秘匿の研究室


「……」


部屋中から視線が集まる

そこに込められている感情は

決して友好的なものではない。


むしろ、その逆

拒絶、軽蔑、憎しみや怒り、恐怖といった

様々な`負`の感情が向けられている。


部屋に充満する薬品の匂い

高価そうな機械と神経質そうな人間達

そう、ここは国の研究室である。


それも、ただの研究室じゃない

吸血種に関する研究をしている施設だ。


「……あー、事前に説明した通り彼女が

噂になってる吸血狩りのジェイミーで

これから研究に協力してくれる吸血種だ」


ボードを片手に

部屋の人間たちに説明する彼は

淡々と役割をこなしている様に見えるが


誰とも目を合わせないよう

わざと視線を下げていた。


抗議は受け付けない、という

頑なな意志が感じ取れる。


「……じゃあ後は任せたぞ」


「はぁ……わかりましたよ」


ボクの事を睨みつけながら

ボサボサの髪をした男が答えた

体格から察するに元軍人だな。


姿勢の整い方が

戦場に常駐する者のそれだ

見たところ右の足首に障害があるらしい

歩き方のバランスが不自然だ。


そして取り残されるボク

まるで敵地に放り込まれた気分だ。


とりあえず挨拶と行こうか


「やあみんな、よろしくね」


「おー……」


部屋の隅の方から

やる気のなさそうな声が上がった

相変わらず睨まれたままだ。


頭が割れそうになるぐらいの

痛い沈黙の音が鳴り響き、やがて

活発そうな女が話しかけてきた。


「本当に協力してくれんの?」


2日半は寝てないな

手の荒れ方から見て分かる通り

彼女はずっと薬品に触れている


強制されて、というよりは

恐らく自主的に行っているのだろう

恐怖心を誤魔化すのが得意なようだね。


率先して動くことで

紛らわそうという算段だな

彼女からは憎しみを感じない


どちらかと言うと

蔑視に近いものを感じる。


「うん、もちろん」


「とか言って、うちら全員

明日には死体になるんでしょ?」


ふうん


信用されないのは良いとして

ここに居る人間たちがそれぞれ

どんな感情を腹に抱えているのか


まずそれを

把握してみようか


「お望みとあらば、今すぐにでも」


途端、漏れ出る殺気


「——ッ!」


反応は実に多種多様だった

後ずさりした者、前に出た者

ナイフを手に取ろうとして落とした者


そしてボクに


「——ッラァ!」


拳を振り上げて

殴りかかってきた者まで


赤髪で白衣を着崩し

慣れた手つきで突き出される拳

プロでは無いが、荒事には慣れているな


肝が座っている……だけではあるまい

このタイプの男は打算で動く傾向にある


彼の行動を見て

部屋の何人かが悲鳴をあげる

止めようと駆け寄る者も居る。


まあ、食らっておくとするか——


「おや?殴らないのかい?」


拳はボクに当たる寸前で

空中にて静止した。


鼻先スレスレだ

風圧が目に染みる


別にそのまま思いっきり

殴ってくれても良かったんだけどね

そんな事くらいじゃ怒らないのに。


「……チッ」


目論見が外れたって顔だ

死を恐れるタイプじゃなさそうだな。


彼は不機嫌そうにしながら

背を向けて歩き出し、乱暴に

椅子の上へドカッと座った。


頭の中で考えてることを

周りに説明しない所から見ても

相当に自分勝手な奴なのだろう。


確かめたいことがあった

アテが外れた、つまんねえ


そんなところか。


なるほどね

今のでだいたい分かった

彼らの多くは精神性が一般人のそれだ。


中には、戦う者の気配を

纏わせている人間もいるがね。


「それで、何を協力すれば

研究の役に立てるのかな?」


「あ……はい……血、ですね……」


眼鏡をかけて、猫背で

声の小さい男が答えてくれた

さっきボクが殺気を漏らした時に

尻もちを着いて腰を抜かしていた男だ。


臆せず話しかけてきた所を見ると

ただの臆病者というだけではあるまい。


なるほど、血か

しかし吸血種は血を流さない

ボクの知らない方法があるのかな?


