商人になりました!


 私カリーナちゃん。朝起きて収納空間から外に出たら足場が無かったの。

 危うく落下死するところだったわ! びっくりね!


 というか、昨日のはよくよく考えたらよくてナンパ、多分カツアゲ、悪くて人攫いとかだったんじゃなかろうか。

 この世界来てからまともな人ばっかりと会ってたからそういうのすっかり頭から抜けてたわ。そういう判断が付かなかったとか、記憶飛ばしてなかったけど十分酔っぱらってたって事だね。お酒、マジで気をつけなきゃ。


「てか、普通に夜中に女の子が一人で路地裏なんて行くもんじゃないね」


 むしろ女性が夜中に一人で「ちょっとコンビニまで」と歩いて出かけられる前世日本が治安良すぎたのかもしれない。私は男だったけど。



「あーあ、もう昼じゃん。寝過ぎたかな……」


 空中に浮かびながら、ぐっぐっと伸びをする。収納空間の中は温度や湿度が自在だから時間が分からなくなるのはどうにかならないもんかねぇ。靴下納品した時に神様に聞いてみようかな。


 とはいえ、お金も十分あるし時間なんて細かく気にする必要もないのが現状だ。寝すぎたところで誰が文句言うわけでもない。

 これってつまり自由気ままなスローライフってヤツでは? いいじゃん。これぞ異世界チートライフってなもんよ。


「よし、それじゃこれから商人ギルド行ってくるかな!」


 こうやって行き当たりばったり気楽に予定を決めてもいい。

 なんて自由なんだ。素晴らしい。

 私は、空から人通りのない細道に転移。商人ギルドへ向かった。



  * * *


「冒険者ギルドの身分証です」

「お預かりいたします。…………確認がとれました。提携口座から銀貨25枚引き落としでよろしいですね?」

「はい!」


 かくして、私は商人ギルドへ加入した。これで今日から私も商人だ!

 これで晴れてカリーナ・ショーニンを名乗れるぞー! いえーい!


「取扱商品はどのように登録しますか?」

「え? あー、なんだろう。適当に頼まれたらなんでも、とか? 旅しながら行商する感じでいきたいんですけど」

「ああ。冒険者のついでに行商、というタイプですね。では雑貨と。一部の品は規制がかかっていますので、お気を付けくださいね」

「規制?」


 説明を受けると、武具や塩等の戦略物資に相当する物、奴隷、希少生物、危険生物等、取り扱いができない代物というのがあるようだった。

 別途ギルドへの貢献度を積み上げ、講習を受けて免許を取得する必要があるとか。


 っていうか奴隷も商品なんだな、ほほう。



「そうですね、武器や塩、酒等でも、少量であればお目こぼしできると思います。が、個人取引レベルを越えてしまうと、諸々罰金、罰則が科せられたりしますのでご注意を」


 知り合いのパーティーに頼まれて装備1セット分、くらいであればお目こぼしされるが、大々的に売り出したりすると捕まるらしい。そりゃそうだ。


 毒物の取り扱い等もある程度効果が強いものは罰せられるらしい。

 こういった許可の要る品、ご禁制の品を知らずに取り扱ってしまうと逮捕案件なので、見慣れぬ商品や怪しそうな商品を仕入れてしまった場合は商人ギルドに確認を、とのことだ。

 没収されるかもしれないが、知らずに取引して罰せられるよりはマシだろう。


「ある程度は広く浅く、としておくことをお勧めします」

「はい、ありがとうございます! ついでに、行商におススメの品と場所なんかはあります?」

「あちらのラウンジで情報交換等されてはいかがでしょう。行商人の方が集まっていますので」


 商人ギルドの受付嬢さんが指した先には、ラウンジがあった。バー付き。

 冒険者ギルドの方は賑やかな食事処っぽかったが、こちらはオシャレなバーといった印象だ。

 ここにはたまに店持ちの商人もいるらしいけど、大体は行商人らしい。

 なるほど、先輩商人に話を聞ける場が商人ギルドに用意されてるとはありがたい。



 私がラウンジに向かうと、スッと静かに視線が集まった。主に胸に。

 おまえら、バレてんぞ。



「やぁ、話は聞こえてたけど、行商だって? おススメがあるんだけど、聞く?」


 おおっと、チャラそうな男!

