第40話 “れじすたんす”の会合


「どういう事じゃ大五郎! なんで儂がこんな奴らと手を組まねばならんのだ!!」

「黙らんかいなダサ狐! そんなのこっちからも願い下げだッパ!!」

「大体わしらは上手い話しがあるって大五郎先生に言われてここに来ただけだシャカ」

「んぼ……!」

「どうしてそんな事言うのヨドミちゃん、みんなで仲良く『狐組』をやればいいじゃない」

「何言うてんねん姉さん。こうなったらポンと姉さんは一蓮托生の仲やがな〜、また仲良うやりましょう、ね? ね?」


 全くもって統一性の無い六人が言い争っている。とそこに大五郎が茶を持って来た。


「おやおや……兎にも角にも落ち着きましょう。ほら、温かいうちに」


 大五郎に言われ、彼らは渋々と巨大な居間のコタツに潜り込んだ。湯気の上がった湯呑みを支え、全員でホッと息を吐く。


「言い争っても仕方が無いでしょう。ほら、アナタたちは全員黒縄小学校のあぶれ者。ほぼ統一のなった黒縄小学校に置ける僅かな反対勢力なのですから、同じ“れじすたんす”としてここは仲良く出来ないものですか?」


 その場き一人立ち尽くした形の執事へと、声を荒ぶったのは河童である。


「だっ、誰が同じレジスタンスや! 豆狸くんとヨシノリはともかく、ワイらはヨドミに同情して一緒にす巻きになったんちゃうッパァ!」

「おや、そうだったのですか? ではどうして」

「わしらは土蜘蛛に反発した件が原因で破門にされたんだジャラよ。もう『覚組』の敷居はまたげないシャカ」

「……ではそうなる事がわかっていながら、どうしてあなた方は土蜘蛛に反発したのですか?」

「それはあの時言ったッパ! 土蜘蛛なんかが勝つ位なら、ヨドミの方に勝って貰った方がまだ――!」


 もじもじと指先を合わせながら、ヨドミは照れ臭そうに河童を見上げて言う。


「えへへ、おい河童ぁ、何だかこそばゆいぞ。散々儂の事を愚弄して置きながら、実は儂に一目置いておったとは……」

「カッツパァアアアア!!?? 違うっパァ、ワイは別にお前の事なんて!!」

「まぁまあカッパくん、こうなったらヨドミと協力して賭けに出た方が良いシャカ」

「ん……」

「枕返しも、駄目で元々って言ってるシャキよ」

 

 顔を真っ赤にした河童が暴れ回ろうとするのを、枕返しが羽交い締めにしてなだめていた。


「僕は姉さんに一生ついて行くで〜、姉さんとおるとほんま楽しいし、僕もどの道『覚組』には戻られへんからな。どうせひもじい思いをして隅っこで生きていくんなら、姉さんと一緒に花火の様にパッと弾けて消える方がマシに思うわ」

「口先だけは調子ええのうポン」

「えへ、えへへ……この前の事は堪忍やで。でも散々僕のきん○まつねくって報復したやろ? いい加減チャラにしてくれてもええんと違うかな?」

「……ふん」


 渋々と了承したヨドミが頷くと、机の上の煎餅をバリバリと食べ散らかしながらヨシノリくんが話し始めた。


「僕はヨドミちゃんを裏切らないって前に言ったよね! みんなが居なくなっちゃって少し寂しいけれど、僕はやっと『狐組』に入れて嬉しいんだ! これから一緒に大勝負だね、頑張ろうねヨドミちゃん!」

「はぁ? 誰がおぬしなんぞ……」


 言い掛けたヨドミだったが、その場に会した皆の視線に諭されて、選り好みしている立場では無いと思い直す。


「だって『狐組』なんかの一員になったらヨシノリの身にまた危険が……ん? というかおぬしら、さっきからなんなんじゃ? 賭けやら、弾けて消えるやら、大勝負などと物騒な事ばかり……?」