と思っていると、その男が

ヤケに機械的な見た目のモノを片手に

ボクの方に歩いてきた。


「フ、フレデリック……!?

あ、あんた近付くつもり!?」


棚の裏に隠れていた

短髪の女が叫んだ。


「こ、ここで僕達が!何をしようと

相手が吸血種なら、逃げきれないんだ


だったら、そ、その言葉を……信じて

研究を進めるしか、無いでしょ……?」


「そうだけど……!でもあんた普段は

ビビりなくせに、何でこういう時だけ!」


勇気と言うよりは知識欲

それは半ば狂気にも近いものだ

彼は勇敢なのではなく

好奇心を抑えられないだけだ。


「腕を差し出せば良いかい?」


「う、うん……そうしてもらえると

えっと助かる……あぁ、血を採るのにね」


ということは

その手に持っているのは

注射器のような物か。


よく見ると持ち手の部分に

トリガーのような物が着いている。


しかし針が見当たらないな

内部に収容されているのだろうか?


差し出したボクの腕に

彼の持つ機械が触れる


するとプシュッ!という音がして

腕に鋭い物が差し込まれる感覚がした。


やはりそうか

針は収納されていたか。


だいたい2秒ぐらい

そのままの状態が続き


「……もう大丈夫、ありがとう」


と言って彼は

その機械をボクの腕から離した。


「その血は具体的に

どんな事に使うのかな?」


「混血施術における各種臓器への影響

または、血そのものが持つ特性の解析

投与における持続性及び安定性の確認


……です」


「やはら、研究自体は既に

実用段階に入っているんだね」


「そ、そうです!理論は構築されてるんです

でも、それを実現する為の材料が無くて」


「それは血だけでないのだろう?」


「そ、それは……その……はい」


「例えば`心臓`とかかい?」


そのワードが出た途端

部屋中に緊張がひた走った。


誰もが口を閉ざす

彼らが求めているのはボクの死体

全身が研究の`素材`となるのだから。


命など邪魔なもの

彼らが欲しいのは協力じゃない

その残骸、自由に使い潰せる死体だ。


沈黙を打ち破ったのは

ボクに殴り掛かろうとしてきた男だった。


「じゃあ、`そうだ`って言ったら

てめぇはくれんのかよ?えぇ?


命をよォ、捨ててくれんのか?」


「それに準ずる物を作る為の

手助けはしてあげられるよ


キミらでは決して辿り着けない

果の境地に導いてみせよう」


「……豪語するのは勝手だがな

その事をどうやって証明する?


てめぇが何を企んでるか

腹ん中の保証を誰がしてくれる?」


「キミは研究者として

探求よりも己の命を尊ぶのかい?


死を恐れるあまり

その足が止まるとでも?」


「——」


キミたちは


この部屋にボクが姿を現した時に

そこに留まっていた時点で欲に負けている。


行き詰まっている研究と

それを解決出来る存在


新たにもたらされるであろう

人間だけでは知り得ない情報の数々

鼻先でソイツをチラつかされたなら


手が伸びてしまうのが

研究者という生き物だろう?