 冒険者、特にブレイド先輩と比べると明らかにヒョロいその男は、私のおっぱいにチラチラ視線を向けつつグラスを片手に話しかけてきた。

 ガラスのコップもあるんだねぇ。ギルドでは木のコップだったけど。


 ……よし、ここはあえてぶりっ子風に聞いて情報を引き出してみよう!


「え-、おススメって、なんですかぁー? 教えてください、セ、ン、パ、イ?」


 そして前屈み&上目遣い! 谷間を強調! 突き刺さる視線!

 フフッ、我ながらあざといぜこのポーズはよぉ! ちょっと鳥肌立つけど!


「おぉ……あ、お、おススメね。おススメってのは魔石だよ。錬金王国に持っていけば高く買い取ってくれる。あちらでは魔道具、ポーションを仕入れてくれば絶対に損することはないのさ」

「アッハイ、ソッスカ」


 でもその国、滅んだんですよねー。

 情報が古い。いや、この世界だとこれくらいで普通なんだろうか。ちょっと確認してみよう。


「あのぉー? 錬金王国が滅んだ、なんて噂を聞いたんですけどぉー」

「ハハハ、噂でしょ? 国がそう簡単に滅ぶわけないじゃないか。ましてや混沌神の治める錬金王国だよ?」

「アー、ウン。ソダネー」


 よし、コイツから得るものはなにもなさそうだ! ターゲット変更!


 できれば女商人でもいたらいいんだけど……おっ、カウンターで飲んでる可愛い子発見!

 一見年下。しかしその手に持ってるグラスは間違いなくお酒!

 つまり合法ロリ――ドワーフさんと見た!(基本的知識調べ)


 私は男を振り切って、合法ロリの元へと向かう。

 くるんと天パなカワイイ赤い髪に、くりっとした緑のお目目。

 両手でグラスをもって可愛らしくお酒を飲んでいる。なんだろ、ワインかな。


「あのー、ちょっといいですかー?」

「ん? なによぉ? 酒の邪魔しないでよねぇ」


 ギロ、と睨まれるがここは踏ん張りどころだ。話しかける。


「私、さっき商人になりたての新人なので、ご挨拶しておこうかと。是非一杯奢らせてください」

「おぉ! 見る目あるじゃーん! 子供がお酒のんじゃいけませーん、とかいうバカがいるんだよぉ。私ドワーフだっつーのぉ、ねー?」


 奢ると言うや否や上機嫌になる。やはりドワーフ、酒が大好き。


「女商人の先輩であるあなたに是非色々ご教授いただきたいなって」

「うんうん。さっきいきなり男に色仕掛けした時はなんだコイツぅって思ったけどぉ、良い奴じゃん。いいよいいよぉ、お酒の分だけ教えてあげるぅ」


 よっしゃ、私は大銅貨1枚を取り出してパチンとカウンターに置く。

 マスター、これで先輩に一杯頼むぜ。


「まずは先輩の名前教えてください。私はカリーナです」

「よろしくカリーナ。私はサティ。本名は長いから愛称でいいよぉ」


 そう言ってサティと握手する。あっ、手がちっちゃい。温かくて柔らかい。

 これホントに成人してんの? 見た目だけで言ったら中学生だよこんなん。マジかわいいんですけど。サティたんって呼びたくなる。


「私は各地のお酒仕入れて売ってる商人だからぁ、お酒欲しかったら声かけてぇ」

「へー、お酒ってたしか許可制でしたよね」

「そーなのぉ。めっちゃ頑張ったぁー」


 ドワーフの酒売り。うーん、それらしい!


「まぁカリーナも飲みなってぇ。私からも奢っちゃげるよぉ」

「あ、はい。あ、いやでも酔っちゃうと私ちょっとアレでして」

「なんだい、私の酒が飲めないってぇ!?」

「頂きますとも!」


 あ、しまった。これまた記憶飛ぶ奴。

 そう思ったときには、サティたんは私にお酒を注いでいた。

 幼女からのアルハラ。ご褒美でしょうか?



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