未熟者は、強すぎる光に照らされる。
クゥ=ハンダッティと名乗る吸血種から
文字通りの生きた地図を手に入れたボクは
更にスムーズに進む事が可能となった。
クゥは基本的にボクの後ろで
気配を殺して着いてくるだけだが
たまに自分から動いてくれる事もある。
頻度こそ多くは無いが
その時の彼女は実に的確に行動する
吸血種を殺せる、と豪語するだけあって
それなりに戦い慣れてはいる様だった。
別に始末しても良かった
戦力的にはボクで事足りるし
余計な荷物を背負うことも無い。
情報だって引き出したし
利用価値は限りなくゼロに近い
だが、一応役割が残ってはいる。
それがあるうちは生かしておく
もちろん、微塵も油断はしないがね
敵意の片鱗でも見せようものなら
即座に、心臓を破壊する準備は整っている。
そんな状態のまま
暗い通路を踏破し続けて数分
ボクらは遂に目的の場所に到着した。
物々しいまでの重厚な扉
ボクの背丈の3倍はあるだろうか
横幅も非常に広い、造りが他と違う。
`ここだね?`
ボクは後ろにいるクゥに
目線の動きだけで質問をする。
`ここだよ`
彼女もボクと同じように
言葉や動きに出さずに表情だけで
必要最低限の情報だけを知らせてくる。
不用意に喋ったり動かないよう
言いつけてあるから実に従順だ。
扉に関しては、やはり
特定人物のみが持つ権限でしか
開けられないような造りとなっていた。
だが、今回に限って言えば
ボクらはその権限を得ていた。
部屋の構造、人員の配置などから
どの人物にその権限が与えられているのかを
予測、推理して事前に確保していたからだ。
その人物の配置だけ妙に
ほかの場所へのアクセスが良かったり
1人だけを守るような配置になっていたり
巡回頻度が少なかったり
他の人間より緊張感が高かったり
とにかく、色々とヒントはあったので
探し出すのはそれほど難しくなかった。
扉を開けたらバレないか?
という疑問については問題ない
この格納庫の向こう側に人は居ない。
クゥから聞いた話によれば
この先は兵器格納庫なのだとか
対吸血種用の装備が山のようにあり
人間相手の武器も貯蔵されてると言う。
ボクは扉を開けることが出来る
権限を持った者の首を、壁のパネルに
乱暴に押し付けて、数秒ほど待ってみた。
本当に開くのかな?などと思ってると
ピロリン、という電子音が鳴ったあと
目の前のバカでかい扉が
重厚な音を立てながら開いていった。
プシューという音がする
どうやら見た目以上にこの扉は
重たく、そして頑丈な物のようだ。
開いた扉を潜り抜ける直前
実際に直に触れてみて素材を確かめた所
`ボクの爪で切るのは多少苦労しそうだな`
という判定が出た、つまり異常ってことだ。
正規の手順を踏んで開けたおかげか
クゥ=ハンダッティを助けた時とは違い
格納庫中の電気が、バチン!バチン!
という音を立てて
あまりに広大が過ぎる部屋全体を
余す所なく照らしあげ、影を払った。
そして現れたのは
見たことの無い形の弓、剣、銃器
爆弾、謎の筒、謎の細長い物体、乗り物
大きな船、大きな車、大きな飛行機……
決して表の世界には出せない
生き物を殺すための蓄えが、そこに
大量に積み上げられ保管されていた。
ボクはここにある全てを
ひとつ残らず破壊する気でいたのだが
その前に、ひとつ思い付いた事がある。
その為にはまず。
「クゥ、どれが新兵器か分かる?」
「……あの端っこのやつかな、あれが
電気みたいな光を照射する機械なの
アレで照らされると、動きが鈍くなるの」
「……あれか」
憎悪と怒りをむき出しにする
明確な敵意を抱いているとアピールする。
クゥはそんなボクに対して
喉の奥を鳴らして怯えていた
それでいい、思惑通りだ。
ボクは計画を開始した
尋常な生き物では思い付かない
口に出すこともはばかられる、悪魔の策を。
「キミ、復讐したいって言ってたね
ボクはここにある全てを破壊するから
その間にキミ、外で暴れてきてほしい」
「……ほんとう?」
「手分けした方が早いだろう
ボクは目的を達成できるし
キミも奴らに復讐が出来る
それとも彼らを生かしておくのかい?