「ここで信頼を討論するのは無意味だよ

それよりは、そこに居る彼のように

踏み出してみては如何かな?」


「あ、ぼ、僕……その……」


「……チッ」


ああ、凄く嫌そうな顔だ


そんな反応をするってことは

やはり今のは単なるカマかけだった訳だ。


こういう絡み方をしてくる人間が

大人しく引き下がる可能性は低い

十中八九、逆ギレしてくるだろう。


それがないってことは

赤髪の彼が理性的である事の証明になる

最初と同じだ、奴はボクを試しているんだ。


彼は決して愚か者では無い

ただ、自分の目的のためならば

愚者を演じる事が出来るだけだ。


となると、その目的は——


「将来の敵に対する情報収集か

なるほど、先を見通すいい視点だ」


あくまで一時の協力関係と言うのなら

その後の事まで考えるのが一流というもの

奴は、ボクの性格を知ろうとしているのだ。


「……気持ち悪ぃんだよ、クソが」


知恵比べに敗北した彼は

ますます不機嫌そうな態度で

ドカッ!と近くの椅子に座った。


その様子を見てボクは

少しアドバイスをしてやりたくなった

まだまだ未熟な物に対しての。


「優秀であるほど考えは読みやすい

大切なのは主目的の秘匿だよ


キミの場合は、あと一歩踏み込んで

愚か者に徹する必要がありそうだね


テーブルの上の物を弾き飛ばしながら

逆ギレして怒鳴る、くらいが丁度良い


今の場合はね

覚えておくといいさ」


「あぁ、そうかよ」


うん、やっぱり彼は賢いね

普通ならここは反抗するところだ

敵から貰ったアドバイスなど

普通であれば突っぱねるものだ。


的はずれな事言いやがって

お前に俺の何が分かる!とね


「キミは素直だね」


「殺すぞ」


正直者の彼は恐らく

読み合いに向いてないだろう

才能と性格が一致していない。


特に対面した上での交渉、腹芸は

ある時を境に成長が打ち止めとなるな

それ以上は人格を変えでもしない限り

どう足掻いても先にはいけまい。


「フレデリック」


「は、はい!」


「その採取した血、うちに見せて」


「分かりました!」


「……はぁ、ま、やるっきゃないか」


「よくもこんなバケモン

連れてきやがったもんだぜ」


彼らは現状を受け入れ

己の職務に取り組み始めた

ボクに注がれていた視線は


それぞれが持つ

各々の役割へと向けられ

突きつけられた切っ先のような

鋭くも冷たい敵意は、一旦消えた。


で、あれば


「ボクも何か手伝うよ」


「…………じゃあ、そこの——」


作業開始と行こうか。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


死者蘇生の理論

そして成り立ちはこうだ。


血液とは全身を循環するものであり

心臓はもちろん脳や内蔵を司る


死とは意識の停止であり

鼓動、脈動の停止である


しかし吸血種にはそれが無い

ただひとつの場合を除いては


それは何故か

たとえ頭を吹き飛ばされようとも

心臓を貫かれたとしても


同族である吸血種以外には

決して殺しきる事ができない


彼らに意識の停止は無い

すぐさま元の状態へ復元される。


再生とはすなわち

失われた元の形を記憶し

再び構築する事にある。


では、それらを可能とする要因とは何か


生まれながら肉体に備わった機構か?

あるいは理論理屈を超越した能力か?


