なにはなくとも
神様から万能偽造身分証を貰い、無事町に入ることができた。
だが毎回催眠するわけにもいかないので、さっさとちゃんとした身分証を入手しなければならない。
身分証ロンダリングが必要だ。
そんなわけで商人ギルドへとやってきた。石造りの大きな四角い建物である。
中に入ると、あわただしい空気が流れていた。うーん、商談の喧騒が流石商人といった感じ。
総合カウンターというところの受付嬢さんに声を掛ける。
「あのー、ギルド証が欲しいんですがどうすれば……」
「新規加入ですか? では身分証と、ギルド加入費に銀貨25枚を」
「あっ、すみませんまた来ます」
身分証は神様から貰ったからともかく、そういえばお金がないのである。
お金……
物語で言えば、無一文から稼ぐならやはり冒険者ギルド。
空間魔法を使えば魔物狩りだって余裕だ。なにせ自称混沌神だって一方的にフルボッコにできるほどなのだから。
基本的知識さんも冒険者ギルドは腕っぷしがあれば稼げると言っている。
冒険者兼商人というのは、行商人だと特に珍しくないようだ。
それになにより、冒険者ギルドなら登録料を後払いもできるらしい。
「……一度、冒険者ギルドで登録して、少し稼いでから商人ギルドだな」
というわけで今度は冒険者ギルドへとやってきた。
木造の酒場みたいな建物である。実際酒場も兼ねているらしい。
入ると、視線が私に集まるのを感じた。主に胸に。おいおまえらバレてんぞ。チラチラ見てると尚更分かりやすいぞ。
幸い絡まれるという事はなく、普通にカウンターへ。
受付嬢さんに話しかける。
「すみません、冒険者になりたいんですが」
「かしこまりました。では身分証と、登録料に大銅貨5枚を。現物か後払いでも構いませんが、この場合大銅貨5枚と中銅貨1枚分になります」
「後払いでお願いします、これ身分証。カリーナって言います」
流石に現物といって懐から丸太を出すのはマズいだろう。魔法のカバンってのはあるらしいけど高価だし、丸太が入る容量ともなればかなりのモノ。そもそもカバンすら持ってない。
私は予定通り後払いを選択し、万能偽造身分証を見せた。……本来なら村長や先輩冒険者からの一筆とかになるらしい。
ちなみに銅貨1枚で黒パンが1つ買える程度。
中銅貨は銅貨5枚分。大銅貨は銅貨10枚分。
銀貨は銅貨100枚分で、金貨は銀貨100枚分。中、大貨は銅貨と同様だ。
(商人だと計算ができるから中銅貨、大銅貨とはあまり言わなくなるらしい)
だからまぁ、冒険者ギルドの登録料は元々5000円なのが後払いだと5500円になる、みたいな感じ。
「はい、身分証は問題ありません。ではカリーナさん、こちら、ここでのみ使える仮ギルド証となります。支払いが済んだのち改めてギルド証を発行しますね。現状はGランクとなります」
「あ、はい」
番号の入った木の札を受け取る。なるほど、こういうシステムなんだなぁ。
ちなみにランクは仮登録がG、Fで新人。Dで一人前、Cが
まぁよくありそうな感じだよね。うん。
「早速だけど、魔物の討伐とかってお金貰えるのかな? 宿に泊まるお金もなくて……」
「武器もなしに魔物の討伐はちょっとおススメできませんね……」
私が受付嬢さんと話をしていると、ギルドの酒場スペースで飲んでいた赤ら顔の男が木のジョッキを片手に千鳥足でやってきて話しかけてきた。
「おーおー、嬢ちゃん金に困ってんのか? 俺が一晩買ってやろうか。大銅貨6枚出してやるよ!」
「ちょっと! ブレイドさん!?」
……なるほど、そういえば私は今女の子。何はなくとも身体があった。
下を見れば、ナニはなくともおっぱいがあった。
まぁ、中身が男なので男相手に身体を売るのはノーセンキューなわけだけど。
「……フッ、私を買いたければ金貨100枚持ってくるんだな、酔っぱらい」
触ってきたらぶっ飛ばしてやろう、と身構える。
しかし、男はその場でぷはっと噴き出した。
「だはは! 買いたいのは山々だが、そんな金あったら冒険者やってねぇや! あー、すまんすまん。ほら、迷惑料だ。受け取ってくれ」
そう言って、赤ら顔の冒険者はピン、と穴の開いた銅貨――中銅貨を弾いて寄越した。
困惑しつつ、ぱしっと受け止める。
「ナイスキャッチ。良い冒険者になれるぜ」
「えっと……ありがとう?」
「だはは、これで勘弁してくれや。ははは!」
そう言って男は酒場スペースへ戻る。「やーい、振られてやんの」「あわよくばとか思ってたくせに、カッコつけやがってコイツぅ」「うるへー、新人へのサービスだっての!」と、仲間であろう2人と騒いでいる。
「……うーん、絡まれたかと思ったけど、ただの親切なお兄さんだったか」
「ええと……まぁ、はい。ブレイドさんは面倒見のいい人なんですよ」
「ブレイドさんね。覚えとこう」
こうして、私はこの世界で初めてお金を手にした。
初めて手にしたお金は、先輩冒険者のお節介による投げ銭であった。
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