第48話 燃え上がれ、団結の力!
――ごぅん、とそこで何度目か鐘が鳴った……
自らの覚醒していられるたった五分のリミットを削り、ヨドミは勝負に出る。覚醒中にさらにと特製油揚げを頬張る事で、内なる力をたった
「儂からのタイマンの申し出を断ったのはおぬしじゃぞ、モジャモジャ?」
「は……?」
「あれがおぬしに与えた最後の好機であったと知れ!」
油揚げを頬張ったヨドミの妖力が拡散し、三本だった尾が四本にまで増えていくのを覚は目撃する――
もう目前と覚の頭上に落下して来ながら、ヨドミはその手をパンと胸の前で打ち合わせて、生え揃った尾をしゃりしゃりと鈴の様に打ち鳴らした。
「見せ掛けだ……お前自身に何の力の変化も感じられない。私の前では全てが筒抜けなのだ……このまま私の剛脚で沈めてやる!」
「心が読めるからなんだと言う覚よ。儂は……儂
「ハリボテの集団だと……?」
「――“団結の力”!」
ヨドミの目が光り、不穏な空気がその場に満ちる。だがしかし、無防備なままのヨドミは蹴りの間合いに落下していくだけであった。もう間も無く射程に入るその存在の何が変化したのか、“覚醒ぶ〜すと”という得体の知れない技の正体を知る事も無く、全ての騒動に決着が付くのだろうと覚は確信する。
「終わりだ狐め……」
――遂にその剛脚が蹴り放たれる。軌道は間違い無くヨドミの顔面に迫り、コンマの猶予の後に炸裂するのだと……そう思われた!
「――っつがあっア??!! なんだ、何が起きた??!」
声を上げていたのは覚であった。頭上を見上げていたその横っ面に、彼でさえもが反応を遅らせる超高速の
よろめいた覚が、難無く地に足を着いたヨドミの手前に見るは、見る影もない位に妖力を飛躍させた河童が四股を踏む姿であった。グビリと頭の皿の力水を飲んだ河童は、ヨドミと同じく瞳に蒼の炎を灯らせて、凄まじい張り手の百連発を繰り出した。
「カパパパパパパァア!! “恨み節百連発”やツパァア!!!」
「ぐぁあ! ううぐ、思考が読めても避けきれな……なんだ、何が起きて――?! まさか“団結の力”と言うのは――!」
ギリギリで後退しながら張り手を凌ぎ、必死の形相をする覚の足が何かを踏んでずるりと滑る――
「うアアッッ!?」
「“小豆トラップ”シャカカァアアアア! 小豆に心は無いから読めなかったシャキ? いまシャク枕返し!!!」
「おおーーー!!!」
ひっくり返った覚を見下しながら小豆洗いが言うと、枕返しの体が強く発光して妖力が解放された。すると仰向けになった覚の体がグルグルと回転して浮き上がり、地に叩き付けられた――
「どうだ気持ち悪いだろう覚! 枕返しの能力は寝ている者の足と頭を反転させる力だシャカ! それを超高速で繰り返せばこういう事にになるんだシャキ、思い知れ!!」
「うお、ぅおお!!」
「もうワイらの事を『無意味三人衆』だなんて誰にも言わせへんでえ!!!」
目眩を覚えて覚は口元を抑えた。覚は彼らの瞳もまた蒼く燃え上がっている事に気付き、ヨドミの解放した“団結の力”の脅威的能力を悟る。
「……まさか……仲間の力を引き上げている、のかッ!? ――だが仲間なら私にも……!」
「…………」
「何を黙りこけている!! 数ならまだこちらが勝っている筈だ、さっさといけ! 怖気付いたとでも言うならお前ら全員酷い目に合わせてやるぞ!!」
――しかし、待てと暮らせど覚の声に応じる者は現れない。驚いた彼が振り返ると、そこには
「美しき旋律を奏でられるのは、奏者の心が一つに折り重なったその時……」
(ヨドミちゃんに合ってキミに無いモノ。それが何かにもう気付いているんだろう?)
「黙れ……黙れ百目鬼っ!!」
いつしか周囲を『六年い組』と『百目鬼組』無所属妖怪たちに埋め尽くされている事に気が付いた覚。後方には未だ多くの組員の姿が控えているが、彼らは睨む様に覚を見つめるだけで動き出さない。
それでも未だ負けを認められずにいる覚は、土煙の向こうに佇んだヨドミを見上げながら、情けの無い姿勢のまま彼女の声を聞く。
「おぬしはその背に仲間を引き連れているのでは無い。ただ無理矢理に首猫掴んで引きずってきただけじゃ。それを仲間などとは呼ばん! そこには忠義も尊敬も何も無い、ただ恐怖と支配があるだけの
「……っ。うるさい、うるさい!! 妖怪の世界は力が全てだ……! この学校で一番強いのは私だぞッ!!」
全身を膨張させながら、涙を流して立ち上がってきた覚。彼はうわ言のように「お父さんに怒られる、このままじゃお父さんに」と繰り返していた。脅威的な妖力を解放し暴走したかのような覚の猛攻は凄まじかった――だが、激しく走り込んできた彼を巨大な鉄球が横殴りにして吹き飛ばしていた――
「ア、ア――っ?! 次は……なん――っ」
「姉さんに話しがあるんなら、『狐組』一の舎弟の僕の所通して貰わんと困るでぇ」
「豆……狸!!」
それは空間に現れた豆狸のきん○まであった。余りに巨大過ぎるその鉄球の意志など読めようも無く、覚は無防備なままその一撃を食らって血を吐いた。
しかし彼もまた黒縄小学校番長である。負け時と気迫で対抗しながら、空にぶら下がるその鉄球を怪力で弾き返していた――
「この……程度で!! 狸が!!」
「何言うてんねん……」
「あ……」
空に浮かび上がる豆狸の面相にその心を読み取った覚は、必死の防御体制をとる――
刹那の間も無く
「きん○まったら二つあるに決まってますがな、嫌だなぁ覚くん、そんな事も忘れたんかいな……ヒャアッハッハハ!!」
「ぐ…………っあ……」
勝負あったと思われて、その場で少しの声援が上がるが、ヨドミは手でそれを制した。地に倒れ伏した覚が、未だモゾモゾ執念深く立ちあがろうとしている事に気付いていたのである。
「お父さ……に……このままじゃ……おとう……怒ら――」
「……そうか、おぬしもまた支配されていたんじゃな」
――だがそこで、急転直下の超展開で巻き起こる。
どう考えても勝敗の決したこの場にて、突如と響き込んできた
「見ていましたよ覚……何という体たらくでしょうか。同じ一族として情けが無い」
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