第110話 新たな生徒
楽しい休日明けのクレゼリア学園。
生徒たちは皆、それぞれ休日に何をしていたか報告し合っていた。遠くに出かけた者、買い物を沢山した者、友達と遊びに行った者、実に様々。
それはシャルハート達のいつものグループも同様だ。ミラ、リィファス、サレーナの四人が自然と集まり、何があったかを言い合う。
とうとうシャルハートの順番になったので、彼女はありのままを答えた。
「お父様の命を狙う暗殺者たちをぶっ飛ばしてたかな」
「シャルちゃん、それ笑って言うことじゃないよ。ねえみん……な?」
ミラはドン引きしていた。彼女は何となく側にいるリィファスやサレーナを見る。
すると、彼らは“あーあるよねー”とでも言いたげな顔で頷いていた。もしかして自分がおかしいのかと、ミラは怖くなっていた。
「あれ? 私が変なのかな?」
「そ、そういう訳じゃないよミラさん。僕の所にも月に二回三回は刺客がやってくるからさ、自然と驚きが薄くなってくるというか」
「なるほど。……なるほど? いや、リィファス様それに慣れてはいけないと思いますよ」
「……私も良く姉に命を狙われていたから、グリルラーズ卿のご苦労は分かる」
「え、サレーナさんもなの? クレゼリア学園の生徒って命狙われるのが普通なのかな? 私は狙われたことがないんだけど……」
そこで一瞬ミラの口が止まった。まるで時空間魔法を食らったかのように全身が固まる。
「…………え? サレーナさん今、なんて言ったの?」
「姉に命を狙われていた。いや、今でも狙われている」
シャルハートはその言葉を聞き、以前サレーナと戦ったときの事を思い出していた。
彼女から聞いた戦う理由、
――姉を殺すため。
その時のサレーナの瞳は憎悪に満ちていた。
それを知っていたが故に、シャルハートは下手に口を出さなかった。それはきっと、サレーナから言わなければいけない話なのだから。
そしてサレーナは今、その話をするつもりはないようだ。
「……つまらない話をした。それよりもシャルハート。シャルハートはどんな強敵と戦ったの?」
話を打ち切るように、サレーナは小さくシャドーボクシングを始めた。皆もそれ以上は触れなかった。人間、突っ込まれたくない話の一つや二つはある。それだけの話だ。
そうなれば、ここはシャルハートの出番である。
いかにこの空気を変えることが出来るのか、腕の見せ所だ。
「そうだね……十一人、いやもう一人いたか。とにかく腕利きが私達の所にやってきてね」
そこからのシャルハートは実に楽しそうに話をした。
ゼロガには劣るが、緊張感のある戦闘だということもあり、シャルハートの満足度は高かった。
だがこの話をする以上、その“もう一人”について触れなければならない。
シャルハートにとっては忌々しい男だ。
「その内の一人に下着見られた」
「は?」
「へ?」
「……やるねぇ」
リィファス、ミラ、サレーナの順にリアクションがあった。これだけでは誤解される可能性もあったので、シャルハートはその後、ガレハドの援護に入った時に勢い余った結果だということを付け加える。
とはいえ、いきなりそんな話をされてはおかしな空気にもなろう。特にいきなりそういう話が飛んできたせいで一人だけ異性であるリィファスの顔は真っ赤だ。
「しゃ、シャルハートさん。確か前にも言ったことがあるかもしれないけど、一応僕は男なんだから少しだけ気を回してもらえると……」
「あぁ……そういえばそうですね。リィファス様って男子ですもんね」
「うん、シャルハートさんの認識が修正されて良かったよ。うん……本当に、うん」
床へ視線とついで肩を落とし、リィファスは小さくため息をついた。みんなに聞こえないように声量を抑えたのは彼の性格の良さだ。
「……リィファス王子、泣きそう」
「今のはシャルちゃんが悪いと思う」
まさかの集中砲火だった。元々男性だったザーラレイドから転生しているので、まだ完全に女の側になりきっていないというのもこの無頓着の原因の一つである。
「まさか私がこれほどまでに追い詰められるとは……」
シャルハートが修行不足を痛感していると、授業の開始を告げる鐘が鳴った。
みんなが座った後、プリシラ・ライラネールが入ってきた。ふわふわベージュ髪と大きな胸が揺れている。
「皆さん、おはようございます! 今日は最高の魔法ぶっ放し日和ですね!」
ウキウキした表情で言うプリシラ。これを冗談として受け止められた者は一体何人いたのだろうか。
少なくとも、シャルハートは本気として受け取っていた。
「そこのシャルハート・グリルラーズさん! そうは思いませんか?」
「いや、まあ多少は思いますけど。それにしてもそれ大っぴらに言ってルルアンリ先生が怒りません?」
「……確かにそうですね。皆さん、今の話は聞かなかったことにしましょう!」
「ねえミラ、プリシラ先生ってもしかしてヤバい?」
「シャルちゃん、それ思ってても言わないようにしようね?」
プリシラ・ライラネールが思ったよりも過激な人間だということが分かり、“流石はルルアンリの人選だ”と、シャルハートは色んな意味で評価した。
そんなシャルハートとミラの会話は届いていなかったようで、プリシラは本題に入ろうとする。
「早速ですけど、このクラスに転入生がやってきます」
ざわつく教室。
いきなりのイベント発生に、生徒たちは気持ちの整理がつかなかった。
「はいはいはい。そういうのは後にしましょう! 時間がもったいないので早速入ってもらいましょう! おいで~」
扉が開け放たれた。
そこから短い茶髪の少年が歩いてくる。特に顔やその他に言及するところはない。ただ一点、背負っている剣を除いては。
「ブレリィ・マリーイヴです。夢は史上最強の勇者になること。みんな、よろしく!」
人好きのする笑顔を浮かべると、少年――ブレリィ・マリーイヴは一瞬シャルハートへ視線をやった。
「……」
シャルハートもまた、彼へ視線を送っていた。
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