白光

 わたしが好きになったのは、

『海が青いのは空の青を写し取っているからだ』と言うくせに、

『空が青い理由? そんなの光の散乱現象の所為に決まっているだろ』なんて言い切ってしまうロマンティストなんだか理屈屋なんだかよく分からない人だった。

 だけど。

 そもそも思い返せば最初の出会いからして奇妙なものだったのだからそんなものなのかもしれない。


「ちょっと待って!!」

「ん? ああ。これからよろしく」

「え、あ、こちらこそ……じゃなくて! なんで勝手に決めちゃうのよ」

「何を?」

「何をって……。HRでなんで司会をしてただけのわたしと君がクラス委員までやるって話になっているのかって事!」

「それか。あのままだといつまで経っても終わらなかったろ。今日は見たい番組があるから早く帰りたかったんだ」

「……なにそれ。クラス委員になった方が余計早く帰れなくなるじゃない」

「ま、そん時はそん時だな。それに、あんた世話焼くの嫌いじゃないだろ?」

「そりゃあ、そうだけど。って、こら帰るなってば」


 こんな風にして初めて会話をして。

 いつしか、互いに言いたい事を言い合い、言葉の間で踊っていた。


「月の満ち欠けって、なんだか人の一生みたいだね」

「なんだ、いきなり」

「ん? 月と太陽どっちが好き? っていう話。わたしは、だから月が好きなんだけど」

「ふーん。俺はお日さんの方が好きだけどなぁ。あれがあるお陰で地球は南極にならんですんでる。月なんざ、太陽の鏡だろ」

「あ~~、そんな事言う? この裏切り者ぉ~」

「オイオイ、なんでそうなるよ」


 そんな当たり前の日々がどれだけ貴重で輝いていたのかと、擦り抜けて行った今となってようやく思う。失いたくないと……。

 最早叶わないというのに、それでも。


 十八の年にわたしは世界と切り離された。何が起きたのか未だに分からない。ただ、それからずっと暗闇に包まれた場所に一人でいる。

 時間の流れも曖昧で、どれだけ一人でいたのかさえ分からなくなっているけれど、孤独は確かにわたしの心を蝕み続ける。

 目を閉じてしまえ。諦めろ。楽になれ。

 囁き続ける甘美な誘惑に、諦観に傾いてしまわないのは、きっと。時折見える光景の所為。


 わたしが好きだった月の白い光に映し出されるのは、彼の姿。

 重ねた時間を年輪として刻み込み、どこか悲しげな表情で……。

 だけど、伝わってくるのは、いつか必ず、という現実を見据え、それでもなお嘯いてみせるわたしが好きな彼の強い想い。


 だから、わたしも諦めないでいたいと思う。

 たとえわたしには何も出来ないのだとしても、いつか必ず彼の微笑む姿を見たいと思うから。

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