世界最悪の発明


各地で火の手が上がっている、爆撃は止まないし

暴動も起きている、逃げ惑う人々に啜り泣く声

それらを耳に聞かせつつ、火の海を走るボクら。


「酷いもんだね」


ボクの背中に背負われたリンドが、それらの

目を覆いたくなる様な醜い惨状を見て、呟いた。


「ボクも大概、大暴れしてきたけど

ここまでの規模の物は見た事がないかな」


倒壊した建物に押し潰されてもがく小さな子供を

視界の端に収め、通り過ぎながらそう言った。


「……ちょ、ちょっと、助けなきゃ!」


ジーンがボクの前に躍り出て来る

彼女の顔は怒りによって歪んでいた

正義感、あるいは人として譲れないもの

彼女はボクに抗議の視線を送ってくる。


が、


「いいや助けない、街の人間は1人残らず助けない

ボクら4人とリリィ以外は、全て見殺しにする」


ボクは冷酷に言い放ち、立ち塞がる

ジーンの体を押し退けて先に進んでいった。


「……くっ!」


彼女はそんなボクを無視して走り出し

さっきの子供を助けに向かってしまった

まあ仕方ない、好きにすればいいさ


彼女にはリンドを守って貰った恩がある

ボクが彼女にとやかくと言う権利はない

ないが、彼はどう思うだろうか。


「フレデリック、キミはどうする?」


「……リンドさんを守るのが最優先です」


目を伏せながら、ハッキリと答えるフレデリック

本心ではジーンを助けに行きたいのだろう、しかし

元の役割を投げ出せない、というのもまた事実。


彼はしばらく神妙な顔付きをしていたが

ある時、顔をブンと横に振って力強く前を向いた

どうやら彼は振り返らないことに決めたらしい。


歩みは止まらないそうしてボクら3人は

この世の地獄と化していた街を抜け出し

目的地であるボクの故郷に向けて

迅速かつ丁寧に進行を始めようとして。


——突如、右腕が疾風の如く迸った


無意識に、真横に突然伸びていった腕は

何か冷たくて硬い物を捕まえた感触と

ガァァァン!という豪音を同時に生み出した。


「うわっ……!なんだい!?」


背中に乗せたリンドが、突然の出来事に

身体をビクッ!と飛びあがらせて驚いた。


ボクは、右手の先を見て


「ああ、落ちてきてたのか」


起きた出来事を理解した。


ボクの右腕は

上空から降り注いだ爆弾を受け止めていた

自分自身では、全く意識して無かったが

身体が自動的に反応してくれていたのだ。


これが付近で爆発しよう物なら

吸血種では無いリンドは無事じゃ済まない

間違いなく重症、あるいは即死の損傷を負う。


自分にとっては危険ではなく、認識としては

降り注ぐ雨粒と何ら変わりない存在であるので

本来、このような処置をする道理は無いのだが


ボクは本能で

リンドを守っていたんだ。


「……ありがとう、助かったよ」


背負われているリンドは、その事を察したらしく

ボクの頭を撫で、優しい声でお礼を言ってくれた。


「どうってことないさ」


ボクは


まるで紙くずでも丸めるみたいに

原型を留めないほど滅茶苦茶にひしゃげた

元は爆弾だったはずの鉄の塊を


必要最低限、指先の力だけで

遥か後方へと放り投げた。


すると遅れて

相当遠くの方から悲鳴が聞こえて来た。


`きゃああああああああっ!?!?

