飲み比べ(海賊視点)1
俺はゴメス。海賊の頭をやっている。
海賊というのはこの町の平和を守る偉い仕事だ。取引する相手がこの町を治める貴族であり、俺達海賊はその直属の部下ということになる。
だから、俺は偉い。だから、何をやってもいいのだ。
そんなある日、いつものように一仕事終えて商業ギルドで手下たちと飲んでいると、身綺麗な女が入ってきた。話を盗み聞きすると、酒を持ち込んできたらしい。
「おう! 酒か! 俺が買ってやろうか! 丁度酒が欲しかったんだ」
そういうと3本の酒を売るといってきた。
しかし、それを見るとソラシドーレの林檎酒。酒精の弱くて甘ったるい酒だった。
要らねぇなぁ。とは言ったものの、買うといったからには買わねばならん。
全部タダで寄越せと言いたいところだが商業ギルドの手前金のやり取りは必要だ。
だから、1本銅貨1枚でいいよな?
まったく、そんな酒を持ち込みやがって。反省しろ。
てか、俺から買って貰えた実績がもらえるんだから、嬉しいだろ?
ああそうだ。その身体でも反省を示してもらうのが良いなぁ。
「ちょ、ゴメスさん!! ギルド員同士の揉め事は御法度ですよ!」
「いいじゃねぇか。ローションとかも聞こえたぞ? お前が使うんだろ、相手してやるよ」
と、女の肩を掴もうとしたらスカッと手が空を切った。
……あん?
「フッ、私を買いたければ金貨100枚持ってくるんだな、酔っぱらい」
何言ってんだ、金貨100枚? ああ、聞き間違えた。銀貨100枚か。
まったく、よほど自分を高く売り込みてぇようだなぁ?
「100枚か? そうだなぁ、俺の女になるなら考えてやらんでもないぜ」
俺を満足させたなら、払ってやろう。
そんな俺の親切な提案を、女は鼻で笑いやがった。
「えー? やだなぁ職員さん。これで怒るのは自分の器が小さいと認めるってことでしょ? 器の大きい人なら全く関係ない話だって。ん? まさか職員さん、ここにそんな器の小さい人がいるとおっしゃってる?」
「…………いえ、その!?」
気まずそうにこちらを見る職員。
おい、それはつまり、俺が小さいってコトか!?
俺が冷静に小娘の戯言を聞き流していると、酒はギルドの方で買い取ることになったらしい。
チッ。まったく、物の道理もわからん小娘が。俺に酒を貢げば、俺の女にもなれたってのによ。
「というわけなんで、お酒は改めてギルドの方から買ってくださいねー。えーっと、名前なんだっけ……ゴメンデスさん?」
「あぁあああ!? なんだとテメェー!」
俺の名前を間違えるだと!? くそ、舐めやがって!!
俺は手下に手で合図する。あとでこいつを襲撃するように、と。
大丈夫だ、いつものように簀巻きにして船に乗せてやる、それだけでいい。
そうすればコイツは『違法に商船を出そうとした罪』で俺が自由に裁けるようになる!
当然、死刑――いや! 何もかもを奪いつくして、スラム近くの娼館にでも売りさばいてやる!
もっとも、俺が売る気になるまで生きてたらの話だけどな!
「黙れ下郎」
ッ!?
小娘に睨まれ、体が強張った。あ、足が動かない!?
まさか、この俺が威圧されてるってのか!?
フッ、と小娘が鼻で笑い睨むのをやめると足が動くようになる。
まさか、こいつはヤベェ実力者だったりするのか……?
「さて、ゴメンデスさん? ここで一つ勝負しない? そうだな、飲み比べなんてどうだい。丁度良い酒が入荷したらしいよ?」
!
馬鹿め、俺は飲み比べでは負けた事がねぇんだ。
「勝負だぁ!? いいぜ、その喧嘩買ってやるよ! 海賊はナメられたら終わりなんだ!」
「負けた方の奢りな! 私が負けたら体で払ってやるよ!! 神様に誓ってもいいよ?」
「上等だよテメェ!」
俺は手下に再び合図する。
特別な『酒』を手配させるためだ。
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