第75話 聖女の睡眠学習

「……本当に大丈夫なのか? 腹一杯で吐きそうな感覚がずっと続いてんだが。」


 ギャモーが具合悪そうにしている。


 そろそろ止めてあげた方がいいのかな?


「魔力を増やしたいなら我慢してもらわないとダメ。」


 魔力を送る事をやめようとしたら、アンリさんに注意されてしまった。


「何故ですか?」


「このやり方は何度も出来ないのよ。繰り返すと体に耐性が出来て、魔力を保持する器が広がり難くなるわ。」


 そうだったんだ……。


「ギャモーさんとアリエンナちゃんは結婚した事で契約状態になっているから、互いの魔力が反発し難くて器が広がり易いの。だから、今のうちに出来るだけ魔力を流し込んだ方が良いわ。」


「そういう事なら仕方ねぇか。」


「キツイかもしれないけど我慢して。既に2級上位悪魔が持つレベルの魔力量は注ぎ込まれているから……アリエンナちゃんはこのまま流し続けて。」


「わかりました。」


 ミザリーさんもその点に関しては同意してくれ、強さには直結しないが魔力を増やす事は無駄にならないので是非続けるべきなんだそう。


 そうして暫くの間ギャモーに魔力を送り続けていると……。


「もう……限界だ。このままじゃ倒れちまう。」


 既にその場に立つのもやっとな様子でフラつくギャモー。


 流石にもう止めた方が良いかしら?


「辛いなら座っても良いわ。どんな体勢になっても影響はないから、なんだったら寝転がっても良いのよ?」


「アンリさん、そういう事ではないんじゃないですか?」


「ダメよ! ギャモーさんが強くなる可能性があるなら出来る限りチャレンジしておかないと。今後何かあった時が怖いわ。」


 それもそうよね。万が一があったらいけないから、ギャモーにはもう少し頑張って魔力を増やしてもらわなきゃ。


「もう無理だ。座るぜ。」


 弱弱しくその場に座り込み具合悪そうにしているギャモー。


 頑張って。私がついてるわ。


「大体アドンくらいの量は注ぎ込んだかしら?」


「アドンとは誰だ?」


「魔神の中で二番目に魔力が多い奴の事よ。」


 何故かミザリーさんの顔が引き攣っている。


「……そんな量をいきなり注いで大丈夫なのか?」


「普通は無理ね。そんな事をしたら破裂するわ。」


 え?


「これは二人が契約状態だからこそ出来るのよ。愛の力……というわけ。」


 愛の力? 凄く良い響きだわ。


 何故だか知らないけど、どこまでも魔力を注ぎ込まなければいけない気がした。


「私、もっと頑張りますね。」


「や、やめ……」


 私は身体強化を切って魔力を流し込むペースを上げた。


「おえぇ……。」


 余程気持ち悪いのか、ギャモーは片手で口を押えて吐き気を我慢している。


「大丈夫ですか?」


「もうやめてくれ……。」


「私の魔力はまだ半分くらい残ってますよ?」


 私の発言にギョッと目を見開くギャモー。


「もう半分を注ぎ込むまでは終われません。」


 ふらりと私の方へ倒れ込むギャモーを咄嗟に支え、膝枕の体勢にしてあげた。


「可愛いわ。きっと私に甘えてるんですね。」


「……絶対に違うだろ。」


 ミザリーさんは渋い顔で否定的な事を言っているが、きっと恋愛があまり分からないのね。少し男っぽそうな感じがするし、一般的な女性とは感覚が違うのかもしれない。






 あれから全ての魔力を注ぎ込み、今の私は保持魔力が空っぽだ。


「……アリエンナちゃんはどうして魔力無しでも元気なの?」


「どういう意味ですか?」


 アンリさんの話によれば、魔力を使い切ってしまうと気絶してしまうのが普通らしい。なんともない顔で普通に意識を保っている私が大層不思議なんだそう。


「そんな事を言われましても、私には良く分かりません。」


「我が孫ながらかなりの不思議生物ね……。」


 それは酷くないかしら?


「ギャモーさんが起きるまでは待つしかないわ。取り敢えず私達が護衛してるから、アリエンナちゃんはそのままギャモーさんを休ませてあげて。」


「分かりました。」


 休ませるのも大事よね。


 でもただ待つのも暇だし……そうだ!


「ギャモーに睡眠学習を施してあげましょう。」


 魔法の使い方のイメージをギャモーに送ってみた。


 眠っている相手でもイメージを送れば覚えられるんじゃないかな?


「アリエンナちゃん? 何してるの?」


「睡眠学習です。眠りながら勉強出来る方法を考えたので、早速実践しています。」


 以前もギャモーに身体強化のイメージを送り、魔法を覚えさせる事に成功している。今回彼は眠っているが多分大丈夫な気がするわ。


「更に体内の魔力を操って……と。」


 ギャモーの体内を循環している魔力を操作し、魔法を実践させてみる。


 彼の手からは特級魔法“獄炎”やベーゼブが使っていた黒い魔法が次々と放たれ、向こう側からは爆音が聞こえて来る。


 そして、魔物達が悲鳴をあげてこちら側に吹き飛ばされてきた。


「凄くしっくりきますね。」


 まるで自分の体で魔法を使っているような使用感であった。


「……何で眠っているギャモーさんが魔法を使えてるの?」


 アンリさんが渋い顔で質問してくる。


「私が魔力を操作して使わせてみました。」


「私達が巻き込まれるからやめて頂戴。」


 注意されてしまった。


 仕方ないので、規模の小さな魔法にしよう。

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