アントニオ!?アントニオッ!……そんな……

誰かぁぁぁっ!私の、私の息子が……あぁっ!`


風に乗って、悲壮感溢れる女の声が聞こえてきた

どうやら、知らない母親の息子に直撃したらしい

可哀想に、どうか安らかに眠ってくれたまえよ。


ボクは走りながら

フレデリックとリンドに向けて

今後の方針について再確認を行った。


「——さっきも話した通り、ボクらは

ボクの生まれ故郷……今は何も無いけどね

とにかく、現状あそこ程安全な場所は無い


フレデリックは場所を知っていると思うが

そこに向けて、可能な限り全力で移動する」


異論はある?と間で尋ねてみるが

どうやら全員同意してくれている様だった。


「ジーンは来るでしょうか……」


ビュンビュン飛ぶように走りながら

そんなことを口にするフレデリック

彼はやはり、その事が気掛かりな様だ。


「彼女も場所は知ってるはずだからね

無事なら、後から合流するだろうさ」


「きっと無事ですよね」


ボクとしてはあの子が無事だろうが死のうが

全くどうでも良いのだが、彼にとっては違う

いたずらに心を掻き乱すことも無いだろう。


「そう信じておくが良い」


「はい、そうします」


木々の合間をすり抜ける、草原を駆け回る

なるべくリンドに悪影響が無いように

しかし最大限に急いで、とにかく走る。


空襲飛行部隊はあくまで街を焼いているだけだ

こちらに攻撃を仕掛けてくる様子は、一切ない

これでボクが標的になっている可能性は

限りなくゼロに近付いたと見ていい。


本当に、人間同士で戦争しているんだ

引き下がれなくなったのか?

あるいは計画的な物なのか?


それを確かめる術は持ち得ないが

ただひとつ分かることは、彼らも結局

生態系の頂点に立つ資格が無かったという事だ。


目立った外敵を失った人間達は

己の腹の中に敵を見出し始めたのだろう

それが加速したのは、吸血種が絶滅してからだ

遅かれ早かれこうなる運命だったという事だ。


いつの時代も、崩れるのは内側からか

何とも物悲しい結末じゃないか、まったく

やっぱり人間社会に深入りしなくて良かった

あの時、素直に引き下がっておいて良かった。


あのまま王国の情勢に関わり続けていたら

間違いなく、ボクも巻き込まれていただろうし

そうしたら恐らく、リンドは生きて無いだろう。


空襲から守ってくれたフレデリックも、ジーンも

ボクが身を引いたからこそ、あの場に居たんだ

あの時、2人を連れて撤収した判断は正しかった。


……今度は守れたよアルヴィナ

今度は、読み違えなかったよ。


かつての想い人に対し、心の中で報告をする

彼はなんと言うだろうか?それは分からない

確かめようがないので、この話はここで終わりだ。


早く目的地に着こう。


「リンド、もう少しだけ速度を上げるよ」


「ああ!どんと来ておくれよっ!

あたしは全然へっちゃらさね!」


ドンッ……!


右脚が地面にめり込み、ミシミシと音を立てる

膝を折って身体を沈ませ、脱力を効かせたのち

骨の伝導と筋肉の収縮を噛み合わせ


「う、うわ——!?」


それまでの倍の速度で

地上を駆けて行くのだった……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


——その感覚は突然ボクを襲った。


「フレデリック止まれッ!」


地面を焼きながら、滑り込むように

炎の軌跡を残して急停止したボクらは

同様に、同じ感覚を味わっていた。


……この感覚、間違えるはずもない!

