鎖に繋がれた復讐心


困った。


それまで決して止まることが無かった

ボクの歩みは現在、停滞を見せていた。


立ち止まったのは開けた部屋の前

どデカく置かれた資材の影に隠れて


これから通らなくてはならない場所を

注意深く、丁寧に探っている状態。


警備の人間の数が多すぎる

いくらなんでもコレを突破するのは

吸血種の全能力を持ってしても不可能だ。


隠密、という縛りがある以上

一切誰にも手をかけずに進むのは

この辺が限界らしいことを悟った。


ここで引き返すべきなんじゃないか

という考えが脳裏に過ぎるが

従うつもりは毛頭なかった。



が来た

速やかに意識を切り替える


頭の中でルート取りを構築する


どの障害物が邪魔で

どうすれば最も効率的かを考える。


他にも多くのモノを見る


警備の巡回頻度、個人個人での意識の差

歩く時の癖、視線移動の仕方、重心の位置


衣擦れの音から衣装を

足音から身長と体格、武装を


それらの断片的な情報を元に、大まかに

その人物の大まかな人格、考え方を予測し


特定の出来事に際して

どういう反応を見せるかを考慮する事で

自らの動きを、頭の中で最適化していく。


短い時間の中で

幾度も検証と実証を繰り返し

その都度修正を加え、作戦を組んでいく。


そして


観察から始まり、情報を掻き集め

全てのロジックを整え、準備をして

実際に行動を起こすまでに掛かった時間は


およそ3


物陰から飛び出す


静かに、極めて静かに

資材と資材の隙間をすり抜けて


最も遠く、最も人目に触れない位置にいる

哀れな警備兵の1人へと肉薄し、そして


彼の者がボクを認識するより早く

首の骨を叩き割る


まるで木の枝を折った時のように

冗談のような角度を向いた首


膝から力が抜ける

自重に負け崩れていく体


その光景を尻目に


ちょうど直線上に存在する標的へと迫り

こちらも、通り過ぎざまの刹那を狙って

拳を、胸のど真ん中に叩き込む


体内器官のほとんどを破裂させ

一撃の元に撃墜、そのまま真横を通過


目の前には壁、姿勢を変える

壁を足場にして方向転換


向かう先は天井、ボクは斜めに飛ぶ

途中の通過点に居た人間をへし折る


空中で体を捻って体勢を変え

天井を蹴ることで再び方向転換


今度は真下


視線の先に居るのは3人の警備兵

そこへ、真上から奇襲を仕掛ける。


——時を同じくして


ボクは床や壁の中に潜ませていた

規定線紅を、奇襲と同時に起動した。


天井から真下へ向かっての直落下

それは限りなく人目を引く行為であり

多くの者の目に触れてしまうのは道理だ。


だが、そうであると共に

部屋の中央の3層からなる高台に

それぞれ1人づつ配置された警備兵


アレが存在している限りは

ボクが最初に始末した2人以外は

どのように殺しても、見られてしまう


ボクは考えた


ならば同時に消してしまえば

最も効率的な方法なんじゃないかと


壁の中、あるいは床の下から

決して人の目では捉えきれないほどに

超高速、そして静かに、赤い線が迸った。


