TS娘のお風呂という定番


 私、カリーナちゃん。美少女だから体のニオイは良い匂いだけど、風呂に行くことにしたの。

 共同風呂なるお風呂屋さんがあるらしいわね!



 そう、この世界には公衆浴場があるのだ!

 実はソラシドーレにもあったのだよ、行ってなかったけど。


 文明レベル低いのにそんな水や燃料をじゃぶじゃぶ使うほど余裕があるのか? と考えるかもしれないが、別に魔法がある世界だ、その辺は全く問題ないようだ。


 つーか風呂屋なんて江戸時代にだってあっただろ?

 紀元前2千年頃にはあったらしいし、そうイチャモン付けることもない。あるんだし。あるから入るだけだし。

 これは異世界風呂屋の視察である。

 ……別に臭くないもん。いい匂いだもん。



 気を取り直してお風呂だ。

 まずは風呂屋の外見だけど、石造りの土台に石膏な白い壁。入り口には暖簾が掛かっており……暖簾って。銭湯かよ。銭湯だったわ。


 青い暖簾をくぐれば、そこにあるのは靴箱だ。

 思う所はあるが、とりあえず靴脱いで靴箱にぶち込む。鍵は木の板に切れ込みが入ってる奴だった。

 すのこが敷いてあって靴でなくても歩きやすい。そんで番台とかあるし、実に銭湯っぽい。


 うーん、異世界の風呂屋がここまで日本の銭湯に似ているとは驚きだ。きっと、風呂屋という機能を突き詰めたら同じ形式になるのだろう――



 ってんなわけあるかよ!

 絶対転生者とかだってこれ作ったの。間違いないって。日本でもこんなコテコテな銭湯行ったことないぞ。凝りすぎだろ。


 私以外にも神様にこの世界に放り込まれたやつがいるんだろうか。それとも神様が趣味で作らせたとか? 無駄に日本の知識多そうだったもんなぁ神様。

 そこらに銭湯の由来を書いた板とか置いてないかな……無いか。じゃあいいや。別に他に転生者とかいたところでどうでもいいしな。


 しかし異国情緒のわからんやつめ……いや、異国だからこそ、帰れぬ日本を思って作ったとか? うーん。


 ま、知らない転生者のことはほっといてお風呂だお風呂。


 私は爺さんか婆さんか、目が見えてんのか見えてないのかも分かんねぇ番頭さんに入浴料を払う。中銅貨1枚とお手頃価格。毎日入るには少し贅沢かもしれないが、それなりに客はいる模様。

 お、石鹸と手ぬぐいも売ってんの? 買う買う。1回分のチビ石鹸可愛いねぇ。手ぬぐいはレンタルとかじゃなくて買い切りね、大銅貨1枚。ハイハイ。


 脱衣所。ここもすごく銭湯だ。棚に籠がおいてあって、そこに脱いだ服を入れておくやつ。

 私はこの数日ですっかり慣れたようにするっと服を脱ぎ去り、一瞬で真っ裸マッパになった。



「さーて、ひとっぷろ浴びるかぁー!」


 意気込みと共に浴室に入ると、ざわっと視線が集まった。なんだオッサンこっちみん……な……




 ……やっべ、私今女だった!!


「しっ、失礼! 間違え申した!! しからばごめん!!」


 ぎゅんっと勢いをつけて引き返し、籠に突っ込んだ服を引っ掴んで赤い暖簾の方へ。

 あっぶねぇ……おっぱいはみられたか? 下はセーフか? 手ぬぐいで隠してたし!


「うわぁ、焦ったー。ふぅー……」


 女性脱衣所に入ったところで一息つく。

 隣から「痴女だー!」「どこに逃げた!? 背中流してあげるよー!」「おい、女物の下着落ちてるぞ!」とかいう声が聞こえたけどしらん。……いやまて、下着落としてたか? ん? いや、ちゃんとあるな?? それ私のじゃないぞ。怖っ。


 さて、改めてお風呂入ろうかね。

 しかし、なんか空気からしてむわっとした甘い匂いな気がするんだけど、男湯とはお湯の成分が違ったりする? 違うんだろうなぁ、出汁ダシが!!


「ふへっ……いやまぁ、今は私も女だしね。うんうん、不可抗力不可抗力」


 いざゆかん、女の園! 私は浴室へと足を踏み入れた。


  * * *


 いやぁ、おばちゃん達にめっちゃ可愛がられたぁー。


「あはは、村から出てきて初めてのお風呂だったんだ? 間違えて男湯にいっちゃうなんて馬鹿だねぇ」

「村では男衆と一緒に入ってたのかい? 女は共同ってタイプの村だったのか、たまにある。でも、町じゃ乳離れできない子供だけだよ」

「色街ならそういう商売のとこもあるけど、ここは領主様の風呂屋だからダメって覚えときなね」


 そんな感じ。雑談IN湯舟だった。現実はせちがれぇな。


 はぁー、恐縮です。ドモ。ウス、あざす。

 ……つーか、なんかこうおばちゃん達のより自分の胸の方がイヤラシイ感じで逆に恥ずかしかったんだけど。ハリというか、若さというか……臨戦態勢感が?


「にしても良い身体してんね。ちょっと揉ませてよ、ご利益ありそうだし」

「……あとでフルーツ牛乳でも奢ってくれるなら?」

「ちゃっかりしてるね! じゃあ私のも揉んでいいよ。子供5人を育てあげた自慢の乳だから、育児のご利益があるかもよ」

「あはは。マリア婆の胸なら安産も期待できるねぇ」

「わー、ありがたやー」

「カリちゃん、ウチもひと揉み良いかい? ダンナと最近ご無沙汰でさぁ」


 なんていうか、あれだね。

 単に胸にお肉があるのは、おっぱいとは違うんだなぁって。

 神様の言う「羞恥心こそ最高のスパイス」っていうの、なんか分かっちゃった気がするわぁ。


 あ、奢りのフルーツ牛乳は普通に美味しかったです。

 瓶じゃなくてコップだったけど、腰に手を当ててイッキがマナーだそうな。ぷはー。



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