今のは


ボクはそれ以降、喋る事をやめた

そしてフレデリックにアイコンタクトを取り

背負っているリンドを引き渡した。


空気が変わり、突然黙ったボクらを見て

彼女も彼女なりに何かを察したのだろう

特に何も言うことなく、従ってくれた。


ボクはフレデリックに視線で合図を送る

`行け`と、ただ短くにそうした。


合図を受け取ったフレデリックが

その場を一瞬にして離脱するのと

ボクが血の力を最大解放したのは同時だった。


これまで使用を控えてきたのは

敵の感知を避ける為だったが

今回は真逆、引きつけるためだ。


敵にボクの存在を知らしめる、強大に

決して無視できないほどの力を誇示する

動揺するのを避けるため、思考のスイッチを切る

冷静になれ吸血種ジェイミー、頭を冷やすのだ。


敵は吸血種、あるいはそれに準ずる何か

血の力を解放した理由は不明、不明だが

狙いがボクである事は、何となく分かった。


吸血種だと断定しないのは

先程感知した血の力の総数が

7という異常な事態だったからだ。


全くの同時に、7体の吸血種が

連携して血の力を解放する?有り得ない

ボクらは集団行動や協力とは最も遠い存在だ。


あるとすれば、そう眷属

意志を持たない完全なる操り人形なら

そういう行動を取ることも頷ける。


……それ以上のことは、分からない

だからボクは、考えないことにした。


集中する、耳に、音に意識を集める

聞き分けろ、接近してくる不届き者の気配を

さっきの感じからして、そう遠くには居ない。


お互いにお互いの存在を悟った

だとすれば取る行動は限られる

すなわち、隠密後の奇襲


あるいは第2目標

リンドとフレデリックの追跡

いちばん怖いのは後者の可能性だが

その可能性は低いように感じられる。


なにせ、狙う意味が無い

そもそもフレデリックは死んだ人間だ

リンドも、もう長いこと外界に出ていない。


存在を悟られる余地は、余りに薄い

であれば、狙いはボクであると断定し

彼らと離れ、迎え撃つのがこの場の最善手。


沈黙


静寂


ボクの下した判断が正しいか否かは

恐らく、もう間もなく分かるだろう。


焦げ臭い匂いが鼻先に香る

遠くの方で黒い煙が立ち上っている

風が吹き、花びらが舞い、草木が揺れる。


太陽の光が、雲によって覆われて

明るかった視界が一気に暗くなり


————その瞬間ッ!


ボクを今の今まで生かし続けてきた

己のうちにある無意識下の防衛機構が


鋭く、深く、そして正確に


地面の下、上空、真正面、背後

都合、同時4箇所から飛び込んでくる敵に

最速最短で、貫手を4発、叩き込ませた。


それぞれ、心臓に1発づつ

相手が吸血種であると仮定しての

一か八か、迎撃の決め打ち4閃ッ!


だが、視認できたのは4体だけだ

まだ残り3体は、何処かにいる!


ボクは攻撃の結果がどうなったのか

それすらも確認する前に、その場を飛び退き

空中で襲われる事を警戒して複雑に跳ね回る。


——高機動3次元ピンボール


上、斜め下、右、左、前、後ろ

絶えず行われるランダムな軌道変化


狙いを絞らせずに状況を把握する為の時間稼ぎ

そして攻撃の起点にもなる、攻防一体の策だ!


そしてボクは、空中を跳ね回りながら

この目で、驚くべきモノを見ていた。


、と


さっき確実に心臓を撃ち抜いて

完璧に殺害したはずの4体が、ゆらりと

さながら幽鬼の様に、立ち上がったのだ。


——心臓を壊しても死なない


その時、奴らのうち2人が

空中にいるボクに向かって飛びかかってきた

一瞬、最悪な未来を脳裏に思い浮かべる。


だが敵は、凄まじい速度で飛び回るボクを

服の端すらも捕まえられずに、隙を晒した。


無策で突っ込んできたのか?

決して無視できない疑問が生まれると共に

奴の隙だらけの背中を、四方から切り刻む。


判断能力は低いと見る


バラバラになって落ちていく敵を尻目に

そのまま方向転換、ボクは落下を始めた


真下に向かって、目にも止まらぬ速度で

敵のうち1人に、天高くから強襲を行う。


近付く、近付く、そして


接敵する一瞬の間に

3合ばかり攻防が繰り広げられた

瞬間的に繰り出された敵の攻撃


早い!非常に早い!……だが


あまりに単調、迎撃は容易かった

両腕を根こそぎ切り飛ばす。


続けざまに首、胴体、足首、そして心臓を

すれ違うと同時に削り飛ばして派手に着地

踏み砕かれる大地、衝撃で森の木が折れる。


……反応速度は異常に早かったが

そこには、意思が存在しなかった

まるで予めプログラムされた動きみたいだ。


振り返り


次なる標的にシフトしようとして

ボクは、突如危険を察知して、その場から

正確には離れた。


直後、地の底から空に向かって

極太の眩い光が打ち上げられた

あれは知ってる、あれは封印の術式だ

敵のひとりが地面の下に隠れていたのか!