数にして4本、それは一直線に

それぞれの獲物に向かって襲来し

後頭部、側頭部、はたまた踵から

容易に体内へと侵入し、人体の急所


人が生きる上で最も重要であり

人体の全てを司っていると言える部位

頭の中にある、最重要器官へと突き進み


正確に、最も重要な部位を貫き、破壊

その者の生物としての全てを終わらせた。


そこから約、0コンマ数秒後

ボクの手の中には3つの感触が残った

それは、脊髄を捻り砕いた時の余韻であり


また、実体を伴ったものである

手の中にあるのは、3本の短剣

すれ違いざまに鞘から抜いたのだ。


ボクはそれを、地面に足が着く前に

それぞれ全く別の方向に対して投擲


ヒュン、という風切り音が

3つ重なって聞こえる、という現象は


投げられた短剣が、一体どれほどの速度で

獲物に向かって行ったかを示しており

対象となったに待ち受ける運命は

非常に悲惨で、凄惨な末路となっていた。


切断では生ぬるい、貫通では足りなすぎる

ボクの投げた短剣が引き起こしたのは

一言で表すとするならば、`破裂`であった。


超越的な速度で投げられたソレは

瞬間的に加えられた圧力に耐えきれず

空中分解を果たしていたにも関わらず


標的に着弾したその瞬間

警備兵の胴体を木っ端微塵に消し飛ばし

血と肉の雨を、降らせる結果となるのだが


それが実際に起きるのは

実は、まだ少し先の話である。


この手を離れ

飛び去っていく短剣が

敵に着弾するよりも早くに


ボクは次の行動を起こしていた

飛んだのだ、着地の瞬間、既に

ボクの体は流星の様になって飛び

空中に、赤い瞳の軌跡を残しながら


——見えたッ!


視界に移るは標的7人

ボクとの位置関係は最高


今だ!


今なら狙える!


他の者の目を気にする必要は

この瞬間までの立ち回りのおかげで

全く、これっぽっちも無いのだから


指先を揃えて、手首に力を込めて

背中や肩、肘までをもしならせて


……合計7発


正確に精密に打ち込まれた貫手は

残りの生存者、7名の心臓を破壊


ボクは


爪を振り抜いたままの姿勢で

壁や天井、床を何度も跳ね周りながら

なるべく音を立てないように

自らが得ていた莫大な推進力を殺し


最初に倒した警備兵が

ようやく膝を地面に落とした頃


あるいは


胴体を吹き飛ばされた死体から

夥しいまでの血の雨が降り始めた頃


音もなく地上に着地し

約2秒間の奇襲作戦は終了を告げた。


「ふーー……」


この溜め息は


`もう少し早く倒せたな`という

最善を尽くせなかった事に対する悔しさと

己の未熟さを痛感したが故のものであった。


3度目の方向転換の時

僅かに手間取った感触があった

そのせいでコンマ数秒のロスが発生した


完璧とは言えない

もっと上手くやれたはずだ

このことは後でじっくり検証しよう


新たな課題も見つかった所で

いよいよ、隠された秘密を暴きに行こう

吸血種の耳をも欺く程の鉄壁の情報封鎖


非常に多くの人間に守らせてまで

いったい何を隠してると言うのだろうか?


