最初の町、ソラシドーレ
まずは……どうしようかな?
商人となるなら、まずは売り物を仕入れなければ話にならない。
本来なら元手、つまり先立つお金が必要になってくるわけだが――この世界にやってきたばかりの私にそんなものあるわけもない。
しかし私は空間魔法が使える。そして幸い周囲は森、つまり木がいっぱいある。
空間魔法を使えば、木を切断・収納・運搬、どれも問題ないわけだ。
「あとはその木を売ればお金を作れるって寸法よ」
神様の懇切丁寧なチュートリアルのおかげで魔法の使い方は分かっている。
国を切るよりは容易いだろう。
「【空間切断】」
私がそう唱えると、周囲の木がすぱすぱっと切れていく。
完全無詠唱でやれなくもないんだけど、口に出して発動した方が頭の中が楽、それと消費MPってのも軽減できる。実際何ポイントあるかは知らないけど。
神様のチュートリアル中は無限に供給されていたけど、今は限りがあるからね。
ま、寝れば回復するみたい。ケチりはするけど、出し惜しみはする必要なさそう。
「枝は打ち払うんだっけ? 【空間切断】」
木の枝を切り落とし、丸太にしていく。あっというまに5本の丸太が出来上がる。
「【収納】」
そして、5本全部が収納空間へと格納された。
収納空間の容量? 少なくともこの惑星の地表にあるものを全部入れても大丈夫っぽい。実質無限と言っても良いんじゃないですかね。
あ。
というか今更だけど、そもそも、身分的には大丈夫なんだろうかこの身体。
戸籍とかは、人頭税の関係でそこらへんは日本ほどではないけどしっかり数えられているらしい。
……んん、まぁ今は自称混沌神が治めていた錬金王国が無茶苦茶になったから、そのゴタゴタに紛れればいける、か?
それと戸籍ついでに自分の名前も忘れてた。
「まさか自分の名付けからしないといけないとは……あー、神様がチュートリアルしてる間に考えておけばよかった」
前世の名前……いや、身体が性別からしてガラッとかわってるんだ、同じ名前だといつまでも男の意識が抜けなくて困るだろう。
とりあえず仮の名前でもつけておくか。後で良いのが思いついたら変えればいいし。カリノ、カメー、いや、カリーナかな?
あとは普通の平民だと苗字は付けないけど、商人は屋号を苗字のように名乗るらしいからそれも考慮して……カリーナ・ショーニンとしておこう。
「カリーナ・ショーニン。うん、とりあえずはこれでいいか。……なんか思いの外しっくりくるぞ?」
なんでだろ……神様が適当に作ったからとかかな? まぁいいか。
とにかく、私、カリーナ・ショーニンは改めて人里を目指すことにした。
* * *
空から探せば、人里はあっさり見つかった。
というか錬金王国から伸びてる街道を辿れば一発だ。平原にある城壁に囲われた町、いわゆる城塞都市を見つけることができた。
基本的知識によれば町の名前はソラシドーレ。錬金王国の隣国、パヴェルカント王国の都市らしい。
「ここを最初の町としよう!」
設定としてはこうだ。
錬金王国が神の怒りに触れ滅んだので慌てて逃げてきた。
先日錬金王国で商人になったばかりだった。
何か仕事が欲しい。できれば行商人になりたい所存……
「……まぁ、算術読み書きはできるし、何とか仕事にありつけるだろ」
というわけで、ソラシドーレの門の近くへと転移する。
幸い、人通りはほぼなかった。
見上げるような高さの壁。そこにある立派な門。
そこには門を守る兵士が詰めている。そっと覗くと、兵士が声を掛けてきた。
「身分証の提示を」
おおっと、身分証。ちくしょう、そんなの持ってねぇよ……!
「その、すみません。無くしました……」
「ではお引き取りを」
「あ、いや、その、襲われて!」
アッサリ追い返されそうになったのでそう言って食い下がる。
すると兵士は表情を変えて食らいついてきた。
「なんだと、詳しく話せ! どこで何に襲われた?」
「あ、ええと。錬金王国なんですが、その、か、神様に? で、荷物も捨てて逃げてきたというか……」
「は? ああ、いや、錬金王国……」
私がつい少しだけ本当の事を言ってしまったところ、兵士は少し考えこむ。
数秒黙っていた兵士が、ふむ、と頷いて再度口を開く。
「お前は錬金王国の者なのか?」
「ええと。はい。カリーナと申します」
「そうか。こっちへ来い。詳しい話を聞かせてもらおう」
兵士に呼ばれて詰め所へと入る。
ガチャリ。
と、鍵のかかった音がした。んん?
「さて。カリーナといったか。貴様は何者だ?」
……もしかしてこれ尋問ですか?
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