暗部の気配漂う土の中
なぜ王女が関わってくるのか?
それを現段階で考察する事は不可能だ
しかし
黒幕の存在が現実である
という事が分かっただけでも
前進と見るべきだろう。
きな臭い話だ
人類の為と謳っての敵対宣言に
裏が存在するかもしれないとはね
人間達があれだけ躍起になって
ボクを殺そうとしているのは
ただ純粋に明日を願っての行為では
ないのかもしれないってことだ。
エゴ
それは人間を強くする
意思という名の魔法である
例えそれが正当ではなくても
利己的な願いが元だとしてもだ
ボクはそれを
悪い事だとは思わないが
隠匿されている事柄があるのなら
闇から引きずり出してやりたいとは思う
ワクワクするじゃないか
何を隠していると言うんだい?
一見は綺麗に見える行動理念
吸血種を殺し尽くしたボクを恐れて
排除しよう、という考えは至極真っ当だ。
掲げた純白の旗は
濁りなき真実なのか
あるいは暗い影を
湛えたものであるのか。
生き残るついでに
切り込むというのも悪くない
元から穏やかには生きられないタチだ
ただ人間の文化に触れて
静かに暮らすというのは
決して退屈ではなかったが
刺激は足りてなかったと思う
いいね
面白くなってきた
ただ攻められるばかりで
いい加減、嫌気が差してきた所だ
なんの手掛かりもなければ
突破口も見いだせなかったので
なあなあで、ここまでやってきたが
話が変わってきた
動き始めるとしようか
「——という訳でリンド
ボクはこの国を出る事にした
今までお世話になったね」
「……あ、あんたホント突然だね」
海沿いの工房で
再び彼女と言葉を交わす
情報屋から話を聞いた直後の事だ
ここに来るまでの僅かな時間で
考えを纏めたボクは
彼女と顔を合わせるなり
開口一番そう告げた。
「はぁ……でもまあコレも
何かの縁って事なのかな
どーせアタシがなんか言っても
聞くはずはないんだし
ちょっと待ってて
この間言ってた物が出来てるから
取りに行ってくるよ」
「おや、なんてタイミングの良い
まるで狙ったかのようだね
話ではまだ
調整に時間が掛かると
キミは言っていたはずだけど?」
ボクの言葉を受けて
リンドは走り出した足を止めた
そして振り返って
困ったような顔をしてこう言った。
「どうにもね
予感がしていたんだよ
それで無駄に調整を急いでたの
もっとも
その事を言ってしまえば
別れが早くなると思って
あえて黙ってたんだけどさ」
「よく分かってるじゃないか」
「伊達に付き合い長くないよ
ま、あんたにとっては
瞬きみたいなものだろうけど」
それっきり彼女は
その装備とやらを取りに行き
ここから姿を消した。
リンドの居なくなったあと
ボクは小さな小さな声で
ポツリと零した
「……そうでもないさ」
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
「最近の人間達の技術力では
血の力が封じられる傾向にある
ま、強力な力だし
当然と言えば当然だけど
それはどうも不便だと思うのよ
発動を察知される
それを索敵に使われる
おまけに最近じゃあ
特殊な素材で作られた防具で
効果的な傷は与えられないときた
結果あんたは
肉弾戦をするしかない
なんて不便なんだと
あたしは前から思っていた
そこで!装備を開発したのよ
それらをまるっと解決できる
吸血種にとって夢のような品を!」
「非常に良い滑舌と
息継ぎを挟まない言葉の羅列
キミ、相当に興奮しているね?」
「あんたは血の力を
まるで粘土のように使う
直接的な攻撃手段にだけではなく
移動するためのアンカーであったり
他の物体に浸透させる事で
それごと操ったりしてきた
あんたは柔軟な思考を持っている
それならば、とあたしは考えた」
「……何も聞こえてないらしいねぇ」
「人間達が感知しているのは
血の力そのものではないんだよ
まだまだ粗がある
なにせ最近できた技術だからね
そしてその粗は
おそらく一生埋まらない
なぜなら彼らは根本的に
吸血種を理解していないからだ
彼らが現在こうして
吸血種に対抗する術を持ってるのは
吸血種本人からもたらされたモノだ
基礎は与えられたもの
自ら発見した情報では無い
だから土台に穴がある事を
彼らはまだ知らないのさ
人間達がすがっている
今の対吸血種の体制は穴がある
そしてそれは偶然なんかじゃない
始まりの吸血狩り
奴は正確に情報を与えなかったんだ
長年あんたと関わってきて
そして研究を積み重ねて
あたしは真実にたどり着いた
結論!
