第27話 最強の魔王、最弱の説明
シャルハートは納得いってなかった。
何が、と言われれば魔法の授業についてである。
教師グラゼリオからの指名で、確かにシャルハートは皆に魔法の全てを教示した自信がある。
超初歩魔法の『
だというのに、だ。
「何で皆、首を傾げるんだろう……?」
「シャルハートさんの説明が分かりづらかったんだと思うな……」
バッサリ一言。
いくら大事な友達とは言え、その感想には物言いがある。
シャルハートは抗議の意味を込め、頬を膨らませた。
「わ、分かりづらい!? 私が!? あの分かりやすい説明で有名なあのシャルハートさんが!?」
「どこのシャルハートさんかは分からないけど、えっとその……あれじゃ……う~ん。魔法は完璧に出してたんだけど、そのワンポイントアドバイスがね……」
「ミラがそこまで言葉を選ぶほどなの!? 嘘だ!」
泣きそうになるシャルハートを見ると、流石のミラもそれ以上は言えなかった。
元々、人に対してそこまで強く出れないミラにとって、シャルハートのその顔と発言を聞いてしまったら、なおのことである。
代わりに、と彼女は一つ案が浮かぶ。
「それならちょっともう一回、私に向かって説明してもらってもいいかな? ゆっくり説明すればもしかしたら自分で改善点が見つかるかも!」
「なるほど。一理あるね、流石はミラだ! じゃあ分かりづらい所があればその都度止めてもらえるかな?」
「お互いにチェックしていくんだね! 分かった!」
こうして、シャルハートとミラによる反省会が始まった。
先程の授業と同様、『
「じゃあシャルハートさん始めてください」
「分かった。じゃあ早速『
「待って」
早速止められてしまったので、シャルハートは首を傾げた。
少し説明が上手く出来なかった所はあり、てっきりそこを突かれるのかと思っていたので、少々面食らってしまった。
ミラは苦笑いを浮かべながら、こう言う。
「えっと……ボワッとってどういう感じなんだろう……?」
「うん? 外の魔素を取り入れて、自分の精神力と混ぜ合わせるんだよ?」
「あ、あぁ! なるほど! ……私、止めないからどんどん進めてもらって良いかな? 多分まとめて言った方が早いかも」
「そう? じゃあ続けるね」
皆様は物事を説明する時に擬音を使うだろうか。もちろん理屈より感覚で説明した方が理解しやすい人もいるため、適度に擬音を織り交ぜること自体は悪ではない。
ただ、それが口から出る言葉に毎回含まれているということであれば、話は少々変わってくるだろう。
シャルハートがそれである。
魔法を極めた最強の“不道魔王”とはいえ、それが説明の上手さには直結しない。
ミラの表情がだんだんどんよりとしていき、眼から光が失われていく。
どこから手を付けたら良いのか、彼女には分からなかった。
ギュンやら、パキパキやら、シュボーなど、実に様々な擬音が飛び出してくる彼女の説明はようやく終わりを迎える。
「――ということで、最後はこうなる。どう? 今度は上手に説明出来たよね!?」
「うん! 上手に説明する練習が必要だなって思った」
「えええ!? 何で!?」
最近のミラは少しだけ物を言えるようになってきていた。
本来ならばミラは、仮にも貴族の娘であるシャルハートに対して、ここまで言えることはなかった。
だが、彼女から発する不思議な魅力により、少しばかり喋る言葉に勢いをつけることができたのだ。
「私、もしかして説明するの下手?」
「一緒に頑張ろ?」
「うわぁぁん」
万能の力を持つが故に、このような指摘を受けたのは初めてだったシャルハート、思わず泣きそうになる。
しかし、すぐに切り替えた。足りないということが分かった、これだけでも儲けものである。
後からの改善を誓い、シャルハートは一先ず、先程の授業の振り返りを終了することにした。
そこでふとシャルハートは気づいた。
教室には自分とミラを除き、誰もいなかった。
「次は何だっけ?」
「えっと、次は確か運動場で身体を動かす授業って言ってたよ」
「身体を動かす授業……? 何やるの?」
「先生が『来てからのお楽しみです』だって」
遅れるわけにもいかないので、運動場を目指す二人。
しかし、まだ不慣れなこのクレゼリア学園。まだ地理を把握しきれていなかった。
今度一周する必要があるな、と自分の中の課題を一個増やす。
微細に残ったクラスメート達の気配を辿り、何とか運動場を目指す二人は、廊下の壁に体を預けている女生徒を目撃する。
高身長かつ青紫色の長い髪が目を引く彼女は、瞑目しながら腕組をしていた。
「……」
「ミラ、あの人は?」
「もしかして、上級生の人かな? ほら、リボンの色が私たちの色と違うでしょ?」
そう言われて見ると、確かに違っていた。シャルハート達は赤で、女生徒は紫である。
「……え、そろそろ授業みたいだけどあの人大丈夫なのミラ?」
「良くぞ聞いてくれましたね新入生の乙女共」
「うわ、話聞いてた」
前世で様々な死線を潜り抜けてきたからこそ彼女はよく分かった。
目の前にいる彼女は、絡んだら絶対に面倒くさいタイプだと。
正直、さっさと運動場へと向かいたかった。
「そこの銀髪さん、今『こいつ面倒くさそう』と思いましたね? 駄目ですよ仮にも下級生がこの上級生様を相手にそんなクソ生意気な事を考えては」
「だったら通してくれませんかね?」
この類は多少雑な対応が許されると、シャルハートは確信していた。
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