 ヨドミが顔を上げると、皆にポカンとした顔で見つめられている事に気付く。


「なっ、なんじゃ!?」

「そりゃこっちのセリフやで姉さん! 今の『覚組』の天下をひっくり返すごっつえげつない策があるっちゅうから僕たちここまで来たんや??」

「どういう事だッパヨドミィいい!! やっぱりワイらを騙したんかッパ!!」


 ものすごい剣幕で糾弾されて、ヨドミは大五郎を横目に見た。するとジジイが白々しく口笛を吹いている。


「おのれ……このジジイ、また無理難題を儂に……」

「どうしたのヨドミちゃん?」


 しばし考え込んだヨドミであったが、結局両手を振り上げながら机に突っ伏した。


「やっぱ無理じゃろー!!」

「なんやワレェエエ!!!?」

「アズキィイイ!!」

「……ん!」


 “小豆散弾あずきショットガン”を後頭部に引っ掛けられたヨドミであったが、されるがままで。抵抗する余力はもう無かった。観念したように間伸びした声でヨドミは脱力する。


「だって考えてもみろ。覚は人の心を読み解いてしまうから、奇襲や対面では絶対に敵わん。さらには百目鬼が学校中を監視している。挙げ句の果ては学校中の九割九部の生徒が『覚組』に吸収されてしまった。残された反対勢力はこの場に居る六人のみ。勝ちの目など無い、奴らの布陣は完璧じゃ」


 ヨドミの言葉に皆も唸るしか出来ないでいる。まるでお通夜の様になってきた雰囲気に辟易へきえきした大五郎は、額のしわを指で伸ばしながら嘘っぽい声を出した。


「本当ですねーー。みんななんて脅威的な“”をお持ちなんでしょう」


 腕を組んだヨドミが大五郎の言葉に頷いていく。


「そうじゃそうじゃ、覚と百目鬼の個性は本当に恐ろしい……それに比べてこちらのあやかしたちと来たら、人間ときん○ま野郎に無意味な三人衆……」

「はぁあ!! お前もあの“狐火”とかいう能力以外雑魚やんけ!! やんのかヨドミぃい!!」

「なんじゃ四股しか踏めん緑野郎ぉお!!」


 ヨドミと河童が取っ組み合おうとしたその時、ヨシノリくんは空気も読まずにけらけらと笑いながら言った。


「どっちもすごい長所だよ。僕にはどっちも出来ないから凄いって思うよ〜」

「長所? ……ちょっと待てよ」


 おっ始めようとした喧嘩を切り上げ、顎に手をやったヨドミ。どうやら何かを思案しているらしい彼女の顔を、ポンは下から覗き込む。

 

「どないしたんや姉さん、何か考え付いたんかいな?」

「個性……特徴……? 長所……」


 ヨドミはいつか大五郎より伝え聞いた、偉大なる大妖怪“九尾の妖狐”の母の言葉を思い出すのだった。


「……

 

 人知れず強張っていた肩を下ろしていた大五郎は、微かにその口角を上げて頬に刻まれたほうれい線を深くしていた。


「ようやくお気付きになられました様で……」


 大五郎の呟きは、狐の放つ熱気にかき消された。そうして机に手を着き身を乗り出したヨドミは、皆の顔を見渡していく大五郎


「皆のもの、近う寄れ! もしかしたらもしかするかも知れん!!」

「どうしたジャラ」

「ん……!」

「なんやねんねあれやこれや言いおってぇ、いてこますぞカッパぁあ!!」

「どしたんや姉さん、そんな剣幕で」

「ヨドミちゃん?」


 尋常ならざる様相で、しばしと息を整えていったヨドミは、鼻の穴をぷくりと膨らませながら告げる。


「おぬしたちの事をもっと聞かせよ! 長所も短所も全部ひっくるめて!!」

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