人間達が感知しているのは
血の力発動の瞬間だけだ!
操る行為自体を
捉えている訳じゃない!
つまりは——!」
彼女は後ろに回した手を
勢いよくボクの前にかざし
その手の中のモノを見せつけた。
「小瓶?」
そこにあったのは
手のひらの上に乗るサイズの小瓶だった。
そして気付いた
その内容物の正体に。
紅く、紅く
どこまでも深く
そして強大な力を宿した液体
コルク栓で蓋をされただけの
小瓶の中に詰まっているのは
ボクの目は確かだ!
どう見ても吸血種の血だ!
「なるほどね
キミの意図がわかったよ
それを操れと言うんだな?」
「ああ、話が早くて良いね
ちなみにこれは偽物の血だよ
あたしがこの手で似せて作ったモノだ
ちゃんと使えるか
試してみせてほしい
ほら、これ」
ボクはその小瓶を受け取り
中のものを揺らしてみた。
やはりどう見ても
模擬的な血とは思えない
非常に真に迫っていると言える。
いったいリンドはどうやって
こんな物を作ったというのだろうか
控えめに言ってもデタラメな所業だ。
コルク栓を抜き
中の液体を手のひらに垂らす
ドロっとした液体が
手の中に満ちていく
「こうかな?」
普段
自分の血を操るのと
同じやり方を試してみた
すると
「ほう」
動いた
思った通りに動いた
まるで体の一部のように
しかし量が少ない
無尽蔵とはいかないか
見た目通りの量しか操れないね
「でも、これは凄い
まるっきりホンモノと同じだ
それはボクが保証するとも!」
「あんたも興奮してんじゃん」
「無理もないさ、だってこれ
感知に引っ掛からないんだよ
見た目で何となく
正体を察する事は出来るけど
感覚的にはそうと分からないんだ
不思議な感じさ
間違いなく血の力なのに
そうと確信できないんだ」
「そうだろう、そうだろう
その様に作ったからね
……ところで、どうしてコレ
薔薇の形をしているんだい?」
彼女は目の前に浮かぶ
ボクが操って形を変えた
己の発明品を指して言った。
「血の薔薇なんて
素敵だと思わないかい?」
「……感性の果てまで血まみれか
あんたまるで鬼か悪魔みたいだね
吸血種なんて生ぬるい
吸血鬼と呼びたい気分さね
赤薔薇姫とか
面白いかもしれないよ」
「意外と良いねそれ
いつか何処かで使うとしよう」
「そん時は使用料
払ってもらおうかな」
「おやおや、強かな事だ
ならばボクは逃げるとしよう」
「地の果てまで追い掛けるさ
あんたどうせ問題起こすし
居場所なんてすぐ割れるよ」
「違いない」
「——」
陽光が差し込む
ホコリっぽくて暗い鉄の倉庫
波のザザーンと打ち寄せる音がする
そこら中に
ガラクタが散らばっており
彼女の気質をよく表している
ボクの大切な友人
最も信頼する人間のひとり
「リンド」
「ああ」
「また会おう」
「言われるまでもなく
で、次の行先は?
