第41話 カースト最低種族“人間”の可能性


 何やら閃いた様子のヨドミはそれから、自分の素性は無論、居間に集った五人の赤裸々な話しを聞き出していった。

 彼らの持つ力、苦手な事、好きな食べ物、得意なこと、その考え方、生い立ちに到るまで、ヨドミはその人となりを洗いざらい全て聞き出していった。


「意外じゃった……互いの事をよう知っとると思い込んどったがその実、儂らはこんなにも相手の事を知らなんだとは」


 長い問答の後、外はもう夜になっていた。コタツの上では大五郎のこしらえて来たキムチ鍋がぐつぐつ煮えていて、皆がそれをつつきながらヨドミの話しを聞いている。いま冷静に俯瞰ふかんしてみても、この面子で同じ釜の飯を食う事など誰が予想出来ただろうか。


「こ、この鍋辛いッパぁぁ!! ヒィィィ!!」

「小豆を入れるジャラ……それそれ」

「確かに今日のは大分辛いな爺!」

「ヵ……ラ……!」

「僕子どもだから豆腐しか食べられへん!」

「え、みんな何言ってるの、全然辛くないよ〜?」


 一人パクパクと箸を進めていくヨシノリくん。そんな彼を見つめながら、ヨドミは嘆息した。


「皆の個性は大体分かった。全てがうまくいけば、他人の心を読み透かして来るあのさとりに一泡吹かせられるかも知れん」

「ええっ、そうなの? やっぱりすごいねヨドミちゃーん!」

「問題はお前ジャラ、ヨシノリ」

「え、ぼく〜? ハフハフ……」

「僕も思っとったけど、オカッパくんの長所が全然見えへんねんな」

「ヨシノリは短所の塊の様な男や! 足手まといやからこいつはクビにした方がええでヨドミ!」

「そ、そんな〜、ヨドミちゃ〜ん……ハフハフ」


 ヨドミもまた考え込んでいた。互いのことをここまで長く話し合い、大体の者の長所や特技が見えて来た……しかし、どう考えても究極の幸薄男、不幸を呼び寄せるトラブルメーカーの彼の長所が見えて来ないのだ。

 仕様がないのでヨドミは正直に白状する。


「ヨシノリ……おぬしには申し訳ないが、このままでは河童の言う通り、おぬしだけここに置いて儂らは決戦に出向く事になるやもしれん」

「ええーーやだよー!!」

「……悪いがやはり“人間”のおぬしでは危険なだけじゃ」


 ヨドミが瞼を伏せていくと、大五郎が鍋にさらにとキムチを追加していきながら耳に囁く。


「お嬢様、時にお母様の話しを致しましょうか」

「なんじゃ爺、唐突に……あとにせい」

「いいえ、今だからこそ話させて下さい。これはヨドミお嬢様のお母様のみならず、“人間”のお父様にまつわるお話しでもあります」

「お父ちゃんの?」


 いつもは母の話しばかりであるのに、珍しく父の事を話すという大五郎に興味が湧いた。ヨドミにとって父の認識は、か弱いながらもひたすらに優しい男といった風で、ヨドミも父の事が大好きであった。……けれどカースト最底辺の“人間”である父の事を、ヨドミは何処か後ろめたくも思っていたのだ。


「話してみろ爺」


 ヨシノリくん以外の者に顰蹙ひんしゅくの目を向けられたまま、大五郎は鍋をかき混ぜながら語り始める。


「ヨドミお嬢様のお父様は知っての通り“人間”です……対してお母様は妖怪カースト最上位の“九尾の妖狐”でした。さて、そこで質問ですが、天と地ほどの種族の差があるお二人。因果な事に、幾度も非公式でのタイマンを重ねて来たお二人ですが、その戦歴はどのような結果になったとお思いですか?」


 馬鹿にしとるのか、といった具合に肩をすくめた一同。答えだすのも阿呆らしく思ったか、誰も大五郎の問いに答えないでいたが、ジジイが目で急かして来るのでしょうがなく小豆洗いが答える。


「そんなの九尾の妖狐の全勝に決まってるジャラ。九尾の妖狐といえば魔界で一番恐れられている大妖怪シャカ」

「待てや小豆洗い。わざわざ質問して来るっちゅう事はな、一回くらい奇跡的に負けた事があって、大五郎先生はその勝利に対する教訓めいた話しをしたいんや、空気読めやッパ」

「残念不正解です。戦績は二十勝一敗でお父様の圧勝です」

「「「は――――?!!」」」

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