否、否である。


答えは血だ。


吸血種の体を巡るその血こそが

彼らの不死性を成立させる物である。


その証拠に彼らは

自らの命が散る瞬間まで

例えどれだけの傷を負わされても

一滴たりとも血を流すことが無い。


しかし


仮に吸血種の血を

人間の体に投与したところで

持ち主である吸血種本人以外には

その奇跡的な力は発揮されないのだ。


これが原因で

死者蘇生はおろか不死の研究すら

停滞を余儀なくされていたのだが。


ある時


まるで天から轟く雷鳴のように

一筋の光明が差し込んだ。


それが`人工血液`である

国の奥の奥、最奥にて古くから

研究が続けられてきた血の力の軍事利用


その過程で生まれた副産物

いや、失敗作と呼ぶべきか


それが生まれたのは

全くの偶然であったと言う


たった一滴


血の力の研究によって生まれたそれは

兵器としての性能は無かったと言うが

ある特性を持っていたのだ。


それは物を復元する力

失われた形を取り戻す作用


すなわち


吸血種が持つ自己再生

それに準ずる特性を秘めていたのだ。


武器として扱えはしないが

無機物、有機物に限らず

復元を果たすその赤い液体は

まさしく偶然の産物であった。


それ故に

再現は困難を極めた。


確かに物凄い発明だが

たった一滴では限界があった


一滴分の質量以上の範囲は

どうやっても修復出来なかったのだ

つまり人間に対して投与するのであれば


全身を巡る血液と

同程度の量が必要となる。


しかし元が偶然

設計図など化学式など

何も無い所から生まれた失敗作


であるが故に、ひたすら時間と

素材のみが浪費されて行く事となる。


それはまだ人類が

吸血種に対する対抗策を

何ひとつ持っていなかった時代の話である。


そしてある時

再び光が差し込んだ。


吸血種だ。


人間に狩られることを恐れ

同族を裏切り、人間に協力する事で

己の命を存続させようとした吸血種が居た。


百年前ボクが滅ぼした男

曰く、始まりの吸血狩り


現在ある対吸血種装備の

全ての元となった存在。


彼が`素材`を提供した

すなわち吸血種の血である。


偶然から生まれ

再現が不可能となっていた人工血液は

彼の協力によって、それまでの苦悩が


まるで嘘のように掻き消え

1人分の人工血液が生み出された

全ては順調かのように思われた。


しかし


ここで大きな問題に直面する

生み出した人工血液を投与する人間が

1人も見つからなかったのだ。


当然だ


誰もやりたがらなかった

そんな得体のしれない液体を

身体の中に入れるなど


理論的に可能である、など

全くなんの保証にもならなかった。


つまり


その人工血液が実際に

吸血種の持つような再生能力を

人間に与えるかは不明だったのだ。


結果


それまでの研究で生じた負債

そしてかかってしまった時間から

王は研究の中止を決断。


完成したかどうかすら分からぬまま

不死の研究は頓挫する事となり


生み出された人工血液も

破棄される結果となってしまった。


やがて時は経ち


かつて行われていた不死の研究

その理論が記された書類を見つけ出し


人工血液を独学で作り上げて

自らに投与した人物が居た

そして、その人物こそが


最初の不死

ミシェル=ドレッディアであった。


これにより不死の研究は

空想ではない実現可能なモノとして

百年の時を経て日の目を見た。


しかし


ひとつ欠点があった

それは`素材`が必要ということ

人間が自分で用意できる材料だけでは


決して


あらゆる傷を癒す人工血液は

作ることが出来なかったのだ。


そしてその材料を

提供してくれるはずだった

始まりの吸血狩りはボクが始末した。


ゆえに


国でどんな危機が起きて

誰が死に、または死にかけていても

死者蘇生も不死の投与も行えなかった。


行き詰まる

とはつまりそういう事だ。


死者蘇生の理論はこうだ


死者を蘇生するには

事前にひとつ段階を踏む必要がある。


まず、人工血液を投与し

対象の人間を不死とする


吸血種の血は吸血種のみに

さらに言えば持ち主本人にしか

作用することがない物質だが


ある配分で薬品を混ぜると

その性質を破壊する事が出来ると言う


よって人の体は

不死の力を手にする。


それはたとえ死体であっても

お構い無しに作用してくれる。


だがこれだけでは

人間として再成立はしてくれない

修復されるのは肉体のみで精神は違う。


故に


ここに、混ぜ物をしていない

吸血種の血をそのまま注入する。


人工血液を投与された時点で既に

人間という枠組みから外れ

吸血種に近い存在となっているため

血の恩恵を受けられるのだと言う。


理論上はそれで

更なる再生力を手にする事が可能となり

意識の復活が望める、ということらしい。


✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱


「——なるほどねぇ」


研究室に保管されていた資料を読み漁り

この研究の概要を調べていたボクは


そこに綴られていた数々の計算式や

注意点、工夫そして理論に対して

感嘆の声を漏らしていた。


「これ実例はあるのかな」


実験記録の資料を探してみると

ファイルに纏められた物が出てきた。


「ふむ……小動物では一応

成功を確認しているようだね」


死亡前と蘇生後での

行動及び生体の変化は認められず

`復元`は見事に果たされているようだ。


それにしても、人工血液ね

リンドが作ってボクに渡してくれた

あの装備と近い物なのだろうか。


彼らの言う人工血液では

血の力は使えないようなので

ダウングレード版と捉えるべきかな。


見た限り人体実験は

1度も行われてないみたいだけど

まあ恐らく、上手くいくだろう。


……こんなところかな


大体の概要は掴む事が出来た

後は実際にこの目で確かめるだけだが

問題はそれがいつになるか、だ。


「進捗の程はどうかな?」


ボクは近くで

書類の束を纏めている子に

そう訪ねてみた。


「少し手こずってるみたいよ」


「やっぱり難しいものなんだねえ」


「そりゃあそうよ、何から何まで

格の違う精密さを求められるんだもの


時間から、容量から、混ぜる速さ

角度、温度、湿度、それら全てを

手作業でやらなくちゃいけないのよ


臨機応変な対応を求められるから

機械ではダメなの、人の手でないと」


「それでいて作業そのものには

機械並みの精密さを求められるんだろう?