もう決まっているんだろう?」
「あぁ、もちろんだとも」
空中に浮かんだ薔薇を取り
細い線のような形に変えて
服の隙間から素肌を這わせる
全身を覆うような形で
この模擬的な血を纏った
こうしておけば持ち運びも楽で
使う時も困ることは無いだろう。
「そういえばリンド
この装備の名前は何かな?」
「……あー決めてなかったわ
開発に夢中でつい失念してた
名前をつけるのなんて
真っ先にすべき事なのに
そうだなあ
それは模造品の血
人間の手で作り出した偽りの力
あたしの手で作りだした規格品
それと、さっき見せた持ち運び方や
血の使い方からもインスピを受けて
なんてどうかな?」
「そういう名付けのセンスは
ボクには良く分からないけれど
キミの付けた呼び名だ
是非とも使わせて貰おう
規定線紅ね
人間の言葉に確か
似たようなものがあったね
既定路線……だったっけか
決められたレールの上という意味の
ボクが敷いた線路の通り
動いてくれる血の兵器か」
「線紅、漢字を変えて
選び抜いて考える、で選考とも言う
あんたは決断して生きてきた生物だしね
お気に召したかな」
「もちろんだとも
じゃあボクは、そろそろ行くよ」
「ああ、行ってらっしゃい」
それを最後にボクの姿は
まるで霞のように掻き消えた
次なる目的地に向かうために……。
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
山を超えた
野を超えた
人気のない草原を通り過ぎて
草木も生えぬ荒野を抜けた。
海を飛び越え
雪の国を走破した
1秒たりとも休むこと無く
ボクはひたすら前進し続けた
野生動物と戯れたり
道すがら花を愛でてみたり
見た事のない景色を楽しんだり
……1秒たりとも休まない
というのは正しくなかったな
休憩を取っていない
という意味での言葉だったが
楽しまなかったと言えば
嘘になるのは間違いない。
野生動物は可愛かった
ボクによく懐いてくれた
膝の上に乗せたっけな
花は綺麗だった
見た事ない種類の物を
何輪かみかけたな
景色は優美だった
それが自然のものでも
例え人工物だとしても
美しさに序列はなく
等しく尊いものであった。
山は五歩で踏破したので
これといって何も起きなかった。
平野は3秒で超えたので
覚えてることは何も無い
このように
距離だけを書いてみると
非常に長旅に思えるが
その実
経過時間での話をすれば
出発した瞬間から現時点までで
まだ1時間も過ぎていなかった。
動物も、花も、景色も
楽しむために足を止めたのは
本の数秒だけという話をすれば
ノンストップで
という表現も間違ってはいまい
ボクは可能な限り全力で移動していた。
そして今
ボクの足は止まっていた
ひたすら前に進み続けていたボクが
その歩みを止めるなど一体何事か?
それは——
「……なんだいこれ」
超えるはずだった山が
跡形もなく、根こそぎ吹き飛び
巨大なクレーターと化していたからだった。
それはまるで
果てのない谷のよう
「何があったのかな?」
尋常な事態では無い
これほど大規模な破壊は
例え吸血種でも不可能だろう
山ひとつ消し飛ばすなんて
いくらボクでも不可能だ
本気の本気で力を奮っても
せいぜい六割を蒸発させる程度
山を丸ごと消したうえに
余りある範囲を焦土と化す
そんな真似は生物の所業ではない。
つまりこれは
なにかの兵器が使われた
そう考えるべきだろう。
大量破壊兵器
あるいはそれに準ずるもの
これが自然現象である訳が無い
一生命体が引き起こした
惨状ではないとすれば
もはや可能性はそれしかない。
では問題になってくるのは
なぜ?という部分だ
何故こんなことが起きたか?
そこを解決しないことには
全貌は見えてこないだろう
もっとも、全貌も何も
全て吹き飛んでしまったという線も
十分に考えられる話ではあるが。
「ふむ、見たところによると
一気に蒸発したという風だね
……真上からか
あるいは内部からか
とてつもない熱量の爆発が
巻き起こったと見て良いだろう」
新しい兵器の運用実験か?
それにしては範囲が広すぎるし
こんな山でやるメリットがない
では実験の失敗か?
どちらかというとそっちの線が
可能性としては濃いように感じるが
ボクの知る限りでは
ここの山にそんな危険な物を
取り扱っている施設があるとは
今まで、聞いたことが無かった
初めて通る場所でもないので
そんな重要施設の存在は有り得ない
有り得ないが、もし
それほど大きな物ではなく
危険度の低い施設だったら?
研究の為ではなく
隠れ家的な存在だったら?