やられた事を、忘れるつもりなのか?」
決して嘘をつかずに
真実をねじ曲げて話していく
彼女は露骨に悔しそうにして、そして
煮えたぎるような憎しみを宿した声で
「——バカ言ってんじゃないかな」
ボクの提案を飲み込んだ
彼女は怒り心頭といった様子で踵を返し
肩をコキコキ鳴らしながら歩いていった。
「頑張ってくるといい、殺せ殺せ
ヤツらはキミを食い物にするぞ
残しておくとまた繰り返すぞ?
防ぐ為には、絶滅させるんだよ」
「言われなくても——ッッ!!」
哀れな糸吊り人形はそれで
壁も床も全部吹き飛ばす勢いで
その場から姿を消した、爆音と共に。
ガッシャンガッシャンと
遠くの方から喧しい音が鳴り響く
それは金属が捻じきれて弾ける音であり
また、誰かの断末魔であり
肉の裂ける音、血管が千切れる音
血が吹き出した匂い、揺れる建物全体。
クゥ=ハンダッティはまんまと
憎しみの限り、殺戮を尽くしている
さぞ派手に殺している事だろう、さぞや
大暴れをしてくれているだろう、愚か者め。
ボクはここにくるまでで
少なからず、吸血種の痕跡を残している
誰かを手にかけた時点で、存在は消せない。
見るものが見れば確実に
それが吸血種の仕業だと分かるからだ
隠蔽しても無駄だ、ボク程度の小細工で
人間の技術力を出し抜けるとは思わない。
だったら
初めから隠さなければ良いのだ
ボクは彼女に大暴れをさせる事で
自分の痕跡を上書きしてもらう気でいた。
そのうちに自分の目的も果たせる
彼女が居たら出来ないことをやれる。
ボクは壁や棚の中に収納された
無数の兵器を、1種類づつ手に取り
そしてその場で丁寧に分解していった。
構造を理解すれば設計思想が分かる
それが分かれば自然と使い方も判明する
もしそれが分からなくても
設計図さえ頭に入っていれば
読み解いてくれる
ただ破壊するのでは三流以下だ
敵の戦力を把握するだけでなく
兵器特有の弱点、利点も理解し
更には製法や工夫
設計に至るまでを調べ尽くし
再現を可能としてこそ一流だ。
時間はかけない
ひとつの武器を理解するのに大体4秒
4秒掛かって分からなかった物に関しては
さっき言ったように構造だけ頭に入れる。
そして速やかに
ずらっと並んでいる同種の武器を
一撃の元に粉砕して木っ端微塵にする。
爪の一振で全てが事足りる
ボクが腕を振るうと万物が灰燼と化す
サラサラの砂のようになっていく兵器達
あれでは、原型が何か判別するのは不可能だ
仮に後から誰かが見付けたとしても
元が何だったかなど分からないだろう。
で、それを引き起こしたのは
表舞台に立っているあの吸血種
という事で全ての辻褄が合ってくれる。
生存者を1人残らず消せば良い
そうすれば細かい矛盾点は消え去る。
吸血種を監禁しているくらいなんだ
必ずどこかに痕跡は残っているはず
記録や資料、物資搬入記録
あるいは建物の素材、建築時期など
あらゆる所から足は着くだろう。
つまりコレは、いつかそれを見付ける
将来の誰かに向けての、布石であった。
そうして
兵器を理解しては破壊しを繰り返し
やがてボクは
今回の主目的にたどり着いた
曰く、`光`であるという秘密兵器
吸血種の肉体性能を制限する力のある
これまでの対吸血種に革命をもたらす物。
非常に巨大な見た目をしている
ドーナツの様な形をした鉄の塊
どう使うかも不明な兵器
兵器だという事前知識が無ければ
全くもって正体不明の物体
ボクはすぐさま分解に取り掛かる
パッと見で構造を分析理解、予測し
壊さないよう正確に、部品を外していく。
今回はじっくり時間を掛けた
あとから理解する等と言ってられない
今パッと見てパッと読み解く必要がある。
彼女が戻ってくる前に
その前に全てを済ませる。
ネジを取る、接合部を外す
電極を外す、小さな部品を除く
そうして2分が過ぎた頃
あれほどに巨大だった機械は
見る影もないほどバラバラになっており
ボクはこの兵器の全てを理解していた。
それによると、なるほど
コレはまだ試作段階の様だね
実戦運用するには少々サイズが大きい
