第100話 あっさりバレた
「やっぱり礼儀とかど~~~~でもいいわ。シャルハート、貴方ザーラレイドよね?」
シャルハートとミラ、そしてルルアンリしかいない学園長室。
二人がやってくるなり、ルルアンリがはっきりとした口調でそう聞いた。もう色々と確信をしているようだった。
隣りにいるミラが不安そうにちらちら見ている。
なのでシャルハートは胸を張ってこう答えた。
「そうだよルルアンリ。私がザーラレイドだ」
瞬間、ルルアンリの右手から魔力の刃が伸びた。シャルハートは喉元目掛けて伸びてくる刃を掴み、そのまま握りつぶした。
それを見ていたルルアンリが小さく舌打ちをする。
「やはり不意打ちじゃ貴方を殺せないって訳ね」
「確認するにしてももっと穏便なやり方があったと思うんだが?」
ない、と即座にルルアンリは断言した。彼女にとってザーラレイドは見つけたら即刻倒さなければならない対象である。もっと過激な魔法を放たなかっただけマシと言えるだろう。
ミラは完全にドン引きしていた。それに気づいたルルアンリは
「か、勘違いしないでねミラさん。私は憎きザーラレイドがいた事につい心躍っただけなんだから」
「ぜ……全然言い訳になっていない」
その台詞を吐くには少なくとも、憎しみマシマシの表情でシャルハートへ攻撃をしないというのが大前提である。
ミラの手前もあり、そろそろ落ち着こうとしたルルアンリの耳は確かに捉えた。
「……ヌ ル い 攻 撃 だ っ た な ぁ」
「やっぱミラさんの前だからとか、い い わ」
ぷっつんと何かがキレたルルアンリの身体に魔力が迸った。それは少なくともこの平和なクレゼリア学園にあってはならない魔力量。
決戦の面持ちでルルアンリは右手を掲げる。
「シャルハート、いいえザーラレイド。私は貴方に色々と聞かなきゃならない事がある。けど、その前にぶっ倒させてもらうわよ」
「ちょ!? ルルアンリ様!? この部屋で戦うつもりですか!? やめてください! シャルちゃんも謝って!」
「とりあえず話が進まないので今日はその辺で収めてもらえませんか? もしご所望なら後で戦いを受けます。ミラが怖がっているのでこれで終わりにしましょうよ、ルルアンリ先生」
シャルハートとルルアンリの視線が交差する。
じっと見つめていたルルアンリは収束していた魔力の塊を霧散させた。そして興味深そうにミラを見る。
「……ちっ。やっぱり変わったのね貴方。いや、それが本来の貴方?」
「さて、どっちでしょうね。一つだけ言えるのは、ミラがいなかったら私は今ここにはいないとだけ言っておきますかね」
毒気を抜かれてしまったルルアンリはそろそろ落ち着き、本題を話すべく、二人を座らせた。
「さて、とグラゼリオの話をさせてもらおうかしら」
「細かい話は興味ないので簡潔にお願いしますね」
「分かった。それじゃあグラゼリオだけど、彼はクレゼリア王国の軍に引き渡したわ。禁止魔法の行使及び無差別大量傷害未遂ってことでね」
「それだけですか?」
「ゼロガの事は機密事項なのよ。知っているのは王家と学園長である私だけ。グラぜリオがどうやって知ったのかは分からないけど、アレはそう簡単に表に出せることではないのよ」
だから皆も口外無用ね、とルルアンリは付け足した。
「これからグラゼリオはどうなるんですか?」
「そうね、とりあえずクレゼリア監獄へ幽閉されることになるわ。しばらくは出てこれないでしょうね」
「……奴は何か言っていたかな?」
「彼が?」
視線を宙へ彷徨わせるルルアンリ。そのすぐ後、彼女は目を閉じ、こう言った。
「『今回は失敗しましたね。また会いましょう』、これだけだったはず。えらいシンプルよね」
それは何かのメッセージなのか。
その言葉の意味を考えるが、すぐに切り上げた。元々彼が何を考えているのか分からなかったシャルハート。だが彼の言葉には必ず何かしらの勝算があるのだ。
言葉通りの意味として受け取るべきだと、シャルハートは彼の言葉を一旦頭の片隅に追いやった。グラゼリオとはまた会う気がするのだから。
これでとりあえず彼の関係で知りたいことは聞けた。
次は、“彼女”についてだ。
「あともう一つ聞きたいことがあるだけど」
シャルハートの聞きたいことに何となく察しがついていたルルアンリ。質問される前に返していた。
「ウルスラのこと?」
「ご明答。彼女は何者なの? ゼロガを封じられるレベルの腕の持ち主なんてこの世界で私以外いないと思ってたよ」
「あら。私の名前が上がってないわよ?」
「誰かなそれ? グラゼリオに守りをあっさり突破されたマヌケなら心当たりがあるんだ、が――」
瞬間、風切り音がした。
シャルハートがおもむろに人差し指と中指を伸ばすと、その間にすっぽりと投げナイフが収まっていた。ルルアンリによる神速の投擲である。
脳天直撃コース。反応が一コンマでも遅れていたらそのままぐっさりと刺さっていた。
再びミラが慌てだす中、シャルハートはじとーっとした視線を送る。
「あの、魔法が効かないからって物理に頼るのやめない?」
「あらあら。手が滑って大事な投げナイフを放り投げてしまっていたわね。“拾ってくれて”ありがとうシャルハート」
「どういたしまして。あーもう、話が進まないから戻すよ。ウルスラって何者なの?」
「彼女は――」
「私の事を呼びましたか? ええ、呼びましたよね? あの銀髪少女が私の事を呼びましたよね? じゃあ登場してあげるのが年上の優しさってもんですね」
シャルハートは背後から聞こえた声に、つい顔をしかめてしまった。
心のなかで叫ぶ。断じて、呼んでいない。
ギギギ、と油の切れたロボットのようなぎこちなさで振り向くと、そこにはウルスラ・アドファリーゼが立っていた。
「やあやあやあ。皆大好きウルスラ先輩ですよ。今回、いぶし銀の活躍をしたあのウルスラ先輩が貴方の前にやってきましたよ」
彼女は、めちゃくちゃぶん殴りたくなる笑顔を浮かべていた。
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