目立った活動を見せない
徹底的に隠されたモノであれば
見逃していた、という可能性はある
ボクも全てを見通せる訳じゃない
いくら優秀な情報屋が味方と言っても
全知全能とは程遠いのだから
それくらいの穴があったとしても
何ら不思議なことでは無い
だと、すれば
「……攻撃を受けた?」
この山には何かの施設があり
そして何者かが山ごとその施設を
吹き飛ばしたのだとすれば?
ない話じゃないな
大袈裟すぎる様な気はするが
そこまでする必要がある程重要で
なおかつ隠されていたのだとすれば
ボクが見落とすという事も
十分に考えられる話になる
派手な活動は行っていないが
人間達からすれば重要で
ある者にとっては邪魔な存在
ボクの意識が引かれない
すなわち吸血殺しとは関係がなく
ここまで大規模な破壊を
引き起こす価値があるもの
それが何であるのか
断定するには情報が足りないが
とにかくその手の何かがここにあり
そして何者かの攻撃を受け
想定通りの結果なのかは不明だが
山ごとその何かを吹き飛ばした。
一応
そんな仮説を立ててみたが
まだあちこちに穴がある
筋が通ってるには通ってるが
これはまだ妄想の域を出ない話だ
論理的な思考を元に
組み上げたひとつの可能性として
頭の隅に置いておく程度に留めておこう
ここから更に新たな
新事実が出てくるかもしれないし
このまま何も起きないかもしれない。
「……いったん歩みを止めようか
ここで急ぐのは得策でない気がする」
目の前の問題を放置して
当初の目的を優先するのは
どうにも気が進まなかった。
もう少しだけでも
探りを入れるべきであると
ボクの勘がそう告げている。
「ひとまずは、この
バカでかいクレーターの中心地を
調べてみるとしようじゃないか」
ボクはそう決めると
ひょいっと体を投げ出して
クレーターへと飛び込むのだった。
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
結論から言って
調査の結果
やはりこのクレーターは
人工的なものであると分かった。
鉄の匂いがした
それと化学薬品の香りと
人間が溶けた痕を見つけた
どうやら攻撃を受けた
というボクの立てた仮説は
概ね正しいようであった。
吹き飛ばされたのが何か
までは探る事は出来なかったが
とにかく
人間が人間の標的になった
その事実の確認は行えた。
後はこれが
内部で起きた争いの結果なのか
外部からの攻撃なのか、だが
ボクはそれはきっと
内部の争いだと思う
理由はある
まず、これ程までに
大袈裟な被害を巻き起こす兵器を
外部、つまり他国の人間が使えば
それは宣戦布告と捉えられて
全面戦争の火種になる可能性が高い
そんなリスクを犯してまで
潰しておきたかった施設
と言われればそれまでだが
正直それほどに重要なモノなら
さすがにボクが知らないはずがない
故にこれは内部の
複雑に絡み合った関係性の中の
反発し合う勢力の矢印が生んだ結果
と、ボクは考える
人間達にとって
1番怖いものはいつだって
敵ではなく味方なのだから
それに
もし仮に誰かが
隠蔽あるいは情報操作
カバーストーリーの流出を計るとすれば
それはやはり内部からの方が
効果的に行えるというもの
揉み消す事は出来なくても
事実をすり替える事は可能だ
そういう備えがあるとすれば
多少強引で規模が大きくとも
邪魔者を確実に出来るなら
愚かな下策とも言いきれない
その人物にとって
個人か集団かは別として
余程に目障りな存在が
この山にあったのだろう
それこそ
丸ごと消し飛ばしたい程に。
もし、そうだとすれば
この爆発が巻き起こったのは
どうも最近のことらしい
まだ地面が暖かいままだ
……で、あるならば
判断と行動は一瞬で済ませた
ボクは素早くクレーターを這い出て
近くの地面に穴を掘って自ら埋まり
そして外から分からぬように偽装した。
ボクの見立てが正しければ
ここにはもう間もなく
証拠隠滅、および
状況確認の為の部隊が
到着するはずだ。
待ち伏せさせてもらおう
タイムリミットは明日の
日の出前までと定める
その間ボクは土の下で
