カミケテ ~神様、決して走らず急いで歩いてきて そして早く私を助けて~



 私、カリーナ! 商人目指して錬金王国からパヴェルカント王国、ソラシドーレへとやってきたの!

 でも故郷の錬金王国が滅んじゃったからここで身を立てないと生きていけない、大変大変!

 荷物は途中で錬金王国のお友達モドキに盗られちゃったので何にも持ってません!



「ほぉー……大変だったな、それが真実であれば、だが」


 そんな感じの事を話したところ、思いっきり怪しまれています。

 いやぁ、うん。私も今気が付いたんだけどさぁ、私ってば身綺麗すぎるのよ。


 この世界、錬金王国からこの町まで徒歩でやってきたとするじゃん?

 しかも襲われたとか言ってるのに全然汚れてないの。


 うわー怪しい。


「……あー、実は魔法で飛んできました」


 空間魔法程ではないけど、魔法で空を飛ぶことは不可能ではない。

 だがこうして嘘ではない程度に真実を話すと……


「ほう? 君は魔法使いだったのか。それでどうして荷物を奪われたんだ?」

「寝起きで、その、とるものもとりあえず?」

「商人を目指している者が、か?」


 わーん、ガンガン突っ込まれるよぅ!

 そりゃ兵士さんもそれが仕事だもんね! くそう、こんなことなら門から入らず直接町の中へ転移すべきだった!



 その後、商人の証明だと読み書き算術ができることを見せると、今度はスパイ容疑で疑われる始末。だがこんな間抜けなスパイが居るか? と庇われたりする。

 さらには私が陽動かも知れないと警備を補充するとかで大事に……ああああああ! 神様助けてぇ! あなたの使徒が困ってます!


『ん? 今、呼びましたー? 切実な祈りを感じたんですが』

「神様っ!?」


 神様の声。ハッと兵士さんを見ると止まっていた。

 どうやら時間が止まっているようだ。


「こ、これは……時間停止!?」

『ええ、私ってば時空神なもので。今この部屋の時間だけ止めてます。犬が居なくて助かりましたね、この魔法ってば犬は止められない制約なんですよ』


 なぜに犬だけ???


『尚、時間系スキルは禁術なので貴方に与えてないですよ。覚えるなら自力でどうぞ』


 あっさりそう言う神様。

 覚えられはするんですね。禁術だけど。


『で、助けても良いですが、貸しひとつですよ。今度教会に貢物を捧げてくださいね』

「は、はい! あ、でもできれば解決とか貢物は穏便な方向で……」

『私を何だと思ってるんですか……無闇に人を殺したりしませんよ』


 破壊神か何かだと思ってました。


『身分証を収納空間に入れときました。それを見せれば解決します』

「あ、ありがとうございます! 絶対貢物をお届けします!」

『では3、2、1……』


 神様のカウントダウンと共に、止まっていた時間が動き出す。


「あっ! すみません、身分証がありました!」

「む? 無くしたと言っていたはずだが?」

「ええと、服の生地の裏のところに隠してたやつがありまして――これです」


 そう言いつつ、懐で収納空間を開いて神様から貰った身分証を取り出す。

 それは、五百円玉より少し大きいメダルだった。中央には穴が開いている。

 身分証を兵士さんに渡すと、まじまじとそれを見る。


「……これは……そうか」


 兵士さんの態度が明らかに変わった。いかつい顔がとろんと柔らかくなる。


「うむ、問題なし。通っていいぞ。まったく、これを最初から出したまえ」

「あ、はい。ありがとうございます」


 すごい、神様の身分証。良く分からないうちに通れてしまった。

 と、兵士さんから返された身分証のメダルを改めて見る。


 ……サイズの大きな五円玉だった。


 え、異世界は五円玉が身分証になるの? そう思ったとき、脳内に神様の声がした。


『催眠で「これはちゃんとした身分証である」と思わせるアイテムです。あんまり使うと効果が薄れるので多用はしない方が良いでしょう』


 あの。神様って実は悪神だったりします?

 とは思いつつも、助かったのでそれは口にしないことにした。


『それと貢物は美女の靴下でお願いします、貴方以外ので』

「……なぜに美女の靴下? あの、神様って女神でしたよね?」

『趣味です。ではノシ』


 神様って、変な趣味もってるんだなぁ……



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