第113話 勇者の剣について

「へぇ……ブレリィ・マリーイヴ、ね」


「ボク達がいない間に、そんなおもしろそーな子が来たんだね! 良いなーボクの所にもそういう子が転入して来ないかなー?」


 いつものメンバーにアリスとエルレイも加え、昼食をとっていた。

 リィファスがブレリィの話をするやいなや彼女たちは目を輝かせた。


 ――史上最強の勇者になること。


 勇者の娘達からすれば、似たような目標を掲げる者の存在の事を知りたいと思うのは自然なこと。

 シャルハートは話には加わらず、忠臣ロロが作ってくれたお弁当を食べながら、話題になっている勇者志望の事を考えていた。


(ブレイヴ君は結局、あの剣については何も喋らなかった)


 彼が背負っている得物を思い浮かべる。

 開かれた翼を思わせる山吹色の鍔、若草色の柄を持つ長剣。あれから放たれる気配は、明らかにその辺の剣ではないことが分かる。

 念の為、威力を調整した魔力波を飛ばして『検査』してみたが、やはり正解だった。


(あれは力ある剣だ。魔剣……いや、性質的には聖剣に近いか? 流石にアルザ達の剣には劣るけど、それでも間違いなく上から数えたほうが早いぐらいの『格』を感じる)


 ふいにアリスから声を掛けられた。


「シャルハート、そういえば聞きたいことがあるのだけど」


「あ! そうだそうだ! ボク達、シャルハートにどーしても聞きたいことがあるんだよ!」


 真剣にそう言う二人。それに対し、シャルハートは居住まいを正した。


「パパやアルザおじさんが持っている剣って、どうやって手に入れたの?」


「剣? って言うと……あぁ、極光剣グランハースと極闇剣メディオクルスか」


「ええ、それのことよ。今日の授業の一つに、魔法仕掛けの道具や武器についての内容があったのだけど、その中でお父様やディノラス様の持つ伝説の剣も出てきたの」


「なるほど、その辺語るなら両界の最強剣は外せないよね」


 両界の最強剣も大雑把にカテゴライズすると『魔法仕掛けの武器』になる。格は当然最高位。

 それほどの剣をどうやって手に入れたのか、気になるのは当然だろう。シャルハートは腕組しながら何度も頷く。

 魔を極めた者である彼女は当然、入手経路を知っている。極秘の内容でもないのでシャルハートは語ることにした。

 まずは手始めに、彼女達の勘違いを訂正するところから。


「そもそも、あの二本は『手に入れる』っていう表現じゃないんだよね」


「どういうことなの? お馬鹿のエルレイにも分かるように説明してもらえるかしら?」


「ねえアリス、今ボクちょー斬り合いたくなった」


 すぐにミラが二人を止めた。最近はミラもこの二人の扱いに慣れたようで、即座に熱を下げることが出来た。


「こほん、失礼しました。それじゃあシャルハート、続きをお願い」


「分かった。それじゃあ続けるね。まず最初に結論から喋っておくと、両界の最強剣というのは『どこにもなくて、どこにでもある』ものなんだ」


 ――どこにもなくて、どこにでもある。


 その言葉は皆の思考を止めるのには十分過ぎた。


「『どこにもなくて、どこにでもある』。シャルハートさん、それは謎かけか何かなのだろうか?」


「あーそうですよね。リィファス様ぐらい頭良い人は、そんな感じに受け止めますよね。でも違います。これはそのままの意味です」


 ザーラレイド時代もこの話をすると、知恵が回る者ほどリィファスと同じことを聞いてきた。だからリィファスの言葉を否定するつもりは毛頭なかった。

 認識は修正できればそれでいいのだから。


「そう、大事なことはもっと他にある。それさえ掴めれば、アリスとエルレイさんにも振るえるんだ――あいつらの聖剣と魔剣が」


 アリスとエルレイに衝撃が走った。

 荒唐無稽だ。両界の最強剣はアルザ・シグニスタとディノラス・ドーンガルドにこそふさわしい。

 それが『当たり前』だった。

 そんな当たり前を今、シャルハートがぶち壊した。


「持てる……? お父様の極光剣が?」


「すごい……すごいすごいすごい! シャルハート! どうやったらパパのメディオクルスを使えるの?」


 興奮するアリスとエルレイ。いきなりこのような話をされたらこうなるのは当然。

 それに関する責任はシャルハートにある。だが、そんな責任者である彼女は冷や水を浴びせた。


「まあ、でも今の二人には絶対に使えないだろうけどね」


「なっ……! あれほど言っておいてそれはないでしょう!」


「そーだよシャルハート! それはずるっこだよー!」


 二人の抗議を意にも介さず、シャルハートは人差し指を突き立てた。


「そういう考えである内は無理ですー精進してくださいー」


「な、何かヒントを。シャルハート、私はここまで聞いておいて諦めることなど……」


「別に諦める必要はないよ。それにヒントはない。というか多分私が答えを言った時点で、あの二振りはアリスとエルレイを認めないよ?」


 そう言われれば黙るしかない。アリスはエルレイを落ち着かせた。


「……私的にはいい線はいってると思う。だから後は本当に二人次第。だから、頑張ってね」


 シャルハートは本心から喋っていた。

 潜在能力で言えば、アルザとディノラスを上回っている。だから後はほんのひと押しがあればいいだけなのだ


(ま、そもそもヒントなんてないんだけどね)



 ――次の瞬間、教室が揺れた。



「な、何!?」


「ミラ、私の側に来て」


 突然発生した揺れ。これでパニックになっていないのが、せめてもの救い。

 即座にシャルハートは揺れの原因を探るべく、気配を巡らせる。

 しかし、その必要はなかった。



「シャルハート・グリルラーズはどこだァァァァ!?」



 女の怒声。

 そして再び起こる揺れ。 

 原因はハッキリした。だが、その者の目的は?


 シャルハートは新たな厄介ごとが起きたのを確信した。

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