起動しろ規定線紅


体に纏わせていたリンドお手製の武器を

線と線を組み合わせて行って網を作り

光が立ち上った地面に向けて放った!


細切れに刻まれていく大地

あれで下のやつは一時的に戦えまい

ボクは1度、周囲の状況を確認した。


敵は既に復活している

ひとりが飛び掛って来ようとしている

再び、迎撃の構えを取ろうとして——


そして、気が付いた

奴らの衣服に血液が付着している

奴らは皆


本来、吸血種は血を流さない


もし流すとすれば、それは死んだ時か

あるいは、自ら分離して体外に放出する時のみ

だとすればアイツらの持つ不死身には……ッ!


——回数制限があるのかもしれない


血は燃料で、傷付く度に失われていくとすれば

この仮説はどうだ、有り得るんじゃないか!?


元々、吸血種自体だって

完璧な不死という訳ではないんだし

格下の眷属は、もっと耐久性が下がる


心臓を砕いても死なないのは

それは、弱点を無くしたのではなくて

血を貯めておく為の器、吸血種の核を

再現できなかったからではないのか?



復帰した敵が4体同時に襲いかかってくる

前後左右から挟み込む様に

明らかに連携をとる意識を感じる。


そして相変わらず早い

避けきれないと判断したボクは

あえて距離を詰める事で対応した。


十分な加速を得る前に

着弾してしまった攻撃は弱く

隙間から拳を叩き込むことが出来た。


めり込む拳、それは頭蓋、脳髄を砕き

顔の八割以上を陥没させ、敵を吹き飛ばした。


背中、肩に攻撃が当たる

肉がえぐれる、骨が断ち切られる

しかし、命には一切届いていない。


ボクは振り向きざまに

攻撃を繰り出した直後の硬直により

一瞬動けなくなった敵を、両腕で1人づつ掴み


そのまま、敵を抱え込み

真上に向かって全力で跳躍した。


——そして!


空中に離脱する直前

先程地面に向けて打ち込んだ規定線紅が

地の底から伸び、まるで縄のように

ボクの体全体に結び付いて、固定!


直後、まるで全身を打ち付けたような

強烈な衝撃に襲われる、体が引っ張られる

肩!胴体!首!あらゆる箇所に負荷が掛かる!


ボクは手を離している

掴んでいた2人の敵を離している

固定されたのはボクだけ、つまり


敵は為す術なく上空に打ち上げられ

彼方遠くの空に飛び去って消えていった

これで、しばらくの間は戦力を削れる。


今のうちに残りをやる!


体に巻き着いた血のアンカーは

転じて射出機へと早変わりする

天空への場外離脱を防いだ命綱は

繋ぎ止めている吸血種を引き込み


地面に激突する直前に拘束を解除

身を翻す、一瞬で体勢を整えて、構える。


膨張していく足の筋肉

体を縮めて、バネのようにする

捻りを加える、力を貯めて行く


そして0コンマ数秒後、着地——


——解放ッ!


周囲一帯の地面が丸ごと消し飛んだ

木も床も、何もかもが破壊し尽くされた

視力も聴力も全て、その一瞬で失われた。


しかし!獲物を切り裂くこの爪だけは

確かに、このジェイミーの敵を捉えていた!


