今日のわんこ(前作キャラ出演)
今日のわんこ
エクセロスレヴォ、エオニオティタ辺境伯領のとあるお宅。
ここで暮らしているのは、フォティアです。
フォティアはご主人様が大好き。隣は絶対譲りません。
今日はご主人様のお友達の家に遊びに来ています。
実はフォティア、今日がとっても楽しみだったんです。
お友達のお家にはフォティアのご先祖様が待っています。
ご主人様と一緒にご挨拶。
そんな時でも、ご主人様の側を絶対に離れないフォティア。
今日もご主人様への愛が駄々洩れなフォティアなのでした~
「イリニ? 何をしている?」
「しっ! 今アテレコして楽しんでるから黙ってて」
「あてれこ?」
全部聞こえてます、とは言えなかった。
元聖女、現エピシミア辺境伯夫人が物陰で面白いことをしている。
「次はディアフォティーゾ辺境伯の台詞アテレコするから」
「……覗きは駄目だ。行くぞ」
「そんな!」
「御客様に失礼だろう」
エピシミア辺境伯夫妻の元を訪れたので、ここで暮らすフェンリルに会いに来た。なぜか聖女様が物陰からこちらを見続けアテレコしていたら、旦那様であるエピシミア辺境伯が回収した、今ここ的な。
「イリニの前世では飼い犬を紹介する番組があってね」
「……テレビというものですね」
「ああそうだ」
「聖女様の自伝にありました」
目の前には大きなもふもふ、もといフェンリルが笑っている。以前に会った時と同じ大きさだから、鮮やかな金色の瞳が私の顔と同じぐらい。
そして私の隣には目の前の大きなもふもふを縮小したわんこがいる。さすがご先祖様とその子孫、瓜二つだ。
この姿の時はフォティア、人型になればレイオン。私の大切な夫だ。
「まあ気を取り直して……やっぱり二人並んでもらってよかったです」
「そうか?」
「本当、フォーがそのまま大きくなっただけで、見てて癒されます」
フォーには私の隣を離れてフェンリルの隣にお座りしてもらった。
撫でろとばかりにフォーが頭をこちらに寄越すのでよしよしする。やっぱりこの姿に弱い。
「ふふふ可愛い」
「君は随分とフォティアを可愛がっているな」
「フォー可愛いんですもん」
ぱふんと尻尾を一振り。フォーも満更でもないってことかな? 撫でるぐらいなら人型に戻った時の見返りがないから安心してできる。
「まあなるようになって良かったよ」
「フォーの正体のことですか?」
「それもある」
「も?」
再び私の隣を陣取ったフォーは特段反応を示さない。
私のお気に入りわんこがまさか自分の夫でしたなんて分かった日には羞恥に見悶えたものよ。記憶にまだ新しい。
「フォティアは君に拒絶されるのを恐れていたからね」
「そっちですか」
地面に落ちた尻尾がなにも反応しない。だいぶ良い方向に変わってきているけど、自分が化け物であるという点においてレイオンは未だ気にしている。化け物じゃないのに。
「君がフォティアを、レイオンを愛してくれているようで何よりだ」
「はっきり言われると恥ずかしいですね」
「否定する要素がないだろう」
「ええそうですね」
フェンリルが豪快に笑う。隣にいるフォーはさっきと打って変わって尻尾をゆっさゆっさ揺らしていた。この尻尾、正直すぎてこっちが恥ずかしいわ。嬉しくてふわふわしてます、と言わんばかりだ。
「もおお……フォーの時も喋れるといいのに」
そしたらこの場でうまくいってますよとフェンリルに直接自分から報告してもらえるし。でも今元に戻ると全裸だからさすがにだめだ。エピシミア辺境伯夫妻に見られたら大変だもの。
「言葉がなくても君は分かるだろう?」
「そうですけど、たまに言葉で教えて欲しい時もありますよ」
「そうかい?」
「直近は、昨日の国境武力視察の時ですかね」
聖女候補誘拐事件で第一分隊をまるっと失った騎士たちは、まだ日が浅いとはいえ、しっかり持ち直していつも通りの姿を見せていた。そこでフォーの姿でいた時の奇妙な行動を話すことにした。
「私と人との間にやたら入りたがるんです」
「というと?」
自分たちの主の妻である私にきちんと挨拶をと騎士たちが代わる代わる言葉をかけてくれる。その時にその騎士との間にずずいとフォーが入ってきた。一度や二度じゃない。
奥様~お久しぶりで、すー? と妙な挨拶になるレベルで間に入って私と騎士たちが握手できないなんてことになった。間にずんずん入って、相手の騎士をじっと見つめて、騎士と向かい合う形でお座りしたり、横に入って来たのを縦になってより距離をあけようとしてきたり、尻尾で相手の足をぱしぱし叩いたり。あれはもう犬の尻尾の使い方じゃない。
しまいには私の周りを三回まわって一吠えしたら、そういうことですか~と騎士たち全員納得してにこやかに去っていった。あれはなんの合図なの? 暗号かなにか?
「それは実に愉快だな」
「こっちは気まずいだけでしたよ? 皆さん律義に挨拶しに来てくれてるのに」
レイオンに聞いても無言を貫かれた。普段素直に話す癖に、なんでここだけ話さないのか疑問すぎる。
「ふむ……二人きりでゆっくりした時間を過ごしなさい」
そうすればフォティアの気もおさまるさとフェンリル。ご先祖さまも分かっていて私に話さないやつだわ。
「むむむ……お気遣いありがとうございます」
「君が思うよりも、フォティアは君に夢中なのだよ」
分かってあげてほしいとフェンリルがお願いしてくる。
「はい、後で時間とって過ごします」
「ふむ。ならば今日はこの城に泊まるより帰った方がいいだろう」
程々にしておきなさいと促される。
あまり君を独占していると私との間にフォティアが入ってくるからね、とも。
視線をおろすと、きちんと目を合わせてくれるわんこ。
「屋敷に帰る?」
ぶんと一振り。
フェンリルと意見が一致している。確かに頻繁にお泊りするのもという話か。
「エピシミア辺境伯夫妻にきちんとご挨拶してからね」
宿泊は夜の社交界に御呼ばれした時だけ、お言葉に甘える形でいいだろう。
「屋敷の方が裸でいられるし気楽だもんね~」
最近は同じ部屋で裸になっていると、ただじっと見てくるだけをしてくるから不思議だけど。
大概私が背を向けている時だから気づきにくいし、きいてもなんでもないの一点張りだからなあ。でも裸族な生活は良しみたいだから許してしまっている。
「帰ったら今度こそ色々教えてよ?」
尻尾は振られず、首を傾げられて終わる。そして変わらず私の隣を陣取るフォティアだった。
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