神様と再会


 私カリーナ。今、教会に居るの!

 商人のお兄さんが言っていた通り白い建物ですぐわかったわ。何て素敵な場所かしら。


「お嬢さん。教会に御用でしょうか?」


 だってこんなにピンク髪で肉付きの良いシスターさんが居るんだもの!

 なぁにこれぇ、サキュバスかよ。

 えぇオイ。青少年の性癖がトチ狂うぞこれは。


 メリハリのある柔らかそうな身体に、思わず生唾を飲み込み、ゴクリと喉が鳴った。


「あー、その、お祈りをしていこうかと思いまして」

「まぁ! 大変良い心がけです。こちらへどうぞ」


 シスターさんに案内されて礼拝堂に入る。正面にはステンドグラスに木製の祭壇。身分証でもらった五円玉のような、丸い輪がシンボルの様だ。

 長椅子が正面を向いて並んでおり、ちらほらと人の姿があった。

 お祈りは好きな場所で好きにしていいらしい……長椅子で寝てる人もいるな。


「いいんですか、アレ?」

「あれもまたお祈りの形、ムのキョウチですね。イビキが煩かったら止めますが」

「なるほどね?」


 あれがお祈りになるなら私も敬虔な信徒になれそうだな。

 そう思いつつ、なんとなく一番前の椅子に座る。


 えーっと、どうやって神様に貢物を渡せばいいんだろう? とりあえず収納空間からハルミカヅチお姉様の靴下を取り出してみる。



 すると、一瞬で空間が塗り替わる感覚。

 気付けば夜の空のような星が輝く空間。見えない椅子に私は座っていた。

 前に神様と会った白い空間とは違うようだが、目の前には黒髪金目の少女、神様だ。


「やぁやぁ、ようこそカリーナちゃん! まってましたよ、さぁ靴下をください!」

「アッハイ」


 早速の催促に持っていた靴下を手渡すと、神様は「ひゃっほう!」と楽しそうに靴下を掲げ、それからそっと匂いを嗅いだ。


「うーん、このほんのりと香るお香の匂い。夜のお姉さまって感じがしてベリーグッドです。味はあとでゆっくり楽しむとしましょう」


 神様は靴下を収納空間に大事そうに仕舞った。

 見た目にそぐわない変態的レビューと今後の予定を聞いた気がするが、多分気のせいだろう。気のせいだと思いたい。


「……ところで、何故に靴下なんですか?」

「靴下というのは、その人の全てを支える足に最も近い存在です。だから、靴下にはその人の情報が、人生の一部が詰め込まれているんです。神様は情報を食べる生態なので、貢物としてとても適しているんですよ!」


 意外とまともな理由だった。

 ……いやまともだったらさっきのレビューはないな。なんとも後付けっぽい。


「履いてるのが恥ずかしくなるくらい長く履いたりムレたりした脱ぎたて靴下ほど良い貢物ですね! 今後もそういうのを期待しますよ!」


 あ、これやっぱ趣味だわ。神様ってば変態……


「何か?」

「イエナンデモ」


 にっこり微笑む神様。変態性が無ければとっても可愛い女の子にしか見えないけど、案外この変態性が神様の神様たる所以ゆえんなのかもしれない。


「ああ、そうですね。現状カリーナちゃんの収納空間には時間操作を付与してませんでしたね。これでは脱ぎたて靴下を保管しても冷めてしまいますし、収納空間内限定で1倍から0倍までの時間遅延設定ができるようにしてあげます。特別ですよ?」

「ワー、ウレシイナー」


 なんかしょうもない理由で空間魔法がパワーアップされたぞオイ。

 0倍、ってことは時間を止められるってことだよね。


 ん? でも確か時間魔法は禁術って言ってませんでしたっけ?……バレないようにしなきゃな。


「やっぱり新鮮なモノを食べたいですからね。海鮮とか入れてても腐りませんよ? 時間を止めて保存しておいたのをコピーすればいつでも新鮮な魚が食べ放題!」

「あ、それは地味に嬉しいかも」

「でっしょー? あと魔法とかを収納して保存、他で使うって使い方もできますよ。魔法の筒・改ネオ・マジックシリンダー!」


 ……神様、もしかしてとんでもないパワーアップしちゃいました?


