第119話 ミィスガルド対ブレリィ&サレーナ&ミラ
シャルハートとリィファスが見守る中、戦いが始まった。
ミィスガルドは腕を組んだまま、仁王立ちを続ける。地面に突き刺した白銀の大剣にはまだ手を伸ばしていない。
「……『白銀三姉妹』、必ず倒す」
サレーナは両腕に纏わせた冷気を解き放った。
「『
冷気は凝縮し、剣へと変化する。その数は六本。遠慮なしの一撃だ。
ブレリィが氷剣の後についていく。背中の鞘からオルトハープンを抜き、しっかりと握りしめる。
「飛び道具を盾に接近か。なるほど、少しは分かってるようだな」
「ブレイヴ、失敗しても第二の矢がある。頑張れ」
「頑張ってみるよ」
瞬間、突風が起きた。
すると、氷の剣が全て砕かれた。後ろにいたブレリィはバランスを崩し、転倒する。
ブレリィ達の視線が、ミィスガルドの左手に握られた白銀の大剣へ注がれる。
「頑張ってみる、か。随分ヌルい言葉だな。そして、随分ヌルい攻撃だ。素振りしただけで砕けちまった」
ミィスガルドの姿が一瞬ブレた。次の瞬間には、ブレリィの眼前に白銀の騎士が立っていた。
「速い……けど、抵抗させてもらおう」
「ん? なんだか妙な剣持ってるな。だけど――」
ブレリィがオルトハープンを縦一線に振り下ろす。だがその刃は空を切る。直後、ミィスガルドの拳がブレリィの頬を捉える。
「ぐぅ……!」
「はぁ!? 何だよそれ!? 何で力抜いたパンチ一発でそんな飛ぶんだよ!」
ブレリィの身体が数メートルは飛んだ。受け身も取れずそのまま地面に背中を打ちつける。
すぐに起き上がったブレリィはオルトハープンを構え直す。フォームが先ほどより少しブレていた。
「……あんなに威勢が良かったから、少しはやると思っていたんだけどな。アタシの見込み違いか?」
「やぁ!」
ブレリィの横薙ぎ。しかし、速度の乗っていない斬撃は白銀の大剣によって阻まれる。
――まるで壁だ。
オルトハープンをいくら押し付けてもビクともしない。単純な腕力だけの問題ではない。戦闘経験が豊富なミィスガルドによる効率的な力の入れ方のせいでもある。
そう認識した次の瞬間、ブレリィの視界が大きく揺れた。
「足元がお留守だ」
防御を突破しようとしていたブレリィの意識を刈り取るように、ミィスガルドが足払いを繰り出した。
それを見ていたシャルハートは改めてミィスガルドの技量を評価する。
(……超実戦向けの戦法。この運動場が戦場なんじゃないかと錯覚するな)
「シャルハートさん、皆は――ミラさんは勝てると思う?」
シャルハートはきっぱりと即答する。
「勝てる。だってミラは、戦いにおいて大事なものを持っているんだから」
白銀の大剣を振り上げるミィスガルド。シャルハートは厳しい表情をしながら見つめていた。
「ブレイヴ、逃げて」
サレーナの援護攻撃により、ミィスガルドは一度大きく距離を離した。
その隙を突き、ミラは右手を
「『
ミラの右手から火球が放たれる。ライフル弾のごとく回転しながらミィスガルドの胸元へ直進する。
ミィスガルドの視線は火球へ向いていた。狙い、そして攻撃を仕掛けるタイミング、共に良い。
しかし――ミィスガルドは右拳を振り上げる!
「魔力の入れ方がなってない! 気合い入れろ!」
ミィスガルドの拳がミラの精一杯の火球を打ち落とした。魔力による保護なしでの芸当。ミラの顔が絶望の色に染まる。
「うそ……」
「ミラ、呆けない」
サレーナがミラを掴み、大きく跳躍した。『
直後、さっきまでミラがいた場所を魔力の衝撃波が通過する。ミィスガルドを見ると、白銀の大剣を振り下ろしていた。
サレーナはそれを見て、内心舌打ちをする。遠距離攻撃は出来ないと高をくくっていたが、それは大きな間違いだと認識させられた。
第二、第三の矢を考えなくてはならない。思考を回しているサレーナは、ふとミラの様子が変なことに気づいた。
「ミラ、どうしたの?」
「サレーナさん、『
先程の回避行動の事を指しているとすぐに理解したサレーナは頷いた。
「出来る。知ってると思うけど『
「そっか……」
ミラの頭の中でミィスガルドに一泡吹かせるための策が一つ浮かび上がった。
ただ、恐らくチャンスは一回。リスクは当然、しかし、必ずリターンはある。歴戦の勇士であればあるほど、この策は有効なはずなのだ。
「やぁ!」
「まだ来るかモヤシ!」
ブレリィがミィスガルドへ接敵。再び斬り結ぶ。
「ミラさん! 何か思いついた顔をしているね! ならその一手に僕は乗りたい! というかこのままやっても、正直勝てそうにないから何とか一泡吹かせたい!」
「正直が過ぎるんだよドアホが!」
ブレリィの
まるで巨大岩石が真正面からぶつかったような衝撃。強烈なタックルに再びブレリィは地面を転がることとなる。
ふらふらになりながらも、ブレリィは立ち上がり、ミラへ言葉を送る。
「僕だけじゃ駄目なんだ、サレーナさんだけでも多分駄目。だから、ミラさんもいなきゃ駄目なんだ。だから!」
「ミラ。何かあるなら、一枚噛む」
「私を信じてくれるの?」
「……ずっとあの
「サレーナさん、ブレイヴさん……」
その様子を見ていたシャルハートはゆっくりと頷いた。満足げだ。
リィファスは驚きを隠せない表情だった。
「シャルハートさん、正直驚いている。普通、渾身の攻撃をあんなにあっさり防がれたら、諦めるよ」
「そう。普通は諦める。戦力差に絶望する。開きがあればあるほどね。……だけどミラは違う」
シャルハートとリィファスはミラの眼を見た。
あれが今、窮地に立たされている者の眼だろうか? 否! これは始まりだ。ここまで圧倒されていても良い、最後に立っている者が勝ちというそんな泥臭い逆転劇の――。
「私、頑張りたいことがある。だからサレーナさん、ブレイヴさん、力を貸してください!」
その言葉に頷かない者はいなかった。
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