それはなんとも、頭の痛い」


「せめて、機械技術がもう少し

発展してくれたら助かるんだけどね


……っていうか、アナタどうして

そんな風に普通にしていられるワケ?」


「うん?変かな?」


「ゼッタイにヘン」


腕を組んで怪しげな視線を注ぎ

露骨に距離を取り警戒する彼女。


「その割には会話してくれるんだね」


「それは……ついよ、つい」


「キミ名前は?なんて言うのかな」


「ジーン=アイルズ」


「ああ、教えてくれるんだね」


「……」


しまった、という顔をするジーン

なるほど、彼女は人が良いらしい。


「ところでキミ寝てないだろう」


「え、な、何よ急に……」


この距離で顔を見ると一目瞭然だが

どうにも血行があまり良くないようだ

積み重なる寝不足が原因だろうね。


さすがは研究者、激務だ。


「こっちにおいで、ボクが少しだけ

疲れが取れるマッサージをしてあげよう」


「……ホント?」


「警戒すると言うのなら

受けるべきでは無いんだろうけどね」


「自分から提案しておいて

言うことじゃないでしょそれ


……分かったわ、じゃあ

少しだけお願いしても良い?」


「うん、まかせてよ」


「——」


毒気が抜かれたような表情で

ボクの顔をきょとん、と見つめた後

顔を左右に降ったかと思うと

おもむろに椅子に腰掛けて座った。


「……そういう態度されると

怖がってるこっちがバカみたいじゃない」


などと小声でボヤいていたが

申し訳ないがボクは耳が良いので

まるっきり聞こえていた、悪いね。


「食習慣も偏っているだろう」


マッサージをしながら

彼女に向かって話しかける。


「……な、なんで分かるのよ」


「肌ツヤの良さや、歩き方に加えて

顔色に呼吸の仕方に、体のバランス

それらに注視すれば自ずとね」


「バケモノじゃない」


「そうさ、ボクはバケモノさ」


「……謝んないからね」


「そこでそういう発想が出るあたり

やはりキミは良い人間みたいだね」


「ちょ、調子狂うからやめてよ!」


素直な女の子だ

表裏のない気持ちの良い人間だ

この子は人を惹きつけるだろうね。


嘘が付けないタイプだ

心理戦に致命的に向いてない。


だからボクはひとつ

聞いてみたくなぅたんだ。


「ジーン」


「なによ」


「——あの研究は本当に

上手く行くと思うかい?」


「行くに決まってるでしょ」


ああ、やっぱり

この子は素直なんだね。


「そうなるよう願ってるよ

是非、この目で確かめたいしね」


「もしかして、それが目的なの?」


「ボクは己の欲以外の理由じゃ動かない

だから、協力というのは信じてくれていい


ボクはただ、奇跡が実際に起きる時

その場に居合わせたいだけだよ」


「……」


会話の流れを誘導して逸らした

これで追求される事はないだろう。


ジーン


もしボクを敵として警戒するのなら

一秒たりとも視界に入ってちゃダメだ


ましてや体に触れさせるなど

読んでくださいと言ってる様なものだ

キミの人の良さは付け入る隙になる。


彼女は


研究が上手く行くとは思っていなかった。


これは1つの

指標となる気がした。


行く末を見届けよう

果たしてどうなるのやら

ボクに出来ることはまだある。


迅速に

事を済ませて行こうじゃないか。


「——すごい、本当に元気出た」


「効果すごいでしょ、これ」


「……ありがとう」


お礼を言う必要は無いよ

むしろこっちが言いたいくらいさ。


`ありがとう`ってね。


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