の飲み比べ、常勝無敗の秘訣。それこそ、この睡眠薬入りの酒よ!


「はいカンパーイ」

「おう、乾杯だ」


 酒を掲げて、ぐいーっと一気に流し込んでいく小娘。

 その酒に、薬が仕込まれているとも知らずにな……!



「ぷはー!……ん? 何。そっちも早く飲みなよ。はよ」

「……くく、そう慌てんなって」


 もう数秒もすれば薬が効いてくるはず……俺はゆっくりと勝利の美酒を飲み干す。


「よし、飲んだな! じゃ、マスターおかわり!」

「……ん?」


 小娘は平然とおかわりを要求する。そう、平然としている。薬を飲んだはずなのに。

 手違いでもあったか? もう一度だ。


「ぷはー! はー、ちょっと酔ってきたかも? なんちてー!」

「んぐ、ごく……ぷはっ。おい、テメェ無理すんじゃねぇぞ? 負けを認めたらどうだ」

「そりゃこっちのセリフだっつの。飲むスピード遅くなってんじゃん。はよのめ?」


 ぐいっと酒を飲み干す。

 くそっ、どういうことだ? マスターが裏切ったか?


 睨んでみるが、滅相もない、と首を振る。

 ……くそっ、くそっ! もう一度だ!!


  * * *


 こいつ、ありえねぇ……

 途中から、俺が飲み終わるのを待たずしておかわりを頼み、もう樽を空けてやがる!

 いったいこの女のどこにそんな酒が入ったんだ!? ありえねぇだろ!?



 ……ってちょっとまて。飲み比べ、だよな?

 ってことは、だ。俺がこいつに勝つには、今コイツが潰れても、俺も樽を開けるくらい飲み切らなきゃいけねぇってこと、か?


 い、いや! こいつが潰れたらどうとでも言い訳できる……って、睡眠薬だって入れてんだぞこっちは! 寝ろよ! なんで寝ないんだ!?


「はー、ちょっと火照ってきちゃったぁ。マスターおかわり!」

「……ば、化け物……かよ……!!」


 苦情を言おうとしたら、うぐっと腹の中身が込み上げてくる。ヤバ……


「お? お? どうした、もうギブアップか?」

「……おぼろろろろろげばぁ」

「うわ汚ねぇなーオイ。折角の酒を吐くんじゃねぇよ」


 慌てて口を手で押さえるが、もう遅かった。

 飲みなれない、飲みやすい酒で限界を見誤った……文句のつけようもない負けだった。


 俺は、朦朧とする意識の中、小娘の勝利宣言を聞く。


「いえーい私の勝ちぃー! マスター、請求は約束通りこいつにヨロシクね!」

「……ハイ」

「おうテメーら、これにこりたら私に絡むんじゃねーぞ。文句のあるやつは飲み比べで勝負してやらぁ!! がはは!!」

「ぐ、ぐぬぬっ」

「お、お、おぼえてやがれっ!」


 俺は手下に宿へ運ばれていった。

 その際、ゲロにまみれた姿を晒すことになって……


 くそ! くそ! 小娘め……よくも俺に恥をかかせたな……覚えてろよ……!


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