爪に滴る血の感触

切り抜けた、通り過ぎた

このままでは離脱してしまう。


ボクは空中で軌道を180度変えた

勢いを殺さず、纏っていたエネルギーを

丸ごと逆方向へと変換し、飛んだ。


復活する視力、視界に映りこんだ

胴体を真っ二つに切り裂かれた敵と

少し離れた所から走ってくる敵の姿。


ボクは爪を構えて

直線上にある全ての物を一刀両断した

空いた大穴に、敵が落下していく。


耳に届く風切り音、それは空から聞こえた

さっき空にカチ上げた敵が落ちてきたんだ。


上を見上げる、優れた視力が

必死にもがいている奴らの姿を捉えた

なんとか姿勢を整えようと暴れている


ボクは地面に腕を突き刺し、掴み

己の持てる全ての瞬発力を使って

大地をめくりあげ、真上にぶん投げた。


例えるとすれば巨大な隕石

莫大な質量を内包した暴力的な投擲

生えた木ごと、あるいは木の根ごと


丸ごと放り投げられたそれは

凄まじい速度で上昇していき

落下してきていた2体の不死を巻き込み

木っ端微塵に砕いて、飛び去っていった。


そして、ボクは見た

たった今爆散した敵の体が

一切、再生していなかったのを!


見間違いじゃない、確実にそうだった

あいつらふたりは、もう復帰してこない!


穴の中から3体の不死が這い上がってきた

彼らはそれぞれ、片腕が治りきってなかったり

片目が潰れていたりと、最初の様子とは明らかに


違った姿を晒していた

やはり、そういう事だったか。


爪を振る、攻撃をあえて受けて

すかさずこっちの一撃を叩き込む

吹っ飛んでいく敵の足を捕まえて


敵の体を武器のように振り回し

他のふたりを薙ぎ払っていく。


露払いが出来たら、そのまま地面に叩きつけ

頭を踏み砕き、倒れた敵の腕を引きちぎって

まるで槍の様に投げ、胴体を貫通させる。


それでも止まらない敵の踏み込み

理性も、感情も、判断能力もない

ただ無機質に獲物を殺すための殺戮機械

そんなものに、このボクが負ける訳が無い。


限界を突破した速度の攻防

攻撃が全て心臓に向かって繰り出される

しかし、やはりその動きは単調だった。


爪の一撃が交差する、相手の腕が飛ぶ

再生が追い付かない、防ぐ手立てがない

そいつは頭をもぎ取られて戦闘不能となった。


そして見た、こいつも恐らく

もう二度と再生しないだろう証拠を。


これで3体倒した、残りは4体……いや2体か

残りの2体は姿を見ていない、ひょっとすると

リンドやジーンの方に向かったかもしれないな。


紙一重で蹴りを躱し、距離を詰め

頭を掴んで地面に叩きつけ、潰す


奴らは、馬鹿の一つ覚えみたいに

真っ向から突っ込んでくることしか脳がない

1度食らった攻撃を学習する気配も無い。


なんて面白みのない戦いだ。


再び立ち上がってくる2体の敵

奴らはすっかりボロボロで、もはや

ちょっとしたかすり傷さえ治っていない。


恐らく、次死ねば終わりだ

それで奴らの命は尽きるだろう。


だというのに


もうすぐ死んでしまうというのに

命への執着など微塵も感じさせない動きで

真っ直ぐに向かってくる出来損ないの不死。


「世界最悪の発明だよ——ッ!」


この時のボクは

本気で怒っていた……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


計5体の雑魚を葬り去った後

ボクは薄ら寒いモノを肌に感じていた

戦っている最中から感じていた違和感だ。


初めからその疑問はあった

でもボクは単に隠れているだけだと思っていた

だが、よく考えてみると、それでは変なのだ。


疑問はただひとつだけ


……残りの2体は何処へ?


あの時に感じた血の力の気配は

確かに7つだったそれは間違いない

にも関わらず、接敵したのは5体だけ。


嫌な可能性が、考えたくない仮説が

とても無視出来ない程に膨らんでいる。


もし、あの時感じた気配の正体が

ボクが戦わなかった残りの2体が

本当の吸血種だったら?という想像ッ!


——そして


ボクのしていた嫌な予感は

最悪な形で的中する事となる。


森を駆け抜けて山を登り、ここを下れば

目的地までは後少し……というところで


山の頂上の少し開けた地点で

フレデリックとジーンが、男ふたりを相手に

激闘を繰り広げている光景が目に飛び込んできた。


そしてボクは見た

押され気味のフレデリックとジーンの後ろで

腹から血を流して、力なく横たわっている。


——ドクンッ


リンドの姿を……。

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