第77話 聖女の旦那

「うぅ……。」


 ギャモーは目を覚まし、ダルそうに体を起こした。


 魔力を大量に注ぎ込まれるって大変なのね。


「大丈夫ですか?」


「あぁ。まだ気持ち悪いが、さっきよりはマシだぜ。」


 良かった。ずっと体調不良のままだと心配だもの。


「もう終わったのか?」


「バッチリです。睡眠学習も施しておいたので、すぐに魔法も使えますよ。」


「お? 睡眠学習? がなんなのかは知らねぇが、魔法が使えるならなんだっていいか!」


 ギャモーの顔は心なしか嬉しそうだ。


 もしかすると、魔法に対する憧れのような気持ちがあるのかもしれない。


「せっかくだから試してみたらどうだ? 本当に魔法が使えるようになるのか私も知りたい。」


 ミザリーさんは睡眠学習に疑問を覚えているようで、魔法の使用を促している。


「今なら使えそうな気がすんぞ。取り敢えずやってみるか。」


 ギャモーは私が流し込んだイメージ通りに魔法を使用し、特級魔法“獄炎”を空に向けて放つ。


 周囲に被害を及ぼさないよう配慮する辺りが彼らしくて素敵だわ。


「マジか……。本当に出来ちまった。」


「本当に効果があったのか……。」


 ミザリーさんは今の今まで疑っていたようだ。


「前によ。アリエンナの母ちゃんに魔法を外に出すのが出来ないタイプだって言われてたんで、魔法は諦めてたんだが。」


 確かに言われてたわ。


「出来ないというよりは、苦手って意味だったんじゃないかしら? アリエンナちゃんがイメージを送る事でコツを掴めたのね。」


「コツとかそういうレベルじゃない気がします。」


 ミレイユさんはビックリしたのかその場にへたり込んでいる。


「今度は剣を強化する魔法だぜ。」


 ギャモーは私のオリジナル魔法、黒合戦ver.剣を発動した。


 彼の剣には漆黒の闇が纏わりついている。


「ぐっ……こりゃ制御が難しい。」


 そう言いながらも剣を巧みに操り、剣からは黒い衝撃波を放っている。


 流石に武器の扱いは私よりも断然上手い。


「この魔法はもっと練習しねぇと実践は無理だな。」


「凄いわね。剣士としての技量は超一流だわ。魔法の制御さえ完璧なら、ベーゼブにも勝てるかも。」


 旦那が褒められると私の鼻も高いわ。


 それにしても、剣の扱いが私の想像以上に凄いみたいね。アンリさんが言うんだからきっと間違いない。


「他にも試してみるぞ。」


 ギャモーは身体強化を発動し、一気に強化の割合を引き上げていく。


「凄ぇぞ! まだまだいけそうだ!」


 そう言って身体強化を上限まで引き上げた彼の強さは魔神に近いレベル。これ程強いなら人間界には敵なんていないわね。


「アリエンナちゃんの送り込んだ魔力が既に馴染んで定着しているわ。身体強化の上限もほぼ同レベル。送り込む際にロスした分もあるから、アリエンナちゃんより若干少ない程度の魔力量ってところかしら。」


「では、ギャモーさんは聖女様と同じくらい強いという事ですか?」


「流石にそこまでじゃないわ。肉体の基礎能力がアリエンナちゃんに比べると大きく劣るから、現状だと魔神よりも少し弱いくらいね。」


「……十分過ぎるだろ。」


 ミザリーさんはギャモーの強さに圧倒されている。


「これなら……俺でもアリエンナを守れるな!」


 ニカッと笑みを見せるギャモー……。


 明らかに私より弱いはずなのに、それでも守ろうとしてくれる。


 そんな彼だからこそ……婚姻届けを出して良かったのだと心の底から思えるわ。

※婚姻届けはアリエンナが勝手に出しました


「イケメンじゃないのにイケメンな男の人は初めて見ました。」


 ミレイユさんってば結構失礼だわ。ギャモーの顔は失礼だけど心は錦なんだから。

※アリエンナの方が失礼です


「ギャモーは無骨なだけで、言う程悪い顔じゃないだろ。」


 そうよ。ミザリーさんの言う通りよ。


「私は結構イケメンだと思うんだけどな。」


「アンリ様は少し目が悪いかもしれないです。」


「なぁ……俺の顔の品評会はやめてくれ。微妙に傷つくぞ。」


 ギャモーがガックリと肩を落とす。


「あと、ミレイユは言い過ぎだろ。」


「すみません。つい……。」


「まぁ、はっきり言うのは悪い事ばかりってわけじゃねぇ。俺は嫌いじゃないさ。」


 え……うそ?


 まさかこれがネトラレ?


 ミレイユさんはギルドでたくさんお世話になったし、しかも友達だからブッ叩けない。私は一体どうすれば……。


「……浮気ですか?」


 目に涙を浮かべ、ギャモーを問い詰める。


「お、おい! 泣くなよ! 今のやり取りのどこに浮気の要素があるってんだ?!」


 ひたすらオロオロと慌てる彼は、手を伸ばしたり引っ込めたりと挙動不審な様子を見せながらも恐る恐る私を抱き寄せる。


「浮気なんかしねぇって! 俺は見た通り全くモテねぇんだぜ?」


 ギャモー……。


「それもそうですね。」


 納得したら、途端に気持ちが晴れ渡る。全く、私ってばどうしてこんな事でくよくよしてたのかしら?


「確かにモテねぇが、そんなに一瞬で納得されんのはショックだぞ?」


「ごめんなさい。」


「まぁ、良いけどよ。」


 後でお尻を触らせてあげよう。男の人は私のお尻を触りたいみたいだし。


「……私、もう魔界に帰っても良い?」

「私も家に帰るぞ。」

「完全に二人の世界ですね。」


 あら? 恥ずかしいところを見られちゃったわ。

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