静かに気配を殺して
耳を澄ませていよう
地面を踏みしめる何者かの
足音を、この耳に捉えるまで
ただひたすらに大人しくしていよう。
ボクはそれっきり
意識のスイッチを切り
探知にのみ集中するのだった。
✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱ ✱✱✱✱
——聞こえた
この耳に
自然ならざる音が届いたのは
ボクが土の中に身を隠してから
およそ三十分が過ぎた頃だった
沢山の足音が鳴っていた
それらは物凄い速度で
こちらへ向かってきている
非常に統率の取れた気配だ
呼吸音からして相当な手練
歩幅も常に一定で
乱れを感じさせない
感情というものが伝わってこない
ひたすら冷淡で無機質
命令に従うだけの機械の用だ
正規の部隊などでは無さそうだ
どちらかというと
影に生きる者達だろう
薄汚い裏の仕事を請け負う存在
ボクはそう睨んでいた。
足音は
僕が隠れている場所のすぐ近く
つまりはクレーターの前で止まった。
会話は無い
ただ衣擦れの音がして
……おそらくは
ハンドサインを使用しているのだろうが
とにかく嘘のように静かなままだった。
盗み聞きは望めなそうだ
ここに居ても得られる情報は
どうやら無さそうだ
しかし
ここで出ていって
彼らを全滅させたとして
情報は得られるかも知れないが
この部隊を放った者には
異常事態が起きたと悟られる
結果、自体が予想外の方向へ
ぶっ飛んでいく可能性がある
ここは下手に手を出すべきではない。
足音と気配の質を覚えておこう
いずれ何かの役に立つかもしれない
あとは人数を把握して
可能な限り個人の気配を記憶しておく
街ですれ違ったりした時に
それと分かるぐらいの精度でだ。
集中
集中
いつでも思い出せるように
記憶回路の中に置いておく
……これで大丈夫だろう。
彼らがしている作業を
ここからじゃ判断出来ないが
隠蔽工作である事は想像に難くない。
言わば自作自演
言い訳のための準備だ
工作は徹底的に行われるだろう。
彼らを尾行する手もあるが
人間の足に合わせては
膨大な時間が掛かる上
危険性も高くなるし
無駄に時間を拘束されるのは
ボクとしては避けたい所だ
故に
事を終えたらしき
遠ざかっていく足音達を
追いかける真似はしなかった。
あくまでも隠れるのみ
ボクは最後まで隠密に徹した。
地面から抜けて
土をほろいながらボクは
彼らが何をしたのかを
その目で確認する事にした
そこで見たものは
「……なるほどね」
吸血種が居た
と思えるような痕跡が
至る所に工作された光景だった。
血の力の名残
もちろん偽物なので
リンドから貰った装備のように
何も感じることは無いが
知識がある者ならば
騙せるだけの偽の証拠だった。
クレーターに刻まれた爪の跡や
ばらまかれた上で蒸発させられた
ホンモノの人間の血の跡
なるほど彼らは
自分たちの行いをそっくりそのまま
ボクの仕業として擦り付ける気らしい
巧い手だと感心する
なにより異論を唱えられても
それを証明する術が存在しない
僕か証言台に立って
事実を述べでもしない限りは
吸血種に関する知識と技術を持った機関が
もちろんそれも
息のかかった勢力だろうが
確たる証拠を提示すれば
それはもう信じる他ない
追求の手を逃れる
非常に有効な逃げ道
違和感があったとして
それを言及したとしても
最後の攻め手を打てない
後はこの件の首謀者達は
のらりくらりと追求を躱して
論点をずらし
話を逸らして時間を稼ぎ
やがては全てを有耶無耶にして
望んだ方向へと
話の流れを誘導する。
「……出来なくはないな
理論的には可能な手法だ」
もちろん想像でしかないが
可能性としてありえなくはない
であれば
有効な仮説として
覚えておく価値はあろう
「どうも人間たちの世界で
大きな事が起きている気配があるね
それも、ついでに探るとしようかな」
そしてボクは
止めていた足を再び動かし
まだ残っている旅路を終えるべく
移動を再開するのだった……。
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