胸が高鳴る、興味が膨らむ

想像が止まらない、足が止まらない


歩きながら、ポツリと呟いた。


「ご対面……だね」



✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


目的の部屋に入るための扉は

システム的にロックされていた

その資格のある者しか通れない仕様だった。


見たところ網膜スキャンとか

そういった物の様なので

なのでその辺に倒れている死体を

片っ端からパネルに叩き付けてみた


が、最後の1人になるまで

部屋のロックは開く気配はなく

ひょっとしたら頭部のない死体が

入るための鍵だったのかもしれない。


「……こうなったら仕方ないね」


鍵を開けられないと言うのなら

ボクが取るべき行動は、ひとつしかない。


施錠された扉を開けたい時

どうするかは決まっているものだ。


首をコキコキと鳴らして

肩をぶんまわして気合いを溜める

扉を見据え、足の裏をしっかり地面に着けて


腕をまるで弓の様に引き絞り

踏み込み、腰を回すと同時に射出

ボクの腕は硬い扉をいとも容易く切り裂き


閉ざされていた扉に

人が通れるだけの穴を形成した。


切り口からは湯気が立っており

加えられたエネルギーの大きさを

ありありと物語っていた。


警報は……鳴らない……かな


割と一か八かな所はあったが

結果オーライと言って良いだろう

時には暗闇に飛び込むのも大切なのだ。


ボクは自分で開けた穴に手をかけ

ヒョイと潜って、向こう側に通り抜けて

この寄り道にはどんな意味があったのか

それを、目の当たりにしようとしていた。


そして、部屋に入った瞬間

ボクは妙な感覚に襲われていた。


非常に奇妙で、不気味で不可解な感覚

正体はすぐに分かった、それは


部屋に入った瞬間、部屋以外の

外から聞こえていたはずの音が

一切聞こえなくなったのだ。


遮音


これぞ、ボクの耳を掻い潜り

探知を不可能とした強力な防音室

外界とは完全に隔離された謎の空間。


明かりはない、真っ暗だ

外から差し込む光ではとても

部屋全体を照らすには足りない。


ドクンッ


心臓の鼓動がヤケにうるさい

頭の中でキーンという音がする

血管は脈動し、皮膚感覚が鋭くなる


刺激に対して敏感になり

呼吸も、今は止まっている


部屋に踏み込んだ直後からこの状態で

一歩進むごとに、それはドンドン悪化する

得体がしれない、引き返したい、不吉だ。


戻れと本能が叫ぶ

行けと好奇心が手招く

ボクは止まらずに進み続ける。


気配がしている

部屋の奥から気配を感じる

暗闇だってとうの昔に見透している。


だから


この部屋が何のためにあって

何を隠しているのかをボクは

とっくの昔に、頭で理解している


……にも、関わらず

思考を放棄している事実に驚く


`まさか`は既に確信に変わっている

`ありえない`はとうに崩れ去っている。


ボクは前提条件から間違っていたのだ

この部屋は、中の物を隠す為にこんな

高性能に過ぎる防音室な訳ではなかった。


逆だ、逆なんだ

それは中の物を隠す為じゃない


外部からの干渉を避ける事で

中身を隠匿するのが目的なのではなく。


内部から外側を、すなわちこの施設を

掌握される事を恐れての処置だったのだ。


この部屋からでは

外のことは何も分からない


吸血種の耳を完全に無力化している

気配どころか振動ひとつ伝わってこない


そうだ


初めから分かっていた、警備兵を倒す前

彼らの所有する装備を探っていた時から既に

ボクは答えにたどり着いていたんだ!


何故なら、彼らが携帯していた装備は全て

用の物だったのだから!


それが意味すること、すなわち——


ボクは一歩前に踏み出して

部屋の奥に居る誰かに、こう語りかけた。


「暗闇の奥のキミ、もしかしてなんだけど

ひょっとして……なのかい?」


ボクは、答えのわかっている問いを

部屋の奥で鎖に繋がれているキミに

恐る恐る、投げかけるのだった。


返ってきたのは


「わたし……殺されちゃう……のかな……」


そんな、弱々しい少女の声であった……。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


少女が鎖に繋がれている

あれは恐らく能力を再現する為のものだ

そうでもなければ、あんな鎖は

とうに引きちぎられているだろうから。


彼女は吸血種だ、間違いない

数多くの同族を殺してきたボクには

例え確証がなくても、感覚で理解出来る。


「まぶしい……だ、だれ……?

なんなのかな……今日の分は……もう

終わったはず……なんだけどな……」


声に覇気がない、怪我を負っている?

