第15話 爺、お友達とはこうして作るのか!
なんとなんと黒縄小学校最大勢力『覚組』のナンバースリー、舎弟頭の“豆狸”に大金星をあげてしまったヨドミ。
いま額を地面に擦り付けて必死に許しを乞うている豆狸――もとい“ポン”(ヨドミ命名)を腕を組んで見下ろしながら、ヨドミは任侠映画さながらの口振りでキレ散らかす。
「おいおいおい、何してくれとんじゃいポン! 貴様のばっちぃきん○まで、うら若き乙女をいなり寿司の如く包み込んでくれやがって、どう落とし前付けてくれるんじゃおおーん?!!」
「ヒィィ……堪忍やでキツネの姉さんっ」
「乙女の純情弄びおって! 大体なんじゃお前は、儂をきん○まの中に閉じ込めようとしとったんかボケ!」
「もう、言葉もありまへん!」
泣きながら懇願する豆狸の背後で、先程ヨドミを驚かし尽くした妖怪たちが気まずそうに肩身を寄せ合っていた。
「おいポン! それならおぬしは儂が良いと言うまでその姿勢を保っておれぇえ!! 動いたら殺すッ!」
「はいぃ~っ」
面目丸潰れの豆狸は、ヨドミに足蹴にされたまま四つん這いの姿勢で制止する。余程ヨドミの扱う“狐火”の火力が凄まじかったのか、それとも彼が炎に滅法弱いのか、ポンはヨドミに尻を蹴り上げられても背中に座られようとも一言も発しなかった。
「いいぞ〜ポン。そのまま座り心地の良い椅子になっておれば、許してやらんでもないかもしれんの〜?」
「……なんて屈辱や。舎弟頭の僕がこんな――」
「何か言ったかポン? ん? 椅子が喋るのか?」
「はいいぃっ」
三つも年下の狸をいたぶるヨドミ。しかしそこで五分のリミットを迎えたか、ヨドミの尾が元の一本となる。
その時を狙い澄ましていたかの様に、豆狸はニヤリと笑って背後の妖怪たちに合図を送った――
「今やー! 元の姿になった姉さんは“狐火”を使えん筈や、多勢に無勢でぶっ潰してやるんや!」
「なにーー!! ポンめ、謀ったな!!」
しかし哀れな体制の豆狸に命令された妖怪たちは、顔を見合わせて首を振るっていた。
「なんや、どないしたんやお前たち! はよやらんかいな!」
「いや……あの……豆狸さん……う、うしろ!」
「うしろて――っ」
ヨドミの背後――豆狸はそこに
ぶるぶる震えて一寸たりとも動き出せないでいる妖怪たちへと、大五郎は心の声で語り掛ける。
――豆狸くん……アナタは一度汚い手を使い、お嬢様との真っ向勝負に泥を塗った。
「はぅぁ……なんや、頭の中に、あの爺さんの声がっ」
――妖怪の世界は力が全て……だからこそ筋や仁義はきっちり通さなければなりません。
「アンタ一体何者なんや……こんなトンデモない妖気、こんなデタラメな――っ」
「いいかチビ共……その汚い手を二度も振り上げるならば、この大五郎が御相手する」
「っっ……!!」
「ヨドミお嬢様の、一の家来として」
この空を埋め尽くすかの如き超絶大なるスケールの妖気が、豆狸たちを圧倒して押し潰していた。唖然とする者、泡を吹く者、白目を剝いた者……そして豆狸はオシッコを漏らした。
「うわはぁぁあ〜!! 完敗や〜っ敵う訳あれへんやんか〜っ、わーーん!!」
大五郎が何をしたのかよくわかっていないヨドミは、なんかよーわからんけど大丈夫じゃった、と思ってヘラヘラしていた。
ヨドミに言われた通りの椅子に戻っていった豆狸は、従順な下僕に成り下がりながら澱みの顔色を窺う。
「キツネの姉さん……ほんで、僕は一体どうなるんかなぁ? へへ、あへへ……優しいしてくれたら嬉しいんやけど」
少し顔をうつむかせ、表情を影に隠したヨドミはこう言う。
「“すたーんどあっぷ”じゃ……」
「え――あ、はいっ!!」
言われて立ち上がった豆狸を睨み付け、ヨドミはその頭をしばいた。
「儂が良いと言うまでその姿勢でおれと言うたじゃろうがぁぁあ!!」
「ポーーンッ!! だって姉さん“立ち上がれ”って!」
「なんじゃ?! 儂は“恐怖はまだまだこれからだ”と言ったんじゃ。全く小三坊のガキは英語もわからんでいかんわぁ、なぁ爺!」
「左様で御座いますお嬢様」
混乱したポンへと、ヨドミは意地悪そうに顎を上げて見せる。
――そして次の瞬間、懐より出した拡声器を、大五郎はヨドミの口元に添えていた。
「“すたーんどあっぷ”……つまり貴様ら『覚組』は、これより儂に蹂躙されるという事じゃー! ワーッハッハー! ねーばぎーばあっぷ! ねーばぎーばあっぷ! 皆殺しじゃぁああ!!」
屋上より、全校生徒へ響き渡ったヨドミによる宣戦布告。妖怪たちはザワつき、大五郎はハンカチで目元を拭いながら手を打った。
「大五郎……貴様……なんて、事をしてくれたのじゃ……っ」
急速に我へと返ってギクリとしたヨドミ。完全に青くなりながら、だらだらと滝の汗を垂らす。
「終わった……だって儂はたった一人なんじゃ、こんな堂々と宣戦布告なんかしたあかつきには、何処を歩いてても袋叩きにされ――」
――そこでヨドミは思い至る。だが考えてみれば、そこまでが大五郎の策略であったのかもしれない、と思えなくも無かった。
「おいポン……おぬしは今日から、儂の
「ポーーーンッッ!!??」
「ワーッハッハッハー!! わかったぞ爺、友達とはこうして作れば良かったのだなー!」
首を傾げた大五郎であったが、ヨドミは執事のそんな仕草など見てもいなかった。
「お前はお友達第一号じゃ、わかったかポン!!」
「いやぁあ堪忍してぇええ!!」
……昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響く。
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