小型化が専らの課題である事は明白だ。
設計思想、利用方法、弱点、強み
理解した、それら全て理解した。
直後ボクの手は
床に並べられた部品ひとつひとつを
元の場所に戻していく作業を始めた。
簡単だ、元に戻すだけなのだから
手順を逆にすれば済むだけの話だ
設計思想が理解出来ているので
適度に改良を加える事さえ可能だ。
不必要なパーツを取り除く
電極と電極を違う位置に繋げたり
部品の一部を削って形を変えたりして
出来るだけ小型化を図っていく。
そうしてさらに3分が経ち
最初はあんなに巨大だった兵器が今では
片手で持ち運べるサイズ感まで
見事に、縮小に成功していた。
急造なので耐久面に問題があり
一度使えば回路が吹き飛ぶ設計なので
普通の人間が使えば
自分諸共まとめてぶっ飛ばす
衝撃の自爆兵器となっている。
ボクは小型化したその兵器を
高い高い天井に向かって投げて
途中、規定線紅を発動させる事で
まるで天井に設置されたカメラの様に
あるいは吊るされたシャンデリアの様に
絶対に誰の目にも届かない位置に設置。
そして、小型化に際して省いた
元の兵器の残骸を入念に破壊する
ぶっ叩いた上からすり潰して
粒子状にまで縮小させていく。
そして、その頃ちょうど
耳をつんざく悲鳴も
人体が引き裂かれる音も
建物全体が軋むような衝撃も
何もかもが聞こえなくなっていた。
恐らく殺し尽くしたのだろう
一瞬、そのまま逃げられるかと思ったが
殺しを終えた直後の様子から
そうでは無いことを悟って安堵する。
ボクは賭けに勝った
彼女の性格を読み切っていた。
クゥ=ハンダッティが戻ってくる
感じるのは余韻、虚しさと達成感
あらゆる感情が混ざった歩き方と呼吸だ。
血の匂いにまみれた彼女は
ここから飛び出した時か、あるいは
それ以上の速度で戻ってきている。
やがて
「——復讐は完遂したかな」
そんな事を言いながら
ぐちゃぐちゃにひしゃげた入口から
音もなく、クゥ=ハンダッティは現れた。
顔には快感が張り付いており
未だ夢見心地という様子だった
目的を見失っていると言ってもいい。
その様子を捉えたボクは——
彼女が部屋に踏み入ってきて
僅かに、歩みをこちらに進めた瞬間!
自慢の瞬発力をフルに稼働させ
意識の隙間を突いて`奇襲`を仕掛けたッ!
脇を閉めて爪を構える
姿がブレるほどの超加速
床は踏み砕かれて爆裂した
生じた衝撃波は部屋を抉った
不意打ち、完全なる意識の外!
ボクは全力の一撃を
クゥ=ハンダッティに見舞おうとして
「——やっぱりそう来たかなァ!」
そんな彼女の声を聞き
飛びかかったボクの身体は、まるで
ボールを壁に投げ付けたかのように
勢いよく、無様に弾き飛ばされていた!
彼女はボクを信用していなかった
ここに戻ってきたのは、隷属故じゃない
人間を狩り尽くしたあと戻ってきたのは
決して、逃げるのを諦めたからではなく
逃げる為にボクを殺しにきたのだ!
真の自由を獲得するために
ボクという呪縛を断ち切るために
長年鎖に繋がれてきた彼女は、それらを
自分の障害となる物だと認識していた!
故に
彼女は、初めからボクを
微塵も信用していなかったのだ
おかげで奇襲に対応出来たのだ。
顔面に突き刺さる彼女の足
完璧にタイミングを合わせられて
モロに叩き込まれた強烈な蹴りは
ボクを反対側の壁までぶっ飛ばした。
ガラガラと音を立て崩れる部屋
弾き飛ばされていく途中、ボクは
ニヤリ、と笑った
それは誰に向けた物でもなく
この瞬間までの全てを、事前に
今の今に至るまでの展開全てを
完璧に読み切った自分に向けてのモノだ!
見上げろ天井を!そこに居るぞ!
仕掛けられた、誘導された罠に!
——発動しろ、規定線紅ッ!!!
初めから天井に固定されていたソレは
この瞬間まで、完全に存在感を消していた
ボクは、彼女に向かって
分かりきった奇襲を仕掛けた事で
他の事に意識を向かわせなかった。
故に気付かなかった
自分がまんまと誘い込まれた事に
クゥ=ハンダッティは思い至らなかった!
