第101話 そ、そんなまさかウルスラ先輩!?
まるで舞台の主役のように、ウルスラは両手を広げ、悠々と歩き回る。
「シャルハートとミラにはよく会いますね。特にこういう厄介事というのでしょうか、そういう妙なところには必ず貴方達がいます」
「私としてはウルスラ先輩がこの件に絡んでいることのほうが驚きなのですが?」
「え、そうなのですかルルアンリ様? 銀髪少女と私、どちらがこの件に絡んでいることに驚きましたか?」
「頭が痛くなってくるからそういう問答はやめなさい。そうね、色々順を追って説明していくわ。まずはこのウルスラ。ウルスラにも今回の件を手伝ってもらっていたのよ」
「心優しく強い私――そう、このウルスラ先輩を見込んでの采配ですよシャルハート」
イラッと来るがその感情を飲み下す。ここでペースを乱されてはウルスラの思う壺だとシャルハートは心得ていた。
ウルスラはそんなシャルハートを見ながら実に美味しそうに紅茶を啜っていた。どこから取り出したと聞かれたら、ルルアンリが隠していた秘蔵の一品を引っ張り出してきたと言うしかあるまい。
それに気づいたルルアンリがウルスラからカップを取り上げようと、手を伸ばす。
「ウルスラ! それ、私のお気に入りじゃないの! もったいないから飲まないでー!」
「ええっ!? これてっきり私へのプレゼントだと思ってましたよ。あっはっはっ」
自由奔放が過ぎるウルスラ。
ルルアンリを相手にしてもこの調子なのは驚いた。
そもそもが謎の存在であるウルスラ・アドファリーゼ。
そんな謎の存在である彼女は紅茶を飲み、落ち着いた後、こう言った。
「私ってワイズマン・セルクロウリィの血族なんですよね」
「え、ええっ!?」
思わずミラが立ち上がる。シャルハートは座ったまま、じっと見つめていた。
「お、ミラは良いリアクションですね。銀髪少女はもうちょっと驚きなさい。それともビッグネームすぎて脳が理解を拒みましたか?」
「正直、とうとう妄想が爆発したのかと思ってますけど」
「あーそれは酷いですねシャルハート。確かに血族とはいえ、血はすっかり薄くなっていますが、私は正真正銘ワイズマン・セルクロウリィの血族なんですー」
ウルスラが唇を尖らせる。
その隣でルルアンリが手で頭を押さえていた。
「シャルハート。ウルスラは間違いなくワイズマンの血族よ。私が保証する」
「ルルアンリ先生のお墨付き……かぁ」
ならば信じるしかなかった。
ルルアンリはこういう時、事実しか口にしない。長い付き合いだからこそ分かるこの感覚から言うと、ウルスラの事はそう受け取る以外ないのだ。
そういうことならば、聞かなければならないことが増える。
「じゃあ百万歩譲ってウルスラ先輩がそうだとして、ルルアンリ先生から頼まれていたと信じましょう。なら、何故今まで出てこなかったんですか? 心優しくて強いウルスラ先輩」
ウルスラが仕掛けていたクレゼリア学園を覆う封印魔法は全て、対ゼロガへの仕込み。となると、だいぶ前からウルスラは水面下で動いていたことになる。
あの封印魔法が最大限に効果を発揮するのは中心点である『入れない棟』だった。グラゼリオの目的がワイズマンシリーズを用いてのゼロガ復活ということも予想がついていたのだろう。
もしかしたらアリスとエルレイが襲われることはなかったかもしれない。
そう思うと、シャルハートは質問せざるを得なかった。
シャルハートの言葉を静かに聞いていたウルスラは首を捻る。
「今日は随分吠えますね銀髪少女。確かに私はグラゼリオ先生の目的を察知していたし、それに対応するための仕込みにも余念はありませんでした。だからこそ出るわけにはいかなかったんですよ。グラゼリオ先生はシャルハートに目がいっていたから、私が最後の最後まで伏兵として役割を持つことが出来た」
「もしウルスラ先輩がもっと動いていたらアリスやエルレイは……」
するとウルスラは少し目を細めた。
「おや銀髪少女。悪いのは口だけだと思っていたようですが、心構えもなってないようですね」
「……ほう?」
「私は私のやるべきことをやるために動いていました。それは貴方もでしょう? 貴方のお友達は、貴方にしか守れないと思っていたのですが、違うんですかね?」
「……違いない」
八つ当たりだというのは分かっていた。
それでもあのときのことを考えれば感情をぶつけたくなってしまうのは、まだまだシャルハート自身の修行が足りないということ。
理解はしている。受け止めることが出来なかっただけ。
「頭は冷えましたか?」
「ええ。ウルスラ先輩でもまともな事が言えるんだなって、感動してクールダウン出来ました」
「おう喧嘩売りてーならもっと早く言ってもらわないといけませんねぇ」
「やめなさい馬鹿者共。ウルスラ、もう良いわ。今回は本当に助かったわ。またお願いね」
「ええ生徒会長として常に模範的かつ、完璧な立ち回りをお約束しましょうとも。それではシャルハートにミラ、また会いましょう。私はサボりで溜まっていた、生徒会の仕事をこなさなければなりませんので~」
そう言い残し、ウルスラは扉の向こうに消えていった。
サボり魔め、と最後にシャルハートは声にならない声で呟いた。
「さて、と後は特に言うことはないからこれで解散になるわ」
「そうですか、じゃあ失礼しますね」
立ち上がり、出ていこうとするシャルハートの背中へ、ルルアンリは声をかける。
「アルザとディノラスにはいつ言うの? 二人共多分だけど薄々勘づいているわ。いつまでも隠しきれないわよ、とだけは言っておくわね」
返答せず、シャルハートは学園長室を後にした。
「シャルちゃん、さっきのルルアンリ様の話……」
「うん、分かっているんだミラ。通らなきゃならない道なんだ」
アルザとディノラス。
両界の勇者達の顔が思い浮かぶ。
彼らの事を考えれば、いつまでもこのままではいられない。
決断のときがやってきたのだ。
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