第118話 ブレリィ、名乗りを上げる
ブレリィが名乗りをあげた直後、サレーナが立ち上がった。
「なっ……ブレイヴ、それは許されない。一番槍はこの私と相場が決まっている」
戦闘において一家言持つ女サレーナはブレリィの前に出る。
あのミィスガルドの威圧を受けてもなお二人が前に出たというこの事実は、ウルスラを喜ばせた。
「素晴らしいですよサレーナ、ブレリィ。あなた達は実に勇敢です。この荒くれの擬人化を相手に挑もうと言うのですから!」
「おいウルスラ、アンタそれ国の問題に発展するぞ」
ミィスガルドの諫言に対し、ウルスラは首を横に振る。
「それには問題及びません。なにせ頼れるこの私ウルスラ先輩なのですから。それよりも、一対多は不得手だったりしますか?」
目を細め、ミィスガルドはウルスラの言葉の裏を読み取る。仮にもクレゼリア学園の生徒側のトップからのこの発言。
つまり、これはレクレフリア王国の戦技がクレゼリア王国の戦技に通用するか――そう問われているに等しい。
挑戦。この二文字が白銀の次女に強くのしかかる。
常に逆境とともに生きてきた白銀の乙女が、これしきの挑発に乗れないようで何が『白銀三姉妹』だ。
ミィスガルドは答えた。
「物の数ではない。何ならもう一人いてくれても良いんだがな」
「だ、そうですよ。トップバッターのブレリィ君。どうします?」
ブレリィは明朗な口調でこう答えた。
「はい! ならもう一人応援を頼みます!」
ブレリィはとある人物の元まで歩き、まるで騎士のように恭しく
「ミラさん、僕とサレーナさんのチームに入ってくれないかな?」
その言葉に反応する者ありッ!
「え、今なんて?」
「シャルハートさん、魔力漏れてる。魔力漏れてるよ」
隣にいるリィファスが冷や汗をかきながらシャルハートに落ち着くよう忠告する。
しかしながら、シャルハートの動揺をリィファスは理解していた。
シャルハートにとって、ミラとは光だ。ミラがいるから今のシャルハートがいる。彼女が傷つけられるようなことがあれば、必ずシャルハートは報復をする。リィファスにはその確信がある。
「でもシャルハートさん、これはいい機会だと思うよ?」
「ミラガケガスルカモシレナイノニ、イイキカイナノ?」
「聞いたこともないくらい早口だね……。いや、僕だってミラさんが怪我するのは望まないよ」
でもね、とリィファスは続ける。
「シャルハートさんや僕含めて皆が側にいないとき、誰がミラさんの身を守ってあげるの?」
「それは……」
「分かってるはずだよ。最後に振るわなければならないのは自分自身の力であり、そして勇気だって」
「……分かっていますよ。追い詰められれば追い詰められるほど、最後に物を言うのは自分自身なんですから」
前世に嫌というほどシャルハートが感じた現実。
そこからシャルハートは無言で見守ることにした。ミラへ向けられる視線には不安が混じっている。
「あの、ブレイヴさん。どうして私に? 私、強くないですけど……」
「そんなことは関係ないよ。僕はミラさんが強いと思ったから声をかけたんだ。だからお願い出来るかな?」
ミラはちらりとシャルハートを見た。どうして見たのか、自分自身分からないが、ミラは無意識にそうしていた。
一番の友達は無言で頷いた。そしてパクパクさせた口から出る言葉を読み取った。
――頑張れ。
「うん、頑張ってみる……」
小さく呟いたミラは、ブレリィの申し出を快諾する。
「ブレイヴさん、私で良ければ頑張ってみる!」
「そう言ってくれると信じてたよ! ミラさんありがとう!」
ミィスガルドの前にブレリィ、サレーナ、そしてミラが立つ。
「ミィスガルドさん、僕はブレリィ・マリーイヴです。史上最強の勇者を目指す者であり、貴方に挑戦する者です」
きっぱりとブレリィは言った。
大言壮語甚だしい、その言葉はおくびにも出さず、ミィスガルドはじろりと三人を睨みつける。
「アタシはさっきヌルい戦いは好まない、そう言ったはずだよな。何だその最後に入った奴は。そこの青髪は良い。お前は青髪には劣るが及第点の及第点。だけど、そこの奴は明らかに場違いだ。いらない怪我をさせちまうぞ」
ミィスガルドの見立ては非常に正確であった。最前線に身を投じている彼女の瞳はブレリィ達の戦力を看破していた。
そんな彼女の言葉に反応する者が一人。
「私のミラ相手に随分余裕そうですねミィスガルドさん」
「お前がしゃしゃり出てくるのかシャルハート・グリルラーズ」
「むしろここで出てこないで、何が友達か」
シャルハートとミィスガルドの視線が交わる。二人としては、これからすぐに戦うという流れになっても良かった。しかし、彼女たちには簡単にそうすることの出来ない理由がある。
あくまで戦うのはブレリィたちだ。
シャルハートに許されたのは友達を信じるのみ。
「あと勘違いしているようだけどミィスガルドさん、ミラの事を舐めてもらっちゃあ困りますよ」
「はぁ?」
「ミィスガルドさん、貴方はミラに負けるんですよ!」
「ええっ!? シャルちゃん!? 何言ってるの!?」
「ほう!? 『白銀三姉妹』が戦闘ドシロートに負けるというか! 実に面白い冗談だなぁシャルハート・グリルラーズ!」
「冗談かどうかはこれからわかりますよ! ブレイヴ君、サレーナ、ミラ! 絶対に負けるな! 玉砕覚悟で敵を討て! 我が覇道のために散るが――」
リィファスが慌てた表情で、シャルハートの口を塞ぐ。
「ストップ、シャルハートさん。だんだん前世が出てきているよ」
そこでウルスラが割って入る。彼女は爆笑していた。
「あははは! 流石にこの展開は読めませんでした! だけど読めないからこそ面白いです! 鉄は熱いうちに打て――早速、ミィスガルド対ブレリィ達の戦いを始めてください!」
絶対に負けられない戦いのゴングが鳴った。
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