「……この力ってホントに使っていい代物なんですかね……」

「この程度なら大丈夫ですよ、別に文明なんて滅んでも作り直せますし」


 国を作った自称混沌神を一方的にフルボッコできる程の力だけど、神様にとっては「この程度」なんだなぁ。


「一応補足しておきますと。空間魔法の複製にある程度の制限を設けようという考え、とても好ましいです。その心意気を賞賛してのパワーアップなのです……ということでよろしくお願いします」

「最後の一言が無ければ素直に頷けたんですけど。……手続き上、ですか?」

「素直に本音でもありますよ」


 む、そうなのか。なら――


「って、私が空間魔法の使用に制限かけようとしたの、どうして知ってるんです?」

「ギルドやお店、あと門なんかにもですが、ちょいちょい私を祭る祭壇がありますから。そこだと心の声が届きやすくなるんですよ。聞こえるのは決意とかそういう強い気持ちくらいですけどね」


 あと私自身が使徒なので注目しやすいらしい。ハジメテの時もシュンライ亭にある簡易祭壇からバッチリ見てたそうな。きゃぁー。


「なんかその……ごめんなさい。頂いた身体で……」

「大丈夫です。そういう欲求強めに作った身体なんで、酔ってタガが外れちゃったのなら当然ですよ。むしろ良いぞもっとやれって気持ちでいっぱいです」

「あの、神様?」

「だってその方が面白……いろんな靴下を入手できる可能性が増え……趣味です。これからもよろしくお願いします。靴下欲もちゃんと機能してるようで、さすが私の体をモデルにしただけのことはありますね」

「あの? 神様?」

「我が使徒よ、神はいつでもあなたを見守ってますよ……!」


 取り繕うのが面倒になったようだ。この神様ヘンタイ自由過ぎる。

 そして靴下欲ておま。まさか本能にそれ組み込んだの? ひでぇや……



「けれど、私の目から逃れてコソコソしたい時もありますよね? 反逆の準備とか」

「……そういう予定は一切ないですが、プライバシーは欲しいと今強く思いました」

「そんなあなたにこちら! コッショリくん!」


 ばーん! と手のひらサイズの台座付き卵のような像を見せてくる神様。


「こちらを部屋に置けば、その部屋の中は如何なる神でも見逃すことでしょう! 開けた場所では有効射程は半径10mくらいです!」

「おお!」

「まぁ本気で覗こうと思えば覗けなくはないですが、緊急事態を除き普段はカリーナちゃんが中で死んでも絶対覗かないことを時空神の名において約束しましょう」

「……私が死んでも、って。逆にどんな緊急事態だったら覗くんです?」

「10年くらい音沙汰ないとか、私の恋人が遊びに行った場合とかですね。無いと思いますけど」


 この神様、恋人関係はガチで触れない方が良さそうだな。


「というわけで、次に靴下持ち込んできたときの報酬がこちらなので。新しい靴下お待ちしております」

「ええっ、今くれないんですか!?」

「欲しければ対価を払いなさい、商人になるんでしょ?」


 ぐぅの音も出ねぇや。


「……私の靴下じゃダメですか? 一応美人ですよ?」

「ダメです。絵を描く人に自分で描いた絵じゃなんかダメって人いるでしょ? そういう感じでなんかダメなんですよねぇ」


 なので複製品を納品するのもダメ。含まれる魔力が私のものになってしまい、神様的に萎えるんだとか。


「今回は運よく入手できましたけど、美女の靴下とかそうそう手に入らないですよ。男の靴下とかじゃダメなんですか?」

「入手困難だから対価になるっていうのもありますが……男や老人子供の靴下でもいいんですけど、圧倒的に羞恥心が足りないんですよねぇ」

「羞恥心ですか」

「ええ、羞恥心こそ最高のスパイスです。羞恥心が伴わない靴下は圧倒的に価値が低い。そして美女ほど使用済み靴下を明け渡すのが恥ずかしいんですよ! ハルミカヅチちゃんも相当恥ずかしかった模様! 良き!」


 と、力説する神様。

 あと「洗濯済みだとほぼ無価値ですよ、そこんとこ注意してくださいね」と補足される。

 ……価値の低い靴下を納品したら神様は不機嫌になるそうだ。恐ろしや。


「……じゃあ、さしあたりあのサキュバスみたいなシスターさんの靴下を狙って……」

「あのサキュバスちゃんは私の『作品』の一人です。転生者ではないですが、いわゆる神の使い、天使ですね。種族はサキュバスですけど」


 天使も神様の手足に相当するわけで、私同様『なんかダメ』判定か。

 ていうか、天使がサキュバスってやっぱこの神様アカン方の神様なのでは?


「教会を監視するため、そこそこ大きな町の教会には一人くらい天使がいます。ついでに信者とかの靴下を提供してくれる、カリーナちゃんの同業者達でもありますよ。仲良くしてくださいね」

「同業者て」


 商人を目指してはいるものの、中古靴下業者になった覚えはないんだけどなぁ。

 仲良くするのはやぶさかではないけれど。


「……天使のと気付かずに靴下を納品しても怒らないでくださいよ?」

「私の眷属同士なら目を見たら分かるようになってるので、事前チェックをよろしくお願いします」

「あ、はい」


 そんなシステムが。わー便利?


「では、そろそろお時間です。またの訪問をお待ちしております、あでゅーノシ」

「え、あ、はい。あでゅー?」


 だからノシって。神様、この世界日本語じゃないっぽいんですけど? 異世界知識豊富なんですね神様。


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