最終話 待てはしない

「……そうだ、ご飯」


 ほっとしたのか再びお腹が主張を上げる。レイオンはまだ納得してなかったようだけど、私の空腹を優先してご飯をとることになった。


「皆がここで朝食をと」


 よし、うまくいったぞ。事実お腹は減っているし、不毛な会話はやめるに限る。

 美味しいご飯を食べてしまえば、このあたりの会話も有耶無耶になるはずだしね。


「うん、御言葉に甘えてご飯にしよ」


 タープを張り直して、ホットサンドメーカーを使ってバスケットの中の食材を焼くことにした。パンと卵とハムとチーズが用意されてる時点でそういうことだろう。オーソドックスなキャンプの朝御飯が出来上がる。

 コーヒーはレイオンからもらったミルがあるから、それで淹れれば完璧だ。屋敷の家令のアシストがすごすぎる。


「うわ、美味しい」

「そうだな」


 お腹が減っていたのもあるけど、ホットサンドにコーヒーとシンプルながら侮れない美味しさだった。これはハマる。


「メーラと一緒に食べると美味しい」

「え?」


 食べかけのホットサンドを眺めながらレイオンが嬉しそうに目を細めていた。


「君と一緒の食事はとても美味しく感じる」


 うわあ、この人本当素で言うことの方が破壊力高い。純粋にそう思っているのが分かるから余計タチ悪いわ。まあでも食事抜いてた頃を考えると成長したと思う。ご飯は楽しく美味しく頂きたいもの。


「美味しいご飯は幸せね」

「ああ」


 食後のコーヒーも沁みる。定期的にアウトドア飯するのもいいかも。


「メーラ」

「ん?」

「お早う」


 ここで朝の挨拶? そういえばしてなかったかな。朝ちゅんで色々あったから、朝らしい朝を迎えてなかった。


「うん、おはよ?」


 挨拶するだけで妙に嬉しそうだなと思っていた私が馬鹿だった。

 座ったまま上手に上半身傾け屈み、素早く私の右頬と唇に音を立ててキスしてきた。


「え?」

「よし」


 満足そうに囁く。

 え? あ、分かっててやった? さっきの? さっきの私の言葉を今回収する的な?


「レ、レ」

「?」


 十中八九、私の顔は真っ赤だわ。ああもうそんな満足そうに笑われたら、なにも言えなくなるじゃない。


「レイオンっ!」

「どうした」

「なんで、い、今!」

「フォティアと毎日していた」

「それがなんでっ」

「私とでやり直したかった」

「さっきやり直ししたじゃない」

「フォティアが毎日していいなら、私も毎日していいはずだ」


 だから今毎朝の挨拶ちゅーは今しても問題ないとドヤ顔で言ってくる。

 いつまで引っ張るつもりなの。最初のちゅーが解決したんだからいいじゃない。


「一呼吸待ってって」

「待てはしない」

「なんでよ!」


 フォーの時の方がお利口だわ。さっき約束したことを早々に反故するあたり、今のは完全にわざとしている。なんなのよ、もう。


「全部やり直したら、メーラとの約束を守る」

「ええ!?」


 なにそれ。どういう理屈? 別にフォーはフォーでいいじゃない。フォーに向けるものとレイオンに向ける物が既に違うことだって分かってるくせに。


「もおおおお」


 というか今どれくらいやり直した? 全部やった? 今のこの状態を考えると追撃が来てもおかしくないから、どうにか回避かやり過ごすか誤魔化すかしないと私の精神が持たない。

 一見するとただの無表情なのに瞳を輝かせて満足そうにされても困る。本当困る。


「これで、終わりよね?」


 首を傾げるレイオンは、少しお疲れ気味になってきた私にさらなる爆弾を投下した。


「まだ抱きしめてもらうが終わってないが?」

「もういいじゃない!」

「あと泉を一緒に泳ぐのが」

「フォー一緒に泳いでないのに!?」

「大丈夫だ。今なら一緒に泳げる」

「やめて?!」

「嫌だ」


 抵抗する私にお仕置きだとレイオンがしてきたことに、私の悲鳴が朝から泉一帯に響く。

 抱きしめてもらうができないなら、と再び屈んで唇を寄せるから。

 私たちのキスはやっぱりコーヒーの苦い味がした。





















------あとがき&お知らせ------


後日におまけUP予定です。

日程はTwitterをご参考下さい。

最終話までご覧頂きありがとうございました!!

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