途端、部屋中に降り注ぐ光
それは、この空間の隅々まで届き
何もかもを真っ白に染め上げた。
「な、なっ……これは……っ!?」
動揺する彼女、ようやく焦る
自信が置かれた最悪な状況に
今になって、ようやく気がついたのだ。
……だが、もう遅い
——バァァァァンッ!!
無理な小型化の代償を払う事になった
哀れな人類の技術力の塊が砕け散った
跡形もなく、他の物をも巻き込んで。
天井から火花が散る
チリチリと赤いシャワーが
無数に降り注ぎ視界を鮮やかに染める。
兵器がもたらした効果は、絶大であった。
思うように動けないクゥ
逃げる事もままならない
光を浴びた者は今、吸血種として
当たり前に誰もが持つ強大な身体能力を
最早、論外なまでに低下させられている。
それは吸血種であれば、当然
このボクにも効果が出るものだが
しかし
ボクは彼女に吹き飛ばされていた
派手に吹き飛ばされ、壁に激突し
瓦礫の山に埋まったボクに対しては
その光は影となり、届かなかったのだ!
つまり
動けるって事だッ!
瓦礫の山が粉々に吹き飛んだ
ボクのこの世ならざる跳躍
生み出された衝撃波によって
壁や床、天井の一部が弾けた
「マズ——」
刹那
ビュンッ、という吹き付ける風
それは、真っ白い死神の追い風
標的を真っ直ぐに見定めた
非常に直線的かつ単純な攻撃だった。
しかし、しかし彼女は
明らかに分かりやすい攻撃を
真迎えから仕掛けてくるボクに
ピクリとも反応する事が出来ず。
煌めく閃光
臨界点を超えた一撃
「取った」
彼女の身体は、心臓ごと
上半身を抉り飛ばされてしまった。
それは、吸血種としては
決して避けようのない宿命
`同族に心臓を破壊される`という
絶対的に変わることの無い唯一の死
断末魔の叫び声ひとつ
あげる暇もなく、クゥは死んだ。
飛び散る肉片、服の断片
小さな体を貫き抜けるボクの身体
振り抜いた爪、突き出された腕に
床を焦がし、火の跡を作りながら
滑るようにして、足から着地するボク。
爪に付着した血を
腕を勢いよく振ることで払い
その後目だけで、死んだ吸血種を振り返り
「未熟者が」
この程度の騙し討ちすら
見抜く事が出来なかった、愚か者の死体に
蔑みの視線と言葉を、投げ付けるのだった。
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
海上プラントは
クゥ=ハンダッティの大暴れのおかげで
ボクが脱出してものの数分で崩れ去った。
格納庫に残された吸血種の血と
吸血種の死体はしっかりと処理したので
コレで後から調査が入っても心配は無い。
吸血種が居たとしても1人だ
全て彼女がひとりでやった事だ
姿のない彼女は逃亡扱いになるだろう。
世間は新たな吸血種の影に
ビクビクと怯えることとなるのだ。
兵器は全て破壊した、情報も奪った
技術力も余す所なく、全てを奪った。
海上プラント単独潜入、破壊作戦は
完璧な成功で幕を閉じたと言える……。
「——いやぁ……ホントあれっすね
なんか、もうほんとヤバイっすねぇ」
ボクの報告を聞き終えた情報屋リリィは
腕を組み、ウンウンと頷いた後で
頭を横に振りながらそう言った。
海上プラントでの作戦を終えた後
自力で、つまり泳いで帰ってきたボクは
さっそく情報屋リリィと接触を図った。
会合を行う場所は、出立する時に
事前に話し合って決めているので
接触自体はスムーズに運んだ。
それが何処かと言われれば
リンドの倉庫であると答える他ない。
「流石に、片付けるの早すぎるっすよ
え、なんすかその日のうち……とか」
「即断即決が信条だからねぇ
キミの情報が正確なおかげさ」
「褒められて悪い気はしないっすけど……
でも、ちょっと流石に容赦ないっすねえ」
彼女が言っているのは恐らく
プラント内部で出会ったあの吸血種
クゥ=ハンダッティが辿った末路の事だろう。
「あの子は自分以外の全てを憎んでいた
それは、暴れ方から如実に現れていた
ボクの事をハッキリと`敵`と呼んだしね
生かしておく理由は無いよ、必要ない」
「小さな女の子でも容赦無しっすか」
「赤子だろうと変わらないとも
必要とあらば誰だって始末するよ」
「……ジェイミーさんらしいっすね
こうして味方で居られて良かったっす」
「キミが敵に回っていたなら
とっくにボクは狩られていたさ
キミの情報網は普通じゃないからね」
「その場合、私はとっくに、あなたに
見つけ出されて始末されてるっすよ?」
彼女がボクの味方になったのは
彼女の方から申し出てきたからだ
リリィはある日突然現れた。
`どうか私を味方にしてほしいっす
あんたと敵対したくないんっすよ!