という事は再生能力を阻害されているのか


吸血種に対抗する為の兵器がある

と聞いてやってきた海上プラントには

ボクが絶滅させたはずの吸血種が居た。


吸血種の少女は傷だらけで

今日の分、終わったはずという発言

つまりあの子は実験台という事になる。


新兵器の実験台にされているのだ

焼け爛れた肌、傷だらけの身体に

恐らく見えてない両目、存在しない両足。


削られているのは恐らく

身体能力、血の力、そして再生能力


この部屋自体にも

何らかの効果があると見た

もちろん、あの鎖も同様に。


「やだ……出て、いって……

来ないで欲しい……かな……」


弱々しく、情けなく哀れに

悲しげに呟かれる拒絶の言葉は

同情の気持ちを抱くには充分すぎる


オマケに彼女の見た目や、体の状態だ

普通ならば駆け寄り、助けた事だろう。


しかし、この時ボクは

こんな感想を抱いていたのだ


コイツ、やけに喋るな……と

それが最初の違和感であった。


部屋に誰かが入ってきたので

自分を虐める誰かと勘違いをした

それは分かる、道理だ、道理なのだが。


彼女には聞こえていたはずなんだ

扉を切り裂いた時の、異常な音が


耳が聞こえていないのかもしれない

ボクが彼女に問い掛けた時、返ってきたのは

会話として成立する類の返答ではなかった。


気配を察知しての条件反射

そう取ることも出来なくはない。


だが


ボクは今、足を止めている

その途端、彼女が喋らなくなった

まるでこちらの状況を伺うかのように。


冷静さを感じる

悲壮感漂う言動とは裏腹に

根っこの芯を感じざるを得ない。


矛盾


ボクが部屋に入ってきた時

彼女が呼び掛けに答えた時

そして今、それらを全て統合して

形となって現れた、明確な違和感の正体。


ボクは口を開いた。


「キミは今、ふたつの事で迷っている」


ゆっくりと、暗闇に浸透させるように

丁寧に言葉を構成し、紡いで投げかける。


「最初は、自分を助けさせようとした

ボクの同情を誘い、救わせようとした」


「……」


彼女は沈黙しているが

既にさっきの演技は崩れていた

ダメだね、それじゃ詰めが甘い。


「キミはボクを殺す気だね」


「——っ」


動揺がひたはしる

`なんでその事を!?`という反応だ


確定だね


お互いの正体は同じものだが

ボクはその事に気付き、奴は分からなかった

彼女の思惑は、初めから挫かれていたのだ。


「本当に見た目通りの年齢ならば

さっきの、キミの反応は変だった

もっと取り乱すさ、もっと必死さ


助かりたいと心の底から願うなら

もっと、全力で叫んでいたはずだ


でもキミは絶望を見せた

それにしては冷静すぎた


だから、どこか演技くさかった

キミの精神は成熟した者のそれだった


弱いフリをしたのは

その怯えた演技は誘き寄せる為だ


助け出された直後、ボクを殺して

この部屋から脱出するつもりだったね?」


次にどんな反応を見せるかで

彼女の人となりを掴む事が出来る


豹変するか?否定するか?

それとも——


「……挑発には乗らないかな」


なるほど、未熟だね。


「反応を示した時点で、手遅れだよ

現時点ではカマかけという可能性もあった

だがそう答えた瞬間、キミは完全に負けた」


「いきなり現れて何なのかな!

わ、私に、何の用があるのかな!」


考えを見透かされ、後が無くなり激情

それはつまり恐怖を誤魔化す為のモノだ。


お前は恐怖している、伝わってくる

この先ら自分が辿る末路を思い描き

ガタガタと震えて縮こまっている。


彼女は今度こそ、演技では無い

真の恐怖をボクに見せてくれていた


これで、さっきの彼女の言動が

本当に嘘であった事が確定した。


主導権はこっちが握った

あとは交渉をするだけだ。


ボクは彼女に尋ねた


「死ぬのは怖いだろう?」


「恐怖は命にじゃない、利用される事

このまま鎖で繋がれ続けることに対してよ

……死ぬのなんて、恐れてなんかないかな」


強い目をしている

切な願いが伝わってくる

それは紛れもない彼女の本心だろう。


ならば


「もし鎖から開放されたとして

キミは、その後どうしたい?」


「私をこうした奴らの撃滅を

施設を、忌々しい兵器を破壊する」


言葉尻に怒気が含まれていた

堪えきれない憎しみを内包している

発散先を見定め、機会を伺っているのだ。


「在処は知っているかい?」


答えは


「……知っている」


「——よかろう」


ボクは止めていた歩みを再開し

壁に、鎖で繋がれて居る彼女の方に

つかつかと不用心に近付いて行った。


すると


「……え?……だ、だめっ!

私の周りに近付いたらダメ!

