第76話 聖女の睡眠学習2

 ギャモーの剣を抜き、彼の手に握らせる。


「やっぱり剣が似合いますね。」


「今度は何をする気だ?」


 ミザリーさんが恐る恐るといった様子で質問してくる。


「私が思いついたオリジナル魔法を覚えてもらおうと思いまして。」


「オリジナル魔法?」


「はい。見て貰えば分かりますよ。」


 私はギャモーの魔力を操作し、剣に黒い魔法を纏わせる。


「もしかしてそれって……アドンを虐待した時の?」


「虐待はしていません。試合です。」


 なんて失礼なのかしら。私がアドンを虐待するわけないじゃない。


「……そう。アリエンナちゃんの中では試合だったのね。」


 明らかに納得していないような口調で言い放つアンリさん。周囲を見渡せばミザリーさんもミレイユさんも顔が盛大に引き攣っている。


 もう! 皆誤解してるじゃない。きっとこれが風評被害ってやつなのね。


※誤解ではなくただの事実です


「それにしても、なんと禍々しい魔法だ。まるで全てを吸い込む漆黒の闇じゃないか。」


 ミザリーさん? 言い過ぎじゃない?


「黒合戦ver.剣は斬撃の威力を底上げしてくれるし、小出しに放つ事も出来るので便利なんです。」


「黒合戦? 何を言っているんだ?」


「魔法の名前ですが。」


「ネーミングセンスがどこかへ旅をしているようだな。それとも私の聞き間違いか?」


 本気で訳が分からないという顔で質問してくるミザリーさん。


「黒合戦で合ってますよ。」


「アリエンナのネーミングセンスは壊滅的だな。今度からオリジナル魔法はギャモーに名前を付けてもらえ。」


 ひ、ひどい……。


「聖女様の使う魔法とは思えません。怖いです。」


 声のした方に目を向けると、ミレイユさんが私から一定の距離を取っている。


「ミレイユさん? どうして私から距離を取るの?」


「怖いからです。」


 はっきり良い過ぎじゃない?


 それにしても私のオリジナル魔法、黒合戦ver.剣は不評みたい。何にでも纏わせる事が出来て、斬って良し、放って良しの優れた魔法なんだけどな……。


「アリエンナ。お前の魔法はもっとこう……マシな見た目にならないのか?」


 見た目かぁ……。試してみようかな。


「では。」


 私は聖女の祈りを使う時の要領で、明るく健全な感じをイメージしてみた。


「これは……。」


「ひどいですね。」


 ギャモーの剣は見る者を惑わすような怪しい紫の光をギラギラと放ち、纏う魔力がバチバチと火花を散らせている。


「悪くない見た目じゃない?」


「そうですよね。」


 アンリさんは分かってくれたみたい。私もなかなか格好いいと思うんだけど。


「さっきのも酷かったがこの魔法はダメだろう。子供が見たら泣くぞ。」


「闇よりも怖いです。」


 うん。ミザリーさんもミレイユさんもきっとセンスがないんだわ。


 私は優しいから、センスがなくても二人には親しくしてあげよう。


「もう見た目は気にしない事にした。それよりも、ギャモーを起こしてやったらどうだ? うなされてるみたいだぞ?」


 本当だ。何でうなされてるのかしら。


「多分、黒合戦の見た目を変更する際のイメージがギャモーさんに影響してるんじゃないかしら。」


「それは変ですよ。私は明るく健全な感じをイメージしたんですから。」


「何で嘘つくの? どう見たって相手を嬲るイメージでしょ?」



「え? 違いますよ?」


「え? 違うの?」


 私とアンリさんは顔を見合わせ、互いに何を言っているのか理解出来ずに疑問が口から漏れてしまう。


「まさか本当に……?」


「本当ですよ。嘘つく意味なんて無いじゃないですか。」


「嘘……明るく健全なイメージがそれなの?」


「はい。明るいじゃないですか。」


 私の魔法はギラギラと怪しい光を放ち、周囲を照らし続けている。


「明るいって、光源としての意味じゃないんだけど。」


 何を言ってるんだろう。


「でも明るいですよ?」


「……。」


 アンリさんは黙ってしまった。これが論破というものなのかしら。


「アリエンナ、それのどこが健全だと言うのだ?」


「健全じゃないですか。」


「健全って……どこが?」


「たくさん火花が散っていて、健やかな感じがしません?」


「しない。非常に攻撃的に見えるだけだ。」


 変なの。ミザリーさんは多分ちょっと変なんだ。


「早く起こしてあげた方が良くないですか?」


 ミレイユさんの言う通りね。原因は良く分からないけど、ギャモーがうなされてるのなら起こしてあげなくちゃ。


 私は優しく彼の体を揺すってあげた。


「アリエンナは何でギャモーにだけ異常に優しいんだ?」


「そんなの簡単でしょ。アリエンナちゃんは愛が重い人。いわゆる重い女なのよ。」


 失礼ね。私の体重はそんなに重くないはずよ。


「私は全然重くありません。むしろ軽いです。お尻だって凄く軽いし……尻軽女です。」


「いや、その言い方もどうなんだ……?」


「聖女様、言葉の使い方を間違えてます。他の人の前で尻軽なんて絶対に言わないで下さい。」


 どういう事? 私のお尻は羽のように軽いのに……。


「本当にお尻は軽いんですよ?」


「違う意味に聞こえるので、今後は絶対に言わないで下さい!」


 ミレイユさんが凄い勢いで顔を近付け断言する。


 そこまで強く言い切るならやめておこう。


 ギルドの№1受付嬢が言うからには何かしらの理由がありそう。私は世間知らずな所があるから、ここは聞いておく方が良い気がする。

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