第20話 渡りに船……?


 八方塞がりのこの闇に、しるべの光が差したかの様な提案がアクサラの口から語られる。


「私は百目鬼どうめきくんに言われてアナタたちの力を試していたの。そこの人間を本気でどうにかする気はなかったわ」


 ……だとするのならあまりにもムゴいリターンをくらった事になるアクサラは、しくしく泣きながら焼き焦がされたアフロヘアーを撫でる。


「待て待て! 話しがうま過ぎるでキツネの姉さん。このアクサラは僕らを騙そうとしてんねん。僕も嘘吐きやからわかるんや、これは非道の顔や」

「うぅむ確かにのぅ……しかしおぬし、自分で言ってて悲しくならんのか」


 顎に手をやったヨドミであるが、確かに豆狸の言うようにこの話しはあまりに調子が良すぎると考えた。黒縄こくじょう小学校の第二勢力。生徒の三割を掌握するあの『百目鬼組』が、組員二名の『狐組』などという第三勢力に対し、傘下に加えて欲しいなど……


「おいアフロ。その話しに相違は無いのか? もう一度聞くが、儂らの傘下に『百目鬼組』が入りたいと言っておるのだな?」

「そうよ。百目鬼くんの家は過去の因縁によって九尾の妖狐を畏怖しているって聞いたわ。ご先祖様は何をされたのでしょうね、知らないけれど、とにかくその異常なまでの畏敬の念がそうさせるのかも知れない」


 アクサラの額を拳でぐりぐりやったヨドミは言う。


「ふん、口先ばかりでそれっぽい事を言いおって、そんな話しが信じられるか、儂もそこまで馬鹿という訳ではないぞ。その様に荒唐無稽な話しを信じて欲しくば、その百目鬼とやらの顔を見せろと伝えるのじゃ!」

「私はさっき言ったわ、アナタたちの力を試していたと。それは百目鬼くんの指示でやったのよ……百目鬼くんが、この場を見ていないだなんて思う?」

「はぁ??」


 ヨドミがバカっぽい声を上げると、ヨシノリくんの部屋の四方八方に余す所なく、のだった。


「うぎゃアアアー!! 何じゃああ」

「ぽぽぽぽォオン!!?」

「うわー! 僕んちどうなっちゃったの!」


 この場において一人落ち着き払っている大五郎は、縁の無い眼鏡を直しながら百目鬼というあやかしについて語り始める。


「“百目鬼どうめき”……そのあやかしは全身に百の目を持つ緑の鬼。白雪家と同じく由緒ある家系ですが、確かにその昔、百目鬼家と我が白雪家には因縁があった。……その結果、お母様は一度百目鬼家を破滅寸前にまで追いやりました」


 やがて部屋中に開いていた瞳が閉じると、ヨドミたちの前にはナンバーツー勢力のトップ、百目鬼が立っていた。一見すると彼は、白髪細身の切長の目をした美少年である。けれど彼の全身にて開眼された瞳が一斉にヨドミを見つめて震え上がらせた。無数に覗いた漆黒の虹彩……冷酷を思わせる冷たい雰囲気……これぞ黒縄小学校のナンバーツー。だがしかし、そんな異様な存在より放たれて来た第一声は――気が抜ける位のだった。


「時を越えて、いま出逢えた因果に乾杯」

(初めまして百目鬼です。白雪家の方にこうして出会えた事には、やはり何かしらの因果を感じる次第です。兎にも角にもいまお聞きになられた次第で御座いますので、何卒宜しく申し上げます)


 奇怪なポーズで決めながら流し目をした百目鬼に、ヨドミはこれ以上無い位に眉を下げた。

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