第19話 兵隊が足りんぞ!


「よーよーよー、随分迫真の演技だったではないか、チビりそうじゃったぞアクロバティック……ん、今はもうその名はふさわしく無いかのう」

「ひぃやぁはははあっ!! キツネの姉さん、自分でお仕置きしといてそりゃ無いで! 確かにコイツはもうアクロバティックサラサラならぬ、アクロバティックやけどー!」


 ヨドミの“狐火”により、自慢の長髪を丸焦げアフロへと変えられたアクサラは、ヨシノリくんの部屋で正座を強要されている所だった。


「ひぃ、こ……このあくまぁ! 私の自慢のチャームポイントを……こんなっ、私も女の子なんだぞぉ」

「黙れ小娘! ヨシノリを虐めようとするからじゃ」

「ヨドミちゃん……やっぱり僕を助けてくれたんだね!」


 キラキラした熱い眼差しを背後に感じたヨドミであったが、小っ恥ずかしそうに何も聞こえないフリをして口先を尖らせる。


「ありがとうねヨドミちゃん。僕のこと『狐組』の一員として認めてくれるって事だよね? 嬉しいなぁ」

「はぁ?! ふざけるで無いぞヨシノリ! おぬしのような弱々で不幸体質の人間を組の一員になど出来るかー!」

「そんな〜、ねぇお願いヨドミちゃん」


 す巻きにされたままの翡翠色の潤んだ瞳に見上げられてヨドミの胸中は揺れたが、そこは頑として首を縦には振らなかった。

 そこで口を挟んだのは、当たり前の様な顔をしてヨシノリくんちの押し入れから出て来た大五郎であった。


「ですが全校生徒に宣戦布告してしまったお嬢様は、今後もこの様な怪異たちに見舞われ続けるでしょう。今回の所は運良く……を守れた様ですが」

「た!! たたた、大切などとはどういう事じゃ! 儂はヨシノリの様な塵芥ちりあくたの事などこれっぽちも――!」

「実際次からはどうなるかわかりません。『狐組』の発足は良いですが、組員があまりにも足りていないかと思います」

「わかっとるわ、じゃがヨシノリの様な雑魚を仲間に引き入れた所で何も良い事など無いじゃろう! というか儂が今こんな状況に陥っとるのは爺が儂の声を勝手に拡散したからじゃろうが!」


 ううむと全員で唸っていると、掠れた声で話し出す者がいた。


「あの……私は実はさっき言った通り“百目鬼どうめき”くんに言われてアナタたちの力を試していたの」

「はぁ、百目鬼? 力を試す? 何でじゃアフロ」


 するとアクロバティックサラサラは神妙な顔付きで答え始めるのだった。

 何の奇跡か、彼女の話した内容はまるで、ヨドミたちの今置かれた状況を打破するこれ以上にない甘言であった。


 ――もしその内容が全て、真実であったとするのならば。だが……


「ナンバーツー勢力の『百目鬼組』が、アナタの傘下に加わりたいと言っているわ」


 願ってもない申し出に、思わずパッと顔を明るくしていったヨドミと豆狸。しかしその背後で大五郎は一人、平坦な顔を崩す事は無かった。

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