情報あげますから何卒ご容赦をっ!`
と、言ってきたのが始まり
ボク自身そんな事は初めてだったし
その時はちょうど情報が不足していて
困ってたという事実もあった事だし
彼女の申し出を受け入れ
良い感じに活用させてもらっていた
そう、元は向こうからの縁だったのだ。
思えば不思議な関係だね。
「さて、と」
テーブルに座っている彼女は
トン……と爪で音を鳴らしたあと
纏わせている空気をガラッと変えた。
`これから本題に入る`
その為の、いつもの準備だ。
「なにぶん時間が足りなかったすからね
大した事は掴めなかったっす、面目ない
ただ、幾つか分かった事もあるっす
どうやら人間同士でも
戦争を起こす動きが見られたんすよ
人間達は相当混乱してると思うっす
例の最終討伐作戦、お偉い方達は
`血別戦`なんて呼んでる様ですけども
アレの決行日時を割り出したっす」
「ほんと!?」
机にダァン!と手を着いて
思いっ切り身を乗り出した
顔を近付けて、目を覗き込む。
「おわっ……ち、ちょっ……あの
か、かお……ちかっ……んんっ!」
異常に目を泳がせて、頬を赤く染めて
戸惑い取り乱すリリィ、咳払いをした。
「や……驚いてもらいたくて
用意してたネタっすけど、まさか
そんなに反応して貰えるだなんて
微妙に死にかけたっすけど
や〜情報屋冥利に尽きるっすねえ」
顔を反対側を向かせて
片手でパタパタと顔を仰ぐ彼女
平静を装っているが動揺を隠せてない。
それでちょっと気になった事があった
尋ねようか迷ったが、気付いた時には
「キミ、ボクのこと好きなの?」
既に口に出ていた。
「ふぐわぁっ!?……は、はぁ!?
ええ!?好きっすけどなんスか!?
悪いんすか!?ダメっすか……!?」
ボク相手だと誤魔化しが効かないので
いっそ逆ギレしてしまおう、という思考。
薄々勘づいてはいたけれど
そうか、ボクに惚れていたのか。
「今度抱いてあげようかい?」
「ほあ……え、良いんすか……まじ?」
「次の仕事を完遂したあかつきには
たっぷりと可愛がってあげるよ」
「——」
顔を両側から挟み込んだまま
ボーッと、し始めた情報屋リリィ
頬っぺたが潰れている、顔が赤い。
うん、良いご褒美になりそうだね。
それからしばらく、その状態が続き
リリィはパン!と手を叩いてこう言った。
告げられたのは
「……決行日時はですね、なんと
今日から3日後だと聞きました
3日後、血別戦が始まります
人類が持てる全ての対抗手段を用いて
あなたを、同族殺しのジェイミーを!
完全に討ち滅ぼすための
一大戦争が巻き起こります」
打ち寄せる波の音
ザーンザザーンと絶え間なく
鳥が鳴いている、風が吹いている。
世界はまだ照らされ始めたばかり
一日は、これから過ぎていくのだ。
目を瞑る、思考に耽る
しばし暗闇に身をやつして
そしてゆっくりと目を開いて
心配そうな顔をするリリィに向かって
片目を閉じながら、こう告げるのだった。
「——安心してくれよリリィ
ボクは立ち塞がる尽くを打ち砕き
自らの命を、未来へ存続させよう
何も生み出さない我が身なれど
そう易々と、奪われてなどやるものか
戦争まで3日と言ったな?
違うね、そんなに待ちはしない
……仕掛けるよリリィ、今日だ
ボクは今日中に全ての片を付ける
この世界から吸血殺しを消し去る」
「ま、まさかアレを使うんすかっ!?」
「調査はもう終わっているだろう?」
「そ、そうっすけど……その……えっと
お言葉ですけど、アレはリスクが……」
「知らない分からないリスクより
見えてる危険に飛び込む方がマシだよ
早急に準備するがいい
アレを持って再びここに来るんだ
受け取り次第、ボクは行動を開始する」
「——分かったっす」
そう言うとリリィは、まるで
初めから居なかったかの様に
一瞬にして姿を消した……。
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