セーフ、セーフ
私カリーナちゃん。神様から貰った(初期装備の)服を複製したの。
服を複製……洒落じゃないのよ!
え? 売り物の複製は最終手段だって?
これは自分用だからセーフ! それに私ってばゲームでは入手できるアイテムをコンプしたい主義の人。
折角無限に入るゲームの「ふくろ」みたいな収納空間があるんだから、神様作の初期装備なんて「それを売るなんてとんでもない!」だよ。
まぁこれは売ろうとしたんじゃなくて身ぐるみ剥がされたのでセーフ。
酔っぱらってた私の言った事は知らん。記憶にございません。ガチで。
……おっと、すこしふらっとする。
神様の言っていた通り、複製は結構MPを使うみたいだ。
「ありがとうございました。お別れは済ませました」
「ん」
複製の服をハルミカヅチに返す。
ハルミカヅチはキセルから口を離し、横に向かってフゥーっと煙を吐く。
「……そこまで大事な服なら、売らずに預かっててもいいけど?」
なんだ優しいな。これが私のハジメテの相手とか神かよ。
いや神様に感謝だわ。
「あ、お気遣いなく。実は同じものがいくつかあるんで」
「なんだそうかい。なら遠慮なく売り払わせてもらうよ。ま、アタシが使うのも良さそうだけど」
次に会った時に同じ服を着てた場合の言い訳も兼ねて、そう答えておいた。
「あの、ハルミカヅチさん。ま、また来ても良いですか?」
「ウチは客商売だから構わないけど、新人にはちと敷居が高いんじゃないかい?」
うぐう! 確かにCランク冒険者のブレイドが馴染みにするような店だもんなぁ。
しかも色々とアレな方面な娯楽のお店でもあるし、高いのも当然か。
早く商人になって稼げるようにならねば……
「それに、アタシの身体目当てってんなら……昨日は面白く口説かれてつい楽しんじまったけど、次は金とるよ? 女でも」
「いや、その。……ちなみにおいくらで」
「さて、アタシの気分次第かな……金貨100枚かもしれないねぇ。元々非売品なんだよアタシは」
クスクス笑うハルミカヅチに左手で顎をくすぐられ、びくんっと身体が反応する。
胸の奥がきゅっとすぼまるように切なくなり、ドキドキしている……くぅ、昨日の私はこのお姉さまを一体どう言って口説き落としたんだ!?
「うっ、いたたた……ハッ!」
「あ、先輩起きた?」
「お、おう……」
ブレイドが目を覚まし、体を起こした。パンツ一丁である。
つーかよく見るとわりと筋肉ついてんな、さすが冒険者で前衛職。
「あれ、なんで俺裸なんだ? あ、姉御」
「まったく、新入りに情けない姿を晒したねぇブレイド」
「おーぅ……」
こちらを見てバツの悪そうな顔をするブレイド。
「あー。……ツケで頼めないか? せめて装備分」
「フン、昨日一旦払ってくれたから良しとしとくよ。また稼いでくるんだね」
「恩に着る!」
慣れてるのか、装備とすっからかんになった財布をまとめてどさっとブレイドの隣に放るハルミカヅチ。
「いいかカリーナ。このように装備は頭を下げてでも確保しないといけないぞ。先輩からの大事な助言だ」
「(情けなさ全開っすけど)了解っす」
「……って、あれ。姉御、俺の剣がないんだけど?」
服を着つつ、返してもらった装備を確認してブレイドが言う。
その言葉にハルミカヅチは「そりゃ当然だろ」とキセルをふかしつつ答える。
「この嬢ちゃんの分、いつもより少し多めだったんだよ。手付けで大銅貨5枚分払ったら返してやるさ。適当にスライムでも狩ってきな、得意だろ?」
ついでに嬢ちゃんの面倒もみてやりな。とキセルをふかしつつ笑うハルミカヅチ。
しっぽがふわりとしててモフり倒したいですお姉様。
「……この後、資材置き場いくぞ。俺の木工スキルを見せてやる」
「うっす、勉強させてもらうっす」
なんかその、お世話になります?
あ。ちなみに病気とか避妊とかは魔法やポーションでなんとかできるし、実際こういうお店には専用の魔道具があって色々と絶対大丈夫らしい。(基本的知識さんより抜粋)
凄いね異世界!
* * *
ブレイドの木工スキルで簡易装備を整えて、町の外の森へとスライム狩りに赴いた。
「スライム狩りは廃材装備の方がいい。そう考えたら
スライムを狩った後は装備をしっかり手入れしないとダメになるらしい。使い捨てられる簡易装備であればそのままポイだ。
「ボーッとすんなよカリーナ。このあたりはスライム以外はあんまりでねぇが、スライムが沢山でるエリアだ。3匹以上に囲まれたらダッシュで逃げなきゃ死ぬぞ」
「うっす! 気を付けるっす!」
「良い返事だ。良い冒険者になるぜお前」
ブレイド先輩、そう言って褒めるの口癖なんすかね?
「それと今から俺のすることはあまりマネするなよ。できるに越したことはねぇが、新人は大人しく核を割って倒しとけ」
「え、何するつもりなんすか?」
「それは――っと、丁度出てきたな」
目の前に出てきた野良スライム。切り株くらいの大きさのぽよんと丸い水まんじゅう。その中に、丸い核が浮いている。
ブレイドはその核を簡易装備の角材で狙い、突きを繰り出した。
ずぼっとスライムの体内に侵入する角材――核にぶつかる直前に一瞬速度を落としてコツン、再度加速して突き抜け――無傷の核がスライムの体内から押し出され、転がり落ちた。
「おおっ!」
「ざっとこんなもんよ。ただ、このままでほっとくとスライムに戻るから狩ったらその日のうちに納品しなきゃなんねぇんだけどな」
無傷の核はその分高く買い取ってくれるらしい。割れた核でもスカベンジャースライムとかの素材や栄養剤になるのでそれなりの値段で買ってくれるそうだ。
……空間魔法ならスポッと抜き出せるな。
いや、風魔法と偽装するならむしろ周りのぷよぷよを飛ばす方がいいか。
「ちょっと魔法でやってみていいですか?」
「いいぞ。ま、今日のところは俺がいるから好きにしてみ」
「あざーっす」
と、次に出てきたスライムに早速魔法を使ってみる。
空間魔法でスライムの核以外を捕捉。
変形、スライドして風魔法で吹っ飛んだかのようにバラす!
「バースト!」
ぱちゅん! と、核だけを残して粘体部分が爆発四散した。成功だ。
「お、いけますねー」
「……やるじゃん。これならギルド証分はすぐ稼げそうだな」
「先輩が周囲を警戒してくれてるから安心して魔法が使えるんすよ」
「おっ、それが分かるとは良いセンスしてるじゃねぇか。やっぱお前、良い冒険者になるぜ」
こうして私たちは無事にそれぞれ5個のスライム核(無傷)を手に入れたのである。
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