天使かよ。天使だったわ。
私カリーナちゃん。神様からクエスト『美女の靴下(羞恥心付き)を入手しろ』を受けたの!
ぜったいあの神様ってばヘンタイですことよ? 口が裂けても言えないけど。
あと私の体にある意味爆弾が仕込まれていたっぽいので、早めに靴下を納品してプライベート空間を確保したい所存。
なんでこんな変態的な事に頭を悩ませなければならないのか……そうか、これが力の代償……? やはりなんの代償もない力なんて無かったんや……
「あの、大丈夫ですか?」
「はっ、あ、大丈夫ですシスターさん」
気が付けば私は教会の礼拝堂、一番前の長椅子に戻っていた。
手からはハルミカヅチお姉様の靴下が消えており、収納空間の時間の流れも緩やかにできる感覚がある。それが間違いなく神様と邂逅していた証拠となっていた。
「良ければ休憩室で横になって休まれて行かれてはいかがで――む、同業者でしたか。残念。世界に安寧あれ」
「はい? ああ、はい」
私の目を覗き込んで、スッと態度を変えて離れていくサキュバスなシスターさん。どうやら私に近づいたのは私の靴下を狙っての事だったらしい。なるほど、美人だものな。
……私もシスターさんのピンク色の瞳をしっかり見た瞬間に『あっ、同類だ』と感じることができた。うーん、ちょっと不思議な感覚。
ともあれ、今回の神様への用事は済んだ。私は教会を出て――あー、夕日が綺麗だぁ――そしてやっぱり教会に引き返した。先程のシスターさんに声を掛ける。
「すみませんご同輩。実はお金なくって……毛布とか借りられます?」
「ん-、そういうのって本来は寄付金を貰いたいんですが……ま、休憩室を一晩貸すくらいしてあげますよ。けど、晩ご飯は出せませんからね?」
「おおっ! ありがとうございます!」
拠点付きの同志とかすっごい頼りになるよね!
助け合いって大事だわぁ。私も商人になってお金稼いだら教会に沢山寄付するとしよう。
* * *
一晩あけて、一人寝の朝チュン。
折角貸してもらったので(まだ収納空間の部屋もできてないし)休憩室で休ませてもらった私は、暖かな毛布に身を包んだまま目を覚ます。
「……起きるかぁ」
毛布から出る。うー、この毛布コピーしちゃおうかなぁ。自分用へのコピーだし売り物じゃないからセーフ? 借りてるだけで自分の持ち物じゃないからアウト? んん……
セーフで! 温かい毛布には勝てなかったよ……!
というわけで収納空間に毛布が一枚追加されました。あ、やべ、ふらっと来た。
毛布、結構大きいもんなぁ。今までコピーした中では最大だぜ。
と、毛布を抱えて少し座って休んでいると、くぅ、とお腹が鳴る。
昨日の晩は干し肉を齧ってみたけど、塩辛いうえに硬くて上手く食べられなかったのだ。
前世のジャーキーがどれだけ研究されていたかが骨身にしみたわ……
基本的知識さんに食べ方があったけど、ナイフとかで削ってスープに入れて食べるべき物だったらしい。もっと早く確認すべきだったわ……ぐすん。
コンコン、と部屋の扉がノックされた。
「起きてますかー?」
「はーい」
シスターさんだ。私は毛布を軽く畳んで扉を開けた。
扉を開けると、シスターさんはトレーを持っていて。そこには小さなパンと野菜スープが乗っていた。ごくり、と喉が鳴る。
「どうぞ、朝ごはんですよ」
「えっ、ご飯は出ないんじゃ?」
「そりゃ、昨日の晩はもうご飯の用意出来てましたからね。朝ごはんくらいは出しますよ。お仲間でしょう?」
くそう、天使かよ。天使だったわ。サキュバスだけど。
……よく考えたら宗教ってこういう相互扶助だよなぁ。
日本では無宗教(と言いつつ仏教)だったけど、同じ神様を信仰するってだけで仲間判定してくれて助けてくれる組織って凄いありがたい。そら信仰もしちゃうわ。
「……そのうちお金稼いだら、一杯寄付しますね!」
「期待しないで待ってますねー」
「そこは期待してもいいですよ? 神様から色々授かってるんで」
「なら期待できますね。出世払いで大金貨くらい寄付してください」
「お? 言ったな? しちゃうぞ? 将来だけど」
「まぁ今はお金がないんでしょう? 教会からの施しをどうぞ」
パチンッ、とウィンクするシスターさん。やっべ惚れそう。
……って、こういう惚れっぽい感じも、私の体に仕込まれた罠だったり? ああ、でもこの可愛い女の子を前にしての多幸感は耐えがたい! 好き! そのムチムチボディに抱きしめられて圧迫されたい! 悪魔な尻尾とかあるんですかねぇ!?
「……ちょっと。私に発情しないでくださいよ? そういうの分かるんですからね」
「うぐぅっ!」
サキュバス恐るべし……!
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