第12話 何も起こらないはずもなく


 巨大な熊は、倒れ伏してだくだくと首から血を流す。

 大きく痙攣したかと思うと、動かなくなった。


「これで、いいのか?」


 動かなくなった熊の首からずるり、剣をノアは引き抜く。金色は何も映さない。


「えぇ、多分これで良いと思うわ。この遺体を運ぶのを近隣の村に頼まないと」


「確かにこの大きさは俺たち二人ではさすがに運べないな」


 ノアは、ぶん、と剣から血を振り払う。かなり出血があったはずだが、ほとんど返り血を浴びていない様子にロザリーは驚く。


 剣の腕前が帝国一二を争うのは伊達ではないようだった。


「馬は……」


 手綱を手放してしまったことを思い出し、ロザリーは少し焦る。

 が、ノアがぴゅぃと指で笛を吹くとどこからともなく馬の駆けてくる音が聞こえてきた。


「コイツらは不慮の場合を想定して訓練してあるんだ。こんなふうにな」


「すごいわね……」


 ノアが戻ってきた二頭のたてがみを撫でてやると気持ちよさそうに顔を寄せた。


「ほら」


 ノアはそう言って手綱をひとつロザリーに渡した。


「ありがと、帰りましょ」


 ロザリーが言った瞬間轟音と雷鳴が鳴り響いた。


「ッ!?」


 あまりの音と光にロザリーはその場にうずくまりそうになる。けれど、騎士としてのプライドでなんとか耐える。


「やばいな」


  ノアが空を見て焦り出す。ゴロゴロと急に雷がなり始め、湿った風が吹く。


「この辺りに、狩猟用の山小屋があったはず」


 ノアが地図を広げ、山小屋を探す。

 地図とは言っても大きな物ではなく小さな地図だ。


 二人は馬にまたがり、山小屋を探す。


 途中、ざぁざぁと、激しい雨に打たれる。


「ロザリー、大丈夫か?」


  ノアが先導しながら大きな声でロザリーに向かって叫ぶ。


 「今のところは大丈夫!」


  ロザリーもノアに聞こえるように大きな声で言う。


 雨は、止むどころか激しさを増していく。


 「あった!あれだ!」


 降りしきる雨の中、やっと狩猟用の山小屋を見つけた。ロザリーは、一息つけることに安心する。このままびしょびしょでいるのも辛い。


「馬小屋……まではいかないけれど馬を休ませる場所もあるみたいね」


 雷がなり、雨が降りしきる中、何とか一安心する。

 馬も、休ませてあげられることにロザリーはほっとする。


「ありがとうね」


 馬から降り、屋根のある場所へ繋ぐとロザリーは言う。

 馬も、「ブルル」とひと鳴きしてロザリーに鼻頭を擦り付けた。


「びしょびしょだ」


「服、乾かせるかしら。流石に変えは持ってきてないし」


 山小屋の中はそれなりに片付いており、埃っぽくもなかった。

 たまに掃除をしているのだろう。


 暖炉と薪もあるようで服の方も何とかなりそうだった。


「ノア、タオルどこにあるかしら」


「タオルならそこにあるんじゃないか?」


「そこってどこよ」


  ロザリーが、ノアの方を振り向くと上半身裸になったノアがいた。


 

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