第70話 聖女の試合観戦

 結局、部隊を三つに分ける事で話は決着がついた。


 城の守りはベーゼブとアドンを筆頭に、その配下達。


 ならず者討伐部隊はマルコスと推ししか勝たん。


 そして、バルバス討伐部隊は私とお母さん、アンリさんとその配下達が。


 役割を確認した後、私達はバルバス領へ転移した。


「ここからバルバスの城までは歩いて四日くらいだ。」


「結構栄えた街なのね。」


「あぁ。ここはバルバス領でも三番目に栄えてんだ。」


「観光したいわ。」


「お母さん。それはバルバスを倒した後にしようよ。」


「そうね。」


 私達バルバス討伐隊は城に向けて走った。


 20分くらいでバルバスの城に着いたのは良いんだけど、私とお母さん以外は疲れてしまっている。


「あ、あんた達速過ぎ……。見なさいよ! 皆着いて行くだけでやっとじゃないの!」


 アンリさんが怒っている。カルシウム不足?


「ごめんごめん。でも、なんだかんだで早く着いたから良かったんじゃない?」


「これから戦うってのに、こんなに疲れさせてどうするのよ!」


「別に大丈夫じゃないですか?」


「バルバスには配下もいるのよ?」


「配下の人はどのくらい強いんですか?」


「俺の知ってる限りでは、バルバスの配下は1級悪魔が四体と2級悪魔十体は居たな。一万年くらい前の話だからまるであてになんねぇけど。」


 昔過ぎてあてにならない。


「仮に1級悪魔が十体居ても紙屑のように千切ってあげるから安心して。」


 お母さんはそういう事を言うから怖がられるんだと思う。


 アンリさんの配下達は完全に怯えてしまっている。当たり前よね。


 自分達だって1級でしかないんだから、お母さんを怒らせてしまえば今度は自分の番になる可能性がある。


「千切るのはやめなさい。もしかしたら、バルバスを倒した後は味方になってくれるかもしれないんだからね?」


「はいはい。仕方ないから、バルバスを千切る事にするわ。」


「前回は私がルシーフと戦ったから、バルバスはお母さんに譲るね。」


「ありがとう。まぁ、あれは戦いというより虐殺だったけど。」


 もう、恥ずかしいからその言い方はやめてよ。


「アリエンナちゃんは怒らないように気を付けてね?」


「そんなすぐには怒りませんけど。」


「……なら良いわ。」


 イマイチ納得がいってないという顔だ。


「さてと……これで休憩も十分したし、バルバスの所に行くわよ。」


 城の中へ侵入すると、バルバスの配下達が待ち構えていた。


「大人しく降伏すれば殺さないけど、どうする?」


 お母さんがいきなり脅しつけている。こちらのメンバーを見て敗北を悟ったのか、バルバス配下はあっさりと降伏した。


「戦う必要もなかったわね。」


 私とお母さんは身体強化を全開で発動しているから戦力差はすぐに理解出来たんだと思う。


 悲しい事に、私を見て「化け物」と言った奴がいたので後でブッ叩いておこう。


 私達はバルバスの元配下に案内され、ぞろぞろと大人数で城内を闊歩する。


「バルバスってどんな奴なのかしら?」


「私の領からは遠くて会った事がないのよね。」


 アンリさんも会った事が無いんだ。


「バルバス様は……力が強いタイプの魔神です。肉弾戦が大好きで、魔法はあまり使いません。」


 バルバスの元配下の一人が助言してくれた。


「そうなんだ? 私の好みのタイプね。」


「その反面臆病で、自分よりも強くなりそうな相手は絶対に許しません。」


「……私の嫌いなタイプね。」


 え? どっちなの?


 何気ない会話をしながら歩いていると、とうとう奥の間へと辿り着いた。


「じゃ、今回は私が戦わせてもらうわね。」


 お母さんは上機嫌で扉を開け放った。


「たのもー!」


「誰だっ! 勝手に俺の部屋に入るなと言って…………」


 何? バルバスが私を凝視しているんだけど。


「何だ貴様は!? どうやってその強さを得たっ!」


「普通に戦っていたら強くなりました。」


「そんなワケあるか! さては魔神核を複数持っているな!?」


 そんなの持ってないんだけど。


「よこせぇぇー!!」


 バルバスが魔神形態に変化し突撃してきたけど、お母さんが間に入って止める。


 それにしても頭が悪そう。


「はいはい。あんたの相手は私よ。」


「邪魔をするなっ!」


「邪魔っていうか……あんたを討伐するのは私の仕事だし。そもそも、この娘はどれだけ低く見積もってもあんたより格上なのに、どうやって勝つつもりよ?」


「魔神核さえ奪ってしまえばどうとでもなる!」


「ならないって。」


「お前も魔神だな? 先ずはお前から奪うとしよう。」


 お母さんとバルバスの戦いが始まった。



 バルバスは即座に掴み掛かろうとし、お母さんとがっちり両手を組み合う。


「力比べか? いかに同じ魔神といえども俺には敵わんぞ?」


 バルバスの両腕には凄まじい力が込められているのか、ミシミシと軋む様な音を立てながらお母さんを徐々に後退させている。


 確かに力は強いみたい。パワータイプなだけあるわ。


「くっ……コイツ、良い具合に強い。面白い!」


「俺に力で敵う魔神なぞ存在せんわ! このまま捻り潰してくれるっ!」


「ぐうっぬぬぬぬうう!!」


 あっ……お母さんの身体強化魔法の出力が徐々に上がってきている。


 というか、お母さん? 乙女がしちゃいけない顔になってるよ?

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