ご心配おかけしました。


「また飲もうねぇ。次は靴下脱がさせないからねぇ?」

「あははー、またねー」

「またお酒も買ってねぇ~」

「それはこりごりだよぉ!」


 私カリーナちゃん。お友達になったドワーフのサティたんとお別れしたの。

 ちっちゃくて、したたかな彼女には色々教えてもらっちゃったわ。


 っていうかなんだよもー、商業ギルド証はギルド証同士である程度の口座内のお金をやり取りできるって。

 電子決済的な機能ついてるのすげーな異世界。おかげで残高がギリギリなんだけど。

 とりあえずリュックが重いから酒瓶達は中身だけ一時的に収納空間へ移動させておく。ちゃんと瓶と中身を紐づけして正確に戻せるようにしておくのも忘れずに。


 一応それなりに良心的なお値段だし、個人取引レベルでちょいちょい全部売ればちゃんと儲けが出る程度には手加減してくれたらしいけど!

 纏めて売るなら酒取引免許のある酒屋さん相手じゃないと処罰対象だそうな。はい。



 まぁ授業料ってことで受け入れよう。

 実際、サティたんには色々と行商人のイロハを教えてもらったし。



「よし、神様に靴下納品――の前に、冒険者ギルドで依頼がないか見ておこう」


 そのひとつが、「ついでで配達依頼とかが受けられるなら受けといたほうがいい」である。


 冒険者ギルドはある程度依頼をこなさないとランク降格・除名処分になったりもするので、ちょいちょいそういう所をチェックしておいた方がいいらしい。お小遣いも入る。


 ついでにハルミカヅチお姉さまに頼まれたローションを仕入れられる町も教えてもらったので、そっち方面の依頼を探すのだ。



 そう意気込んで冒険者ギルドの扉をくぐると――


「カリーナ! 無事だったか! 探したぞ、無事でよかった」

「ん? ブレイド先輩。え、探してた? なんで?」


 私を見てホッとした表情を浮かべるブレイド先輩。

 無事って何のことだろう? 見ての通り怪我も病気もしてないですよ?


「一昨日の木こりをあまりよろしくないヤツに見られてたらしくてな」

「ああ、荷車も使って大々的にやってましたからねぇ」

「金をたんまり持ったソロの新人、しかも美少女ってんで、お前を襲おうとしてるヤツがいたんだよ。中身はアレだが、お前ほんと見た目は悪くないから」


 なんだよ中身はアレって。ハルミカヅチお姉さまに言いつけんぞ……いや、そうか。

 ブレイド先輩はシュンライ亭での私を見てるからそう言ってて、私もお姉さまに聞いただけで記憶は無いけど、確かに『中身はアレ』ってなる内容だよなぁ……


 それはさておき。


「言われてみれば、お金も持ってて身寄りもなくて美少女。宿に泊まってもいないとなると、まさに鴨がネギ背負って歩いてるようなもんですね。美味しすぎる」

「うん? まぁそういうことだな。で、さらに昨日商業ギルドで黒髪の女が商人に連れ去られたとか聞いてよ心配してたんだよ」

「なるほど。ご心配をおかけしました?」


 微妙に情報の精度が低いがそこはいいだろう。


「お持ち帰りはされたんすけど、相手も女の子だったんで私は大丈夫っすよ」

「おい、その女は大丈夫だったのか!?」

「そこで私じゃなくて相手を心配するあたり、先輩が私をどう思ってるか良く分かっちゃいますわぁ。別に良いけど。まぁ今回もまた私の記憶はないんですけどね、お酒はいってたんで」


 サティたんはちゃっかり私にお酒を売りつけてたので、大丈夫じゃないことをしてても合意はあったはずです。恐らく。きっと。めいびー。

 ロリに見えてドワーフで成人だから合法だしね!


「あ。お金については見ての通りお酒買わされちゃったんですっからかんってことで」

「……金が酒になっただけだから大して変わんねぇからな」

「それもそうか。あ、ブレイド先輩1本買います?」

「いやいい。多分ここらで普通に買える酒だろ?」

「困ってる後輩を助けると思って!」

「バカ言え、お前なら木こりですぐ稼げるだろ」


 それはそう。

 でもなー、今は差し迫った金欠でもないし、木こりは飽きた。それに襲撃者におびえて逃げるとか、なんで私が配慮してやらなきゃならないんだと。


 うん、ローションを仕入れに他の町へ行く前に、襲撃者を徹底的に潰してしまおう。

 いやむしろ、逆に襲撃してやろう。

 この町、ソラシドーレにはちょっとお世話になったしな。多少の治安改善に私が協力してあげようじゃないの! 今宵の空間魔法は血に飢えておるぜぇ。


「殺されそうなんだから、殺しても大丈夫ですよね?」

「お前が言うと洒落にならねぇな」

「ついうっかりやっちゃうこともありけり? かも? 手加減をミスったらね?」

「……洒落じゃないのか。あー、そのだな。先に手を出さず、一発食らってからなら正当防衛だ」


 なんか教会の持つ魔道具でそういうのが分かるやつがあるらしい。安心して正当防衛による暴力を振るえるじゃないか。ハハハ。


「過剰防衛だと罰金払うことになる。そしたら木こりに付き合ってやるよ」

「わーい! やりすぎても金でアッサリ解決!」


 そういうのもあるのか、異世界の人の命、軽い。

 ま、私も今はその世界の住人なんだけどね!


「先輩が木こり手伝ってくれるなら安心です! じゃ、早速やってきます」

「お前の事だから負ける心配はしねぇが、不意打ちと無関係の人を巻き込まないようにだけは気をつけろよ」

「はーい。明日の朝は、今日より少しだけ治安が良くなると良いですね」


 私の存在が一番治安を乱しそうというのは誰にも言わないでおく。



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