第36話 “会”と名のつく奇天烈集団
オカルト研究会から始まり、色々と研究会を覗いてみたシャルハートとミラ。
一旦、一息つくため、第二棟の外へと出た。そして、そこのベンチに腰掛けるなり、シャルハートは叫ぶ。
「変なのしか無い!」
「ちょ、シャルハートさん声大きいよ……!」
これが叫ばずにいられようか。
オカルト研究会の時点で何だか嫌な予感はしていたが、案の定だった。
怒りにも似た感情で、シャルハートは今までの振り返りを始める。
「飛行研究会、あれは飛行魔法を研究しているのは良いけど、何か目がイってたね。たぶん薬物か何かやってるよ」
「『俺たちは飛びたいんだ。肉体的にも精神的にもな!』って言ってたね」
「魔法具研究会、魔法仕掛けの道具について研究するのは良いけど、あれってオカルト研究会と合同になれないのかな? 何かオカルト研究会にも似たような道具いっぱいあったし」
「それ言ったら魔法具研究会の人たち、めちゃくちゃ怒ってたね……。『一緒にするな!』って。あ、植物研究会はどう思った? あそこは何だかのんびりしていたし、私でも入れるかなって思ってたんだけど」
「あそこは……うん、おすすめはしないよ」
確かにミラの言う通り、植物研究会はほのぼのとしており、今まで見てきた奇天烈な研究会とは大いに違うとは感じていた。
しかし、それは表向きの話だろう。
上手くカモフラージュされていたが、隅っこに植物がいくつか隠されていた。
記憶が間違っていなければ、それらは催眠効果などを含むガスを出す危険な植物だったようにも見えた。
真偽はどうあれ、そんな疑いを持ってしまったからには、ミラをやるわけにはいかない。
「考えれば考えるほど、ヤバい研究会しかない気がする」
「ま、まさか……そんなことあるわけないよ~」
そんな事を喋っていると、遠くから顔見知りの人間がやってきた。
キリッとした表情を浮かべ、威風堂々たる歩き方をする長い金髪の彼女。そう、アリス・シグニスタである。
「アリスさ~ん」
「貴方達は……」
アリスがそのまま去ろうとしたので、強く招き寄せると彼女は諦めたように、近づいてきた。
「久しぶりですねシャルハート・グリルラーズさん、それにミラ・アルカイトさん」
「わ、私のことも覚えていてくれたんですか!? 嬉しいです!」
ぱぁっと太陽が輝くような笑みを浮かべるミラ。
その笑顔を何故か直視できなかったアリスは目をそらしてしまった。アリスに近づいてくる者はだいたい二種類。
アルザの娘だからと近づく者、そしてアリス自身が持つ高い潜在能力にあやかろうとする者。
「え……ええ、顔と名前を覚えるのは得意ですからね。ところで、二人は何をやってたんですか?」
だが、シャルハートとミラはそのどちらもでなかった。
シャルハートはともかく、ミラのような全く新しいタイプの人間に対する接し方をアリスは知らなかった。
「私とミラは研究会の見学で歩き回ってました。そう言うアリスさんは一人ですか? エルレイさんはどうしたんですか?」
「エルレイは探検中です。今夜はお父様とディノラス様が夕食を共にするとのことで、そろそろ彼女を連れて帰らなければならないんですが……」
「アルザとディラノスがか……相変わらず仲が良いねぇ」
アルザとディノラスが昔、仲が悪かったことを喋ったら一体どんな顔をするのだろうか。
そんな事を考えながら、シャルハートは人差し指を空に向けた。
「『
すると、シャルハートの人差し指の先に、何本もの輪で囲われた小さな桃色の魔力球が出現した。
その魔力球の周りを漂う輪が徐々に光の線となり、やがてとある方向へと伸びていく。それを確認したシャルハートは、その方向を指差した。
「アリスさん、エルレイさんはあの方向に向かえば会えるはずです」
「それは……魔法の力ですか?」
「ええ。『
「ということはエルレイの魔力を……」
「はい、流石に二回も見れば、ほぼ完璧に記憶できます」
ついアリスは反論しそうになった。
そも、相手の魔力の性質を記憶出来るということは、その相手の魔力やそれ以外の魔力の違いを理解できているということだ。
アリス自身は、少しだけなら違いは分かる。
だが、シャルハートのように胸を張って、そんな事は言えないだろう。
「貴方……」
「へ?」
「いいえ、何でもないです。向こうにいるんですね、探してみます。ありがとうございましたシャルハートさん、そしてまた今度ゆっくりとお話しましょうミラさん」
言えなかった。『貴方、何者ですか?』と何故か言えなかった。
それを聞いてもはぐらかされそうだということもあったのだが、それ以上に、何故か言いようのない不安を感じたから。
いつか、聞けるのだろうか。
そんなことを思いながら、アリスはその場を去ることにした。
どこまでも手を振って、見送ってくれるシャルハートとミラの気配を感じながら。
「いた……シャルハート・グリルラーズ」
アリスを見送るシャルハートとミラを遠くから見ている女生徒が一人いた。
その呟きに込められていたのは、強い敵意であった。
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