襲撃? 倍返しだ!



 私カリーナちゃん。どうやら私、狙われてるみたいなの!

 怖いわ! 怖いから逆に私から乗り込んでぶっ飛ばすしかないわね!


 コトを始めるのは靴下を神様に納品してからにしようかとも思ったけど、もうしばらくサティたんとの思い出に浸りたいので、納品は明日にする。

 ついでに教会への寄付もしたいから、今日のところは悪人を狩って寄付金を稼ごうと思いまーす。わーどんどんぱふぱふー。



 というわけで、昼前はエサとしての価値を高めるために木こりをしました。

 ブレイド先輩達のお手伝いもあってまた銀貨40枚を稼いじゃったわけですよ。


 え? 木こりは飽きたって言ってなかったかって?

 これはメインディッシュに向けての準備だからいいのさ!


「なにー! 新入りのクセに銀貨40枚ももってくだってぇ?! なんてヤローだ! おめーとは今回限りだよ!」

「ヘッ、だまされるほうがわるいんだよー、だ! こちとらこれから商人になるんだ、受付嬢さん、銀貨25枚、いや、ここはパーッと40枚全部引き出しで! 景気付けにシュンライ亭で豪遊だぁ!」

「くっそー! おぼえてろよー!」

「おまえのかーちゃんでーべそー!」


 木こりをしつつ打ち合わせた三文芝居を冒険者ギルドでお披露目。これでターゲット達にも私の所持金と予定が伝わるはず。

 ブレイド先輩と喧嘩別れした風を装い、先輩達はハルミカヅチお姉さまの所へ先回り。私にはお酒と言いつつお水を出してくれる予定。


 私は堂々と自分の姿見せびらかすように町を散歩し、市場で買い物し、お酒の買取りを断られ、水に入れ替えた酒瓶をあおってのんびりシュンライ亭へ向かった。


「いらっしゃい。話は聞いてるよ、またひと稼ぎしたんだってねぇ?」

「ハルミカヅチお姉さまー! きーてくださいよぉ。このお酒、先輩商人に買わされちゃって!」

「まったく仕方ないねぇ。無料なら取引にならないから置いてってくれてもいいよ」

「んー、じゃあ5本くらいプレゼントしちゃう! お姉さま大好き!」


 あ、こちら協力料のお酒です。お納めください。

 この町でも売ってるお酒なので変な物ではない様子。


「おや、案外いい酒を買わされたもんだね。こりゃ今日はサービスしてあげないとねぇ。ま、飲みな」

「わーい」


 と、ハルミカヅチお姉様に注いでもらったお水を飲む。うん、話はバッチリ通ってるね。ただのお水もお姉様に注いでもらえば甘露甘露。ふへへ。



 というわけでぐだぐだお水を飲みふけり、夜の路地裏です。

 酒瓶の入ったリュック以外はほぼ手ぶらな私。


 ここで先日私がフラフラ歩いてたら絡まれたんだよねぇ。ほろ酔いで気付いてなかったけど。さーて、釣れるかなぁー?


 と、路地裏にある程度踏み入ったところで男が現れました。


「ここは通行止めだぜ」

「おやおやおや」


 お財布あくにんが飛び出してきた! おもわずにまりと笑みがこぼれます。

 ククク、今日はシラフだから逃がさないぜ?


「あん? なんだニマニマしやがって……おい、後ろ塞げ。よく見たら上玉だぞ、逃がすな」

「まかせとけアニキ」


 後ろに足音。ああ困った、お財布あくにんに挟まれてしまったわ! どっちのお金から拾おうかしら、悩ましいわ!!

 ……2人だけかな? うーん、まぁとりあえずはコイツらでいいか。



「なんだい君たちぃ。強盗? 私、襲われてる感じ?」

「へへ、分かってんならさっさと寄越しな。着てる服も全部な」

「もちろん、服の中身も俺らのオモチャにしたうえで奴隷商人に売ってやるよ」

「な、なにぃー、奴隷商だってー? でも、犯罪も借金もない善良な一般人を買う奴隷商なんているもんかー」


 つまりそいつは私の金庫ごくあくにんということだな! 間違いない!

 嬉しさのあまりセリフが棒読みになってしまったぞ。でへへ。


「おまえらにやる金なんてないね! どきな!」


 いや退かないで、襲ってきて。ほら早く、やくめでしょ。と、心の中でファイティングポーズを取っていると、目の前のお財布は剣を抜いた。

 明確な害意だ。この時点で正当防衛は成立するらしいが、私が過剰防衛にならないようもう少し欲しい所。


「なぁ嬢ちゃん、綺麗な顔に傷付けられたくないだろ? 大人しく言う事を聞けよ」

「バカかおめぇは。顔どころか身体に傷付けたら価値が落ちるぞ。刃物はダメじゃね?」

「ん?……言われてみればそうだな?」


 いやいや納得してんじゃねぇよ。襲って来いよ。こちとら空間魔法使って無敵スター状態で攻撃待ちなんだぞ。


「って誰がバカだごるぁ!!」

「時間差ぁ!?」


 よっしゃきた! ガツン! 剣の平たい部分で殴られる。刃を立てていなくとも剣は金属の塊、普通に鈍器だ。

 ま、私はノーダメージで1ミリすら動かないけど。これで正当防衛完全成立!


「なッ――」

「えい」


 しゅん、とお財布Aを収納空間におかたづけ。

 中では時間が止まっているので、暴れられる心配もない。


「な、お、おい! アニキをどこへやった!?」

「さて、どこだろうねー。消えちゃったねー、怖いでちゅかー? ベロベロバー」

「ひっ……うわああああああ!!」


 おっ、お財布Bが逃げずに襲い掛かってきた。グッド、一発殴られてやろう……うん、何の痛みも無いけど顔面に拳ぶつけられるのはちょっとびっくりすんだぞ。顔面強打VRって感じ? Vじゃないけど。


「硬ッ!? な、何なんだお前!」

「え? 善良な一般冒険者だよ。一方的に殴ってくるだなんて酷いな君ぃ」


 パチン、と指を鳴らしてお財布Bの下半身を完全固定。逃がしませんことよ?


「あ、足が動かねぇ!? ひ、な、ななっ」

「先に殺そうとしてきたのは君たちだからね……フフフ……おっと、情けない悲鳴は上げないでくれたまえよ。人が来ちゃうだろぉ?」


 声を遮断。

 ぱくぱくと口を酸欠の金魚のように動かすお財布B。


 ……自称混沌神でも逃げられないんだから、ただのお財布が逃げられるわけないんだよなぁ?


 さーて、それじゃあ色々と聞かせてもらおうかな! まずは金庫どれいしょうの事から!


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る