鎖、鎖に触ったら力が奪われ——」


「——規定線紅」


指先から真っ赤な血が飛び出した

それは刃を形取り、彼女を繋いでいる鎖を

跡形も残らない程、細切れに切り刻んだ。


「……あ……えっ……?」


支えを失った彼女は、声を上げ

体を傾かせ、地面に倒れ……る前に


明らかな不自然な角度で停止し

まるで映像を逆再生するかのように

スゥーッと、体勢を整えていった。


「な、何が起きたのかな……」


自分の体を見回しながら

起きた出来事を理解出来ず戸惑う彼女


`自由になった`という事実を

どうやら受け入れられないらしい。


「身体の再生が始まったね」


傷が塞がっていくのを見ながら

ボクは、ある程度の距離を保ちつつ

未だ呆然としている彼女に話し掛けた。


「……鎖が悪さをしていたんだよ」


手を握ったり開いたりしたり

その場で跳ねてみたりと、色々している

まるで動けるのが感動だとでも言う様に。


「……あなた、吸血種……なのかな」


「証拠を見せよう」


そう言うとボクは

自分で自分の腕を引きちぎって見せた。


「な、なにして——!?……あ」


失われたはずの腕は、次の瞬間には

何事も無かったかのように平然と存在し

傷はおろか血の一滴も、出ていなかった。


「ほんとうに……吸血種……だった……」


ボクの腕を凝視しながら

顔を青くしてそう言う彼女から

微妙に漂わせていた敵意が消えた。


「隙あらば殺る気だったでしょ、キミ」


「手出さなくて良かったかな……」


ホッと胸を撫で下ろす彼女は既に

傷ひとつ見当たらなくなっていた

これでようやく土台が整った。


ボクは本題に切り込んだ


「で、早速なんだけど

血を分けてもらえるかい?」


吸血種が吸血種から血を吸うと

その者の記憶を得ることが出来る


それは、人間や眷属を相手にした時とは

全く、比べ物にならない程の精度を誇る



「……道案内じゃだめなのかな」


「自分でも知っておきたいんだよ」


嘘ではなかった

しかし真実でもない

ボクはコイツを信用していない

道案内など任せられる訳が無い。


ボクは少しばかりされる事を覚悟した

だが、現実はそうはならなかった。


「……じゃあはい、どうぞ」


ぬっと差し出される腕

内心の不満を隠そうともしていない

吸われたくないと全身で表している。


彼女のヒンヤリとした腕を掴む



「ほんと、あなた何なのかな

凄い通り越して気持ち悪いんだけどな」


「もっと上手くやるべきだったね

結果を急ぎすぎさ、あれじゃダメだ」


「敵に説教されたくないかな!」


差し出してないもう一方の腕で

ボクの肩やら頭を叩いてくる


さっきまでの恐怖心は何処へやら、だ

怒りで周りが見えなくなるタイプかな?


叩かれながらもボクは

お構い無しに、牙を突き立てた


小さな腕に食い込むボクの牙

それは皮膚を裂き、肉を貫き

身体中を覆う血管へと到達する。


そのまま


この小さな吸血種の血を吸っていく。


「ほ、本当に吸ってるかな……」


微妙に抵抗をされるけど

そんなものは妨害のうちに入らない

ボクの頭の中に映像が浮かび上がる。


記憶、彼女の記憶が

自分の事の様に体験出来る

今に至るまでの全てを知っていく


——その途中


「ぶわっ!」


ボクは反射的に

少女の頭を鷲掴みにして捕らえた


その時には既に、彼女は大口を開けており

ボクの首筋に噛み付く寸前だった。


「じ、自分だけずるいかなっ!

私にも吸わせてほしいかな!」


ピーピーと騒いで煩いので

彼女の頭をぶっちぎって黙らせた。


それからボクは、血を吸い終わるまで

彼女が復活してくる度に、何か言う前に

頭部を破壊して黙らせるのを繰り返した。


食事中は静かにするものさ

人の邪魔をするもんじゃない。


やがて


「——ご馳走様」


用事は達成された。


「ごっ……ご馳走様、じゃないかな!

あたま酷いんじゃないかな……っ!」


抗議の声は鳴り止まないが

ボクは一切気にも留めておらず

むしろ、別の話題をぶつける程だった。


「キミの血、なんだか甘いね」


それは味の感想であった。


「え、そうなの……?」


縦にブンブン振り回していた腕が

ボクの言葉でピタッ……と静止した


「生クリームみたいだったよ」


「——複雑」


食料としての優秀さを誇るべきか否かで

生物としてのプライドが揺らいだのか

不満げな視線を送ってくる彼女。


「ところでキミ、名前は?」


「……クゥ=ハンダッティ」


なるほど、聞いた事ない名前だ

完全に知らない吸血種のようだ

ひょっとすると彼女は

ずーっとここに居たのかも知れない。


かつて殺し損ねた吸血種

そう考えるのが自然だろうか。


その辺はおいおい調べるとして

最優先で知るべき事は他にある

それは戦力としての評価だ


「キミはどの程度戦えるのかな?」


彼女の答えは


「吸血種を殺せるくらいかな」


「へぇ……」


ボクの興味を引いた——。


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