#5 雪の中の恋人たち
クリスマス翌朝の、登校日二日目。またしても補習授業がある。
雪舞う銀色の空の下、少し凍った雪をサクサクと踏みながら、美月さんと並んで歩く。
目に映る風景はいつもと同じだが、昨日を
高校に近づくにつれておのずと増えてゆく生徒たちの
美月さんの後ろには、月姫神社から
美月さんが、「そろそろ学校だから、帰りましょうね」と白魂をつつく。ミーと鳴いて月姫神社へ飛び去ってゆく白魂二匹。
「
「あの白いの、絶対お化けとか妖怪の
「
後ろからは、クラスの女子数名の話し声が聞こえる。
俺達二人のことが羨ましくて仕方がない様子だ。
一足先に行かせてもらうが、君達も幸せになれよ。
そんな俺に、頬を染め
「夏輝くん。そう言えば、私達今日は早く帰れませんよ」
「何かあったっけ」
「数学の期末テストが赤点の人は、放課後に補習があるそうです」
「そうだっけ」
「私、三角関数の意味が未だに分からなくて。どうしましょう。また先生に叱られてしまいます!」
「大丈夫。俺がなんとかしてあげるよ」
「ええっ、何とかなりますか? 本当に?」
「ああ。君のためなら何でもするよ」
「ですが、夏輝くんも赤点では」
「はは。そうだっけ。俺達、お
早朝の通学路、俺達の甘すぎる会話が
「ミヅキ。ナツキは昨日から何を言っても
「やはり
「さあね。お
美月さんとつづらが何やら話し込む中、俺は幸せの
⛩⛩⛩
十分後。登校してきた巴に、俺は
「どういうことだ。なぜお前が俺と同じマフラーをしているんだ」
巴の首には、深い海の色をしたマフラーが巻かれていた。Tのイニシャルが入っている。
「昨日みーちゃんが家に来て、風邪をひくなと僕の首に巻いてくるもんだからさぁ。しないわけにはいかないでしょ。ほら、あの子って時々お
そう言いながらも
マフラーの端を持ち、ひらひらと振ってみせる。俺相手に自慢して何が楽しいと言うんだ。
「俺の時は包装紙にくるまれていたのに、お前と来たら直接首に巻いてもらったと言うのか?」
「みーちゃん不器用だから。首絞められてさぁ、一瞬気を失いかけたよ。
許すまじ。そして幼馴染の二人が、心底羨ましい。
「くそ。俺も
危ない奴だな、正気か? と
──だが、事件はそれではおさまらなかった。
⛩⛩⛩
「俺と巴が
休み時間、
「うん。さっさと否定しちゃった方がいいと思うよー?」
「女子達が僕と
巴がだるそうに
俺と噂になる相手は、美月さんのはずだった。
なのに、どうして急にこいつが
「身に覚えなんてないのに。なんで巴と」
「だって、今朝から二人で仲良くお
「ぐっ……」
まさか、美月さんがプレゼントしてくれたあのマフラーが
ちょうどその時、
般若あかりがあきれ顔で腕組みをする。
「昨日、
「いや俺はトイレに吐きに……」
ダメだ。全てが
「バカだね。本当にバカだね」
リュックから顔を出したつづらの
「それにさ、さっきあっちで卜部と瀬戸くんの同人誌作るとかって騒いでたじゃん」
「もうやめて本当に」
「そうだったんですか。夏輝くんと巴くんの間に見えるご
美月さんが真剣な顔で頷いた。
そのご縁の糸とやらを全部ぶっちぎって
「美月さん。違う、誤解だ! 俺の好きな人はこいつなんかじゃ! そうだろ巴」
前を見ると、巴が赤面しながら髪をいじりつつ、俺から目を
「巴。何顔を赤らめてるんだよ! 誤解を招くから! そこはすかさず全否定しろよ!」
ふいに感じる視線。気づくと、クラス全員が俺と巴に注目していた。
──こうして、悪夢のクリスマスは幕を閉じた。
冬休み中だったのが不幸中の幸いだったと思うし、人の噂も七十五日とは言うが。
暫くの間、俺と巴がボーイズラブ大好き女子達を中心にクラスメート達の好奇の目にさらされていたのは言うまでもない。
イラスト『雪の中の恋人たち』
https://kakuyomu.jp/users/fullmoonkaguya/news/16817330658056116181
ミニ漫画を描いていただきました!
https://kakuyomu.jp/my/news/16817330663864402242
■第7.5章、完結です。最後